第33話 紅葉さんとお風呂に入った:前編
本日二度目の更新です。
=====
アニメを観終えた私達は、「DVD版に期待だな」という結論を出すと、笑い疲れたように座り込んだ。
「ねえ。今日はもう寝ない?」
「愛弓さんを12時前に寝かせるなんてすごいね。『メトロトレミー』」
「いやあ、これから何かゲームとかできる?絶対無理だって」
「確かに。もう一週アニメ観ます?面白くなってるかもしれませんよ?」
まだ夜も深くないのに、愛弓さんも私も少し変なテンションになっていた。
「もう既に相当面白かったけどね」
紅葉さんがソファで脚を組みながら言った。
この人こんなクールぶってるけど、さっきはめちゃくちゃ笑ってたからな。
「じゃあさ、お風呂入れるね」
愛弓さんが、部屋を出ようとすると、青葵が声をかけた。
「あの、まだ終電あると思うんスけど」
「だめだめ。絶対危ないから。泊まってね」
「すいません!お世話になります!」
青葵が来て、ようやく我がグループにも社交辞令が導入されたようだ。
「紅葉が免許とってくれたら、もっとフットワーク軽くなるんだけどね」
「取るなら私、愛弓と一緒に行くから」
「私達5人だから二台もいらないでしょ~。紅葉がでかいの一台買ってよぅ」
紅葉さんと愛弓さんの二人がいつものやり取りを交わしていた。
そういえば、先輩二人はもうすぐ免許取れる年齢になるのか。
「あ、でも全員お風呂入ったら、寝るの、結構遅くなっちゃいますね」
瑞羽ちゃんが言った。
この時間軸は知らんけど、前の時間軸での瑞羽ちゃんは結構風呂が長かったと思う。
「うちはいつも一緒に入ってるよ」
「え!?」
驚いたように瑞羽ちゃんが私の方を見た。
でも、残念ながら私は一緒に入ってないんだな。
「紅葉さんが愛弓さんと入りたがるから、いつも私は一人だよ」
「音ちゃん、かわいそう!ごめんね、私が紅葉にモテるばっかりに!」
愛弓さんが言った。どちらかというと、紅葉さんに謝ってほしい。まあ、私は一人でゆったりと入りたいんだけど。
「いや、まあ。全然構いませんけど。紅葉さんの唯一の欠点ですからね」
「…欠点、なんですか?」
瑞羽ちゃんが食いついた。
「ああ、昔は愛弓さんも紅葉さんにべったりだったんだけど、今はあんまりだからさ、紅葉さんが一方的になってるんだよね」
ちなみに、高校では単なる仲良しだと思われている。
「ちょっと音。正直に言うの止めてくれない?大体、愛弓が私から離れだしたの音のせいなんだけど」
私のせいではないだろう。
「へー、そういえば、紅葉さん達と音ちゃんが出会った時の話、聞きたいです」
なんだろう。この話のことになってから、瑞羽ちゃんの食いつきがいい。
「あー、いや。『メトロトレミー』の舞台の前に脅迫状が届いたことがあったんだけどさ、そのときかな。音と仲良くなったのは」
「…そうなんですね」
瑞羽ちゃんが浮かない表情をしている。
…あ、そういえば、瑞羽ちゃんはまだ自分が脅迫犯だということを二人に明かしていないんだった。
私は正体を明かしていないから謝られようがないが、中田愛弓に謝る機会は与えた方がいいかも知れない。
私は紅葉さんをちょいちょいと呼び寄せた。
「紅葉さん、今日は瑞羽ちゃんと愛弓さんに一緒にお風呂に入ってもらいません?」
「嫌だよ」
「そこをなんとか」
「
「ほら?瑞羽ちゃんが脅迫犯だってこと、私達は知ってますけど、瑞羽ちゃんは隠したままで辛そうじゃないですか。だから、裸で、腹割って話してもらおうかなって」
「あー。それさ、思ってたんだけど、瑞羽ちゃんってホントに脅迫犯なの?とってもいい子じゃない?」
「そこは確実なんです、なんとかお願いできませんかね」
「嫌だね」
なんでだよ。
紅葉さんに話しても埒が明かないと考えた私は、愛弓さんにお願いすることにした。
「愛弓さん!愛弓さん、瑞羽ちゃんと二人でお風呂に入りたくありませんか?」
「入りたいけど、なんで?」
愛弓さんは基本的に可愛い女の子が大好きだ。
もちろんペットに寄せるような感情である。そうでなければ私は瑞羽ちゃんとお風呂に入ることを許可したりしない。
「瑞羽ちゃんも、打ち明けたいことがあるんじゃないかと思いまして」
「ふーん。私は気にしてないけどね。それで、紅葉はどうするの?」
愛弓さんは本当に察しがいい。
けど、私に言わせれば知らないことを知らないままにしていれば悲嘆にくれたまま死ぬことになるぞ。
「だから、二人で協力すればなんとかなるんじゃないかと思いまして」
「じゃあ、音ちゃんの役割は、紅葉を慰めることね」
「へ?」
そういうと、愛弓さんは「紅葉~」と言って紅葉さんの視線を誘導すると瑞羽ちゃんの顎を手に載せ、彼女に軽く口付けした。かわいそうに瑞羽ちゃんは固まってしまっている。
「紅葉、私、紅葉のこと嫌いになっちゃったから、今日は一人でお風呂入ってよね」
愛弓さんはツーンとしたまま部屋から出ていってしまった。
「ちょっと待って愛弓!嫌いってどういうこと!」
愛弓さんはきちんと冗談っぽい感じで言っているにも関わらず、紅葉さんは深刻なダメージを受けていた。
唐突に幸せな夢から醒めてしまったかのように、紅葉さんは手を愛弓さんに向けて弱々しく伸ばしていた。
慰めるってそういうことか…。
私は青葵と二人で紅葉さんを両側から挟み込み、「愛弓さんもあんなこといって冗談に決まってるじゃないですか」、「あのくらいのキス、大人が子供にやるようなものですって。ほら、瑞葉、乳臭えし」と、項垂れる彼女を必死に慰めていた。
でも青葵、高校二年生の瑞羽ちゃんに対して乳臭えはないと思うよ。
紅葉さんは「うん…うん…」と小さく頷いていた。
瑞羽ちゃんと愛弓さんは仲良く二人でお風呂から出てきた。
愛弓さんはなんだかつやつやしていて、瑞羽ちゃんはモジモジしていた。
イメージとは違う結果だったが、まあ険悪にはなってなさそうなので大丈夫だろう。
「次、誰入る?」
愛弓さんが言った。
「紅葉さんと音が入ります!」
青葵が言った。
「え、なんで私達?」
「だってよ、紅葉さんと私なんてこの五人で高身長2トップだぜ。シュール過ぎるだろうがよ」
「別々に入ればいいから!」
「だめだめ。湯が冷めちゃうから。我が家は湯の継ぎ足し禁止だからね!」
愛弓さんがふざけていった。嘘つけ!金持ってる癖に!
ちょこん。
うん?引っ張られた感じがして下を見てみると、紅葉さんがなんと私の袖を掴んでいた。
紅葉さんまで…
「分かりました!入ればいいんでしょ?入れば」
こうして、私と紅葉さんは共にお風呂に入ることになったのだった。
======
あとがき
初めての前後編が入浴シーンだったなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます