第29話 沖宮青葵と話したよ

まえがき


作中トップの常識人、沖宮青葵が登場します。


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その後、部屋のレイアウトからは想像できないような菓子盆を持って、沖宮さんが部屋に戻ってきた。

「…なんか、見たことない菓子が出てくるのかなって思ってました」

「なんだかんだ、コンビニの菓子が一番美味いからね」

「え、なんで?あ、こんな部屋だからか。いやぁそんななんでもかんでもゲームフロアっぽくするわけじゃないって」


「あー、それでさ。小園井ちゃん。あんたはどうしてここに来たわけ?」

沖宮さんは自分の家だというのに居心地悪そうにいった。


「それは、えーっと感謝を伝えに来ました」

「えっ?」


これは本当。

三年もの間、あんな厳格なチャットに参加してくれたことには感謝をしなければならないだろう。


「…なんの感謝よ」

沖宮さんは訝しげにいった。しかし、くじらの小部屋の話しをするわけにはいかない。


「瑞羽ちゃんが、お世話になったから。とか?」

「おい。瑞羽。こいつなんかやばくね?」

「大丈夫だって!今は緊張してるだけだもんね?ね、音ちゃん」

自分でもやばい奴だとは思うよ。


とりあえず、誤魔化す。

「うん。えっと、友達が欲しくて」

「ああ?必要ねえだろ」


沖宮さんが驚いたように言った。

声も低いし、口調も荒いし、阿古照樹の優しさを知らなければこんなにスムーズに会話は出来なかっただろう。


私は意外と、怖がりなのだ。


「必要ないってなんですか」

「いや、そりゃお前、中田愛弓に秋窪紅葉なんて交友関係としたらSSRだぜ?播川瑞羽は…顔はいいからNRノーマルレアよか上か。とにかく、もう友達なんて増やさなくていいだろ」


「青葵、最低」

「うるせぇ」

瑞羽ちゃんと沖宮さんが慣れた様子で口論を始める。


「ちょっと待ってください。どうして、愛弓と紅葉のことを知ってるんですか!?」

「ああ、そりゃあお前。中田愛弓をフォローしてるからだろうよ。こう見えても私、『メトロトレミー』の大ファンなんだぜ」


それも知ってるけどさ。それにしたってあんな見知った様子で話すものなのだろうか。


「あ、それとね。青葵は私にさっき話したVtuber辻凜花の特定も、手伝ってくれてるんだよ!」

「瑞羽っ!お前人様ひとさまになんてこと話してんだ!」

「大丈夫だって。さっき話したけど、音ちゃん引かずに聞いてくれたもん!」

「んなもんおめえ!引いてなかったら引いてなかったでやばい奴じゃねえか!」

話に乗っかってやったのにひどい言い分である。


沖宮さんが、チョコをつまみながら私の方を向き直った。


「こんな奴だからさ、あんま言ってること真に受けてやんなよ。具体的に言うと、さっきの発言とか。私、Vtuberの特定とかやってねえから」

「そうなんですか?」

「ああ、ええっとくじらの小部屋の話は聞いたか?あの中でちょっとゴタゴタがあってな。それで、ちょっとこいつがあまりにも可哀想なもんだから、頑張り方を教えてやっただけ」


「青葵、こんなに口汚いけど、すっごく優しいんだよ!配信の内容からすぐに、活動圏当てちゃったんだから」

「だからやめろって!多分、凜花は許してくれっけど」


現に今、目の前で許してるよ!ビビってはいるけど。


「あ、ちょっと瑞羽、下いってハンクに餌やってきてくんね?」

「なんでよ」

「いいから、空気読めって!」

空気読めという命令は理不尽だと思うが、瑞羽ちゃんは小さく「はぁい」と呟いて部屋から出ていった。


すると間もなく、沖宮さんが声を潜めて言った。

「あいつ、やべえからさ。お前に近づいたのだって、多分辻凜花を探すためだ」

「…まず、お前っていうのやめてください。小園井でいいです」

「ああ、そう。ごめん。小園井も、タメでいいよ。青葵って呼んでくれて結構」


青葵は、一切悪ぶれる様子もない。

というか、本当に悪気がなかったんだろうな。


「私も、あいつとは結構長いんだけどさ。あいつ二年もチャットで話してた私に会ったってのに、凜花の話しかしやがらねえ。あんたも、中田愛弓に近いからって擦り寄られただけだと思うぜ」

「そんなことないと思うよ。瑞羽ちゃんはきっと、青葵にも感謝してる」

「ああ?なんか、お前も変な奴だな」

「っていうか、そんなひどいと思うならなんで一緒にいるの?」

「そりゃ、おめー腐れ縁だよ」


瑞羽ちゃんは、絶対に青葵のことも大切に思っている。

くじらの小部屋は、辻凜花、亜萌天子、阿古照樹の三人なんだから。


「青葵はさ、優しいし、周りも見えてるからさ、甘えちゃってるんだと思うよ」

あ、よく見たらこの菓子盆、甘いのばっかだな。


顔を上げると、青葵が不思議そうな顔をしていた。

「…なあ、小園井。変なこと聞くようだけどさ」

「なあに」

、患ってたりする?」


「ううん。そんなことないよ。どうして?」

「んにゃ、なんでもねーよ」


その時、ちょうど瑞羽ちゃんが戻ってきた。

「もう!ハンク寂しがってたから連れてきたよ!」

ハンク君は全然遊びたがってるようには見えないが、やれやれという感じで着いてきていた。


「あ、ばかやろっ!この部屋は駄目だって。ほら、全員下行くぞ!ハンク用の遊び部屋作ってんだから」

「え!いつのまにそんなの作ったの?」

「この近く、公園もねーから、家で遊ぶしかねーだろ」


「あっ!連絡先の交換終わった?」

部屋を出ようとすると、瑞羽ちゃんが言う。


「は?」

「え?私を追い出したのって連絡先交換したいからじゃないの?」

「なんで私がそんなガチで狙ってるときの合コンみたいなことしなきゃなんねーんだよ」

確かに。でも偏見だけど青葵合コンとか行ったことなさそう。


「あ、でも青葵。LINE、教えて」

「お、おう」


くじらの小部屋のメンバーは、こうして再結集したのだった。


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あとがき


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