第24話 生配信を観たよ

まえがき


人物紹介 播川瑞羽[はりかわみずは]


現在中学二年生。脅迫犯。背の小さい根暗ヤンデレ。

中学生時点では至って平凡な茶髪のストレートヘアーをしていて、それほど目立つ方ではなかった。


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〈播川瑞羽目線〉


最近、『メトロトレミー』にはよくないが来ていた。


舞台化の決定…自体は構わないだろう。だが、それによって公式が特定の個人をキャラと紐付けしたことは到底許せることではない。


そもそも、私の属するくじらの小部屋然り、『メトロトレミー』には、多くのなりきりと呼ばれる人種がいる。それらを押しのけて、大して『メトロトレミー』のファンじゃない奴が、を貰って、亜萌天子に成り代わろうとしたことが信じられない。


図々しいにもほどがある。


というのは、である。しかし、これは私にとっちゃ大した問題じゃない。


私は元々、それほど熱心ななりきり勢ではない。くじらの小部屋に入ったのだって、単に青葵に誘われたからだ。


しかし、世間にとっちゃ大したことじゃなくとも、私にとっては致命的だった問題がある。


それは凜花の存在である。私は、凜花を、凜花の聖域を守りたいのだ。


播川瑞羽という存在は元々なんというか、学校に馴染めていなかった。

別に、いじめられていた…ってわけじゃない。


毎回毎回、クラスで一番の人気者とか、中心人物とか、そういうたぐいの人種とソリが合わないのだ。


どうしたって、である。

私自身はそれほど、自分に問題があるのだと思ったことはないのだけど。


だから、そんな私が『メトロトレミー』にハマったのは、ある種当然だといえた。今、新たにネットに入った人間、特に女子中高生は蟻地獄のように『メトロトレミー』に吸い込まれていく。人気の動画サイトなどに触れていればいやが応でもランキングなどで目につくからね。


そしてあまりに流行っているから気に食わない!となる人種と、面白い!とハマる人間。

我々はある種機械的にその二種に分類されていくのだ。


そしてその二種がいい具合に対立しているからより広がっていく…そんな、言ってしまえば流行り方をしているのが『メトロトレミー』なのである。必然的にファンの話題は、『メトロトレミー』周辺で起こった事件に限られる。


当時の私含め、ファンはキレながらSNSを毎日チェックすることになるのだが、そんな日々を変えてくれたのが、くじらの小部屋だった。


そこには辻凜花に扮したなりきりの人がずっと前からいて、ちょっと、いや、かなり変な人だった。

なんと凜花は、ニュースなんか気にせずに、ずっとずーっとなりきりに専念していたのだ。


始めはやばい人間もいたもんだと思っていたが、段々私も青葵も彼女の影響を受けて、気づけば、界隈の事件を気にせず純粋に『メトロトレミー』を楽しみ、私の居場所はSNSからくじらの小部屋に移るようになっていった。


いや、一応ニュースを追ってはいた。追ってはいたが、張り付くようなことはしなくなった。


あと、誰かが『メトロトレミー』一番ファンなのかというマウント合戦をしている際に「あ~あ、こいつら狭い世界で戦ってんな」とも思うようになった。


どれだけレアなグッズを持っていようが、一人でなりきりをしていた狂人である凜花の熱狂に適うはずがないのだ。


それから、私の幸せななりきり人生が始まったのだった。


SNSもやっていない、謎だらけだった彼女の為人ひととなりが段々と分かってきて、仲良くなったとき、ある事件が起こった。


彼女がなんと、舞台に興味を示したのだ。朴念仁の凜花が、である。

そして、あまつさえ舞台に登場する天子を、この私の事を指す天子と同一視し始めたのだ。


その時ふと思った。

この凜花にとっては、画面の向こうの私なんてなんの意味がないのじゃないかって。


そんなのおかしい!って思う。


私は、「なりきりが楽しい」んじゃなくて、「凜花と話すのが楽しい」のに、彼女は、画面の向こうの私なんていてもいなくてもどっちだってよくって、なりきってさえいれればいいだなんて。


私にはもう、凜花の中の人のことだって分かるようになってきていた。いくら女子高生のキャラクターになりきっていたとはいえ、会話の取り扱う内容から彼女が私と同年代の女子であるということは分かりつつあった。


凜花は、私の事をそこまで考えていてくれたのだろうか。私の年齢を考えてくれたことはあるのだろうか。

そう思うと、私は苛立ってたまらなくなった。


だって、だってだって。

私の居場所はここなのに。ここしかないのに。


なんで今さら、舞台に目を向けたんだろう。

凜花は今、どこを見ているんだろう。


舞台が近づくにつれ、凜花の調子はますますおかしくなっていった。


今まではYoutubeなんて口にも出さなかったのに、積極的に流行りのニュースに口を出すようになってきて、いつもは受け身だったのに、自分から声をかけてくるようになった。


ここまで来ると、もう彼女のことが私は分からなくなってしまっていた。突然、別人になってしまったようでいて、別人だとも思えなくて。


以前よりニュースを気にする癖に、チャットにいる時間は短くなったし、会話も何だか意図的に誘導しているような、そんな感じがした。


青葵は気にしてないみたいだけど、どうしたっておかしい。作者の在野恵実だってそうだ。変な人だとは思っていたけど、今ほど意味不明なことばかりはしていなかった。


私の人生が、変わっていくような、くじらの小部屋を見つける前にような、そんな感覚。


しかもそんな中、新たに加わったVtuber辻凜花計画。


ふと思った。

こうして、実在の存在としてのキャラが登場してしまったら、なりきりチャットは消え去ってしまうのだろうか。


XXX


その日は、いよいよVtuber辻凜花の初配信日だった。


Vtuber辻凜花なんて認めない!と思ってはいたのだが、それにしたって彼女は思った数倍ひどかった。


演技はだめだめだし、凜花のイメージに反して声は高いし、何より取り扱ってる内容も、金の話とか裏話とか、下世話な内容ばっか。


こんなのじゃあ、私が叩くまでもなく終わるんじゃないかと思った。事実批判は日に日に強まっていった。しかしそれでも、くじらの小部屋の凜花は彼女を庇い立てる。


このままじゃあなりきりがなくなるんじゃないかと思って、脅迫文を何度も送りつけてやったのに、全然辞める素振りも見せやがらない。


もう、何もかも、めちゃくちゃだ。


でも、それも今日で終わりだ。今日の配信で、全てが終わる。


私がVtuber辻凜花のファンを装って、他の人気配信者を荒らして来てやったのだ。

これで、初配信にして、大荒れの配信を彼女は味わうことになる。


配信が始まると、やはり以前から気になっていた点が目につく。用意された完璧なプロフィール、聴きやすいBGM。他の誰だって、こんな配信をしている個人はいない。それなのに、喋っているのはどう見たってド素人。

やはり、どこかの企業が新人タレントを売り出すためにやっている、という世間の噂が最も妥当に思える。


在野恵実さんの考えか、どこかの企業が裏で手を引いたのかは分からない。

それでも、この配信に漂う何か嫌な気配を、私はずっと感じていた。


淡々と自己紹介をしている辻凜花。荒らしには一切目を向けない。

あまりにコメントを読まないから、荒らしの人たちも段々手段を変えてきた。


最早、多くの人が自己紹介より荒らしと喧嘩したり、荒らしコメントを楽しんでいる状態。

これじゃあ、もう終わりだろう。


いい加減観念しろ!Vtuber辻凜花!!!


しかもダメ押しに、辻凜花がスーパーチャット?と呼ばれるコメントだけを読み上げたのだ。

そこから荒らしは更に激化した!馬鹿だなぁ。


守銭奴で演技下手の、コミュニケーションも取れない奴の、くだらない配信。


そのままで、終わるはずだった。


「済まない。色々なコメントを読みたかったのだが、頭が追いつかず、目に付きやすいスーパーチャットを読んでしまった」

「だが、さっきから騒ぎすぎだ。コメントを読まれたいのだと思うのであれば、もう少し読みやすいコメントを心がけて頂きたい!!!」

「スーパーチャット、以降、スパチャと呼ぶが、将来的にはこうしたコメント方法は一般的になるだろうと考えている。どうせ手のひらを返すのであれば、今返していただきたい!」


無茶苦茶だ。そんなこと、曲がりなりにも商業作品の皮を被っていうことではない。

でもそこから、彼女は段々と勢いを増していった。


「だいたい、このプロフィールだって用意に時間がかかったんだ。コメントを読んでほしいならまず順番だろう。待ってろ」

「『メトロトレミー』批判は読まんぞ。『メトロトレミー』が嫌いだと言う人間はそもそもこの配信をわざわざ観て頂かなくとも結構だ。好きになったら見に来い」

「あ?メタい?私は今この場に実際に存在していて、『メトロトレミー』という作品を知覚している。それの何がおかしい。重要なのは事実のみだろう。何もおかしいことなどありはしない」


荒らしコメントを打つ手が、震えた。

「…凜花?」

私は気づけば、言葉を漏らしていた。


この、なりきりに徹することへの異常なこだわり、ずば抜けた『メトロトレミー』知識。わざわざ作中の凜花っぽく話し方だけでなくキレやすい性格まで模倣する徹底っぷり、凜花っぽく軟弱な姿勢は容赦なく批判する考え方。俗世を嫌いながらも、人文をこよなく愛する態度。


全てが、凜花。そのままだった。


ああ、そうか。彼女はとうとう、本当の凜花として私の前に現れてくれたんだ。

通りで、Vtuber辻凜花に興味津々だったはずである。


なんとしても、彼女に会わなければ!!!

あ、ていうか!とりあえず脅迫文送ったことを謝らないと!


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あとがき


瑞羽ちゃん、割と頭がいいので逆に「あれ、この娘なんでこんなことしてんだ?あ、そういえばヤンデレなんだった」ってなることがよくあります。


頑張って書き直したからか、頂ける評価の数が日に日に増して嬉しい限りです。いつもご愛読くださっている皆様誠にありがとうございます。

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