第9話 失恋したよ

まえがき


人物紹介 沖宮青葵[おきみやあおい]


本作のサブヒロインの一人。一章では脅迫をしてくる。

本作のヒロインは全4人だが、一章の段階で既に二人が脅迫をしていることになる。


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八方塞がりという言葉がぴったりな状況になった私は、ひとまずオソノイとの携帯での連絡を控えるようになった。


私は沖宮青葵という人間の事はよく知っている。彼女が本気で脅迫しているのであれば、恐らく私の生活は全て彼女に筒抜けになっているということだろう。


あいつは、機械には滅法強い。


あの臆病な少女にとってSNSアカウントに張り付くといったことなんかはお茶の子さいさいだろうし、盗聴も当然していることだろう。


もし気づけたとしても私には彼女を訴えることは出来ないしね。恐らく好き放題私のプライバシーを侵害して、最後まで私の前には出てくることなく復讐を終えるつもりだろう。


となれば、やれることは一つしかない。


それ以降、私はオソノイに会えなくなった放課後を秋窪との情報収集に充て、その分学校でオソノイにひっつく事にしていた。焦燥を感じていた私にとって、その時間が唯一の休息である。。


オソノイはすごい。世間に一切影響されないし、周りのことなんてあまり気にしていないんだけど、いつも何かについて考えている。哲学とかってよくわかんないんだけど、アリストテレスとかって多分オソノイみたいな人だったんじゃないかと思う。


欠点といえばちょっと正直すぎるところだけど、でもそんな正直者の彼女から言われたからこそ、聞き慣れた「可愛い」でさえ、あんなに胸が高鳴るのだろうと思う。


なんてのろけてみたり。


正直者の彼女は、私を可愛いと思ったらどんな状況でも必ず伝えてくれる。そう思えば、彼女には一切欠点がないのではなかろうか。


顔だって周囲に知られてないだけで、顔を見ることさえできれば彼女が美少女であることはすぐ知れ渡るだろう。


その反面、唯一頼ってもよいと思えた秋窪はだんだんとその本性を顕にしてきていた。その日は再び彼女の家で作戦会議をしていたのだが、そこでも彼女は、話をしてくる。


「私はこの舞台には反対だし、だからこそ、君に協力している。でも、オソノイちゃんと一緒にいる限り、いつか真実を話さなきゃいけないときが来るんだよ」

「今しなきゃダメですか。その話」


彼女の言い分はこうだ。舞台という暴露ショウで全員が傷つくような舞台は避けたい。だが、今の私とオソノイの関係は断ち切るべきだ。


言っていることは、これ以上ないくらい真っ当だろう。


だが、彼女の目的がにある以上、そのアドバイスはただの横恋慕によるもののようにも思えた。


どうして彼女は、印象が最悪の段階で告白をしてきたんだろうか。


彼女は、私の説得を続ける。

「ああ、もちろん今しなければいけない話さ。君が彼女のために苦労をする度、君とオソノイちゃんの心の差は広がってしまうんだよ。そして真実は二人共々、容赦なく傷つけるだろうさ」


秋窪はまるで、安っぽい劇のように言葉を連ねた。

「この苦労を乗り越えた先にだって何もないんだよ。だというのに、君は間違いなくそれを期待している。オソノイちゃんが気づかず過去の話を漏らしてしまうことが心配だっていうんなら、本来は君以外が傍にいればいいんだからね」


彼女の言っていることは正論ばかりだ。

私はオソノイと一緒にいたいという単なる我儘わがままで彼女との日々を過ごしている。


今までは彼女が外で「くじらの小部屋」という単語をバラさないようにするという使命もあったが、バレてしまっている今、それは通用しない。


私は、


「でもさ、オソノイちゃんと離れるったって、引っ越しでもしなきゃダメだろ?私と一緒に住めばいいんだよ」


そして私が自らの罪を自覚してオソノイとの悲しい定めを再認識する度、彼女は決まってこの誘いをしてきた。


しかし、理屈はよく分からん。

何が悲しくて脅迫してきた人間と一緒に住まなければならないのか。


彼女の熱のこもった視線を感じないほど私は鈍感でもなかったが、何故ほとんど会話もしたことのない私をここまで執拗に誘ってくるのか、善意だとしても、何故そこまでするのかも、全て分からなかった。


「私も女性に振られて、瑞羽ちゃんも、まあ、振られてはないんだろうけどさ。オソノイちゃんとはいられなくなったわけじゃないか。仲良くなれるんじゃないかと思うんだよね。振られた者同士、傷心シェアハウス。」


私が訝しんでいることが伝わったのか、彼女はこんなことを言い出した。ここまで惹かれない誘いも初めてだ。


私はアイスミルクをストローで飲み干すと、言い返した。

「私は女性という事が理由で、オソノイを好きなわけじゃありません」これは本当。


「そりゃ皆そうさ。私だって女だからって愛弓が好きだったわけじゃない」

彼女はそう主張するが、私は知っている。


「結構女の子と遊んでたイメージがあるんですけど」

インスタの投稿で、お似合いの女性と秋窪が一緒にいる姿を何度も見たことがあるのだ。


「ああ。私は君と違ってちゃんと振られたからね。愛弓を忘れようと次の恋を探してたんだよ、でもご察しの通り私は愛弓に囚われ続けている」

私は彼女の部屋一面に飾られた中田愛弓のポスターを見た。以前気づいてから黙っていたが、ページの切り取られた同じ雑誌が見つかったこともあった。


彼女はおどけて言う。

「ただ一つ弁明できることといえば、遊んではない事くらいだね。自分が失恋で落ち込んでるときにそんな遊びする余裕、ないってば」


確かに、秋窪紅葉について悪い噂を聞いたことはない。我が甘王寺高校での彼女の知名度を考えると、確かに、遊んでいたら私の耳に確実に入っているだろう。


「…。愛弓さんとはどうなっているんですか」


私は、彼女に対して質問をすることにいつの間にか緊張を感じないようになっていた。

反面秋窪は、中田愛弓のことを思い出すとまだ身体が少しこわばるようだった。


それでも彼女は、竦んだ肩を下げると共に、落ち着きを取り戻していった。


「愛弓の事を好きだってことは中学一年の時には自覚していたんだけどさ。その時の愛弓は舞台の仕事が増え始めたばかりで忙しくて、仕事をずっと支えられればいいなってことだけ思ってた」


彼女はカップを眺めながら語る。

「でもそんなとき脅しの事件があって、泣いてる彼女を見てさ。私、感極まって脈絡もなく告白しちゃって。そっから怖くなったんだと思うけど、愛弓は何も言わずに私の知らない高校に行っちゃった」


彼女は自分の失敗が照れくさいようで、後半になるにつれ早口になっていった。


「それは…告白するタイミングをことごとく間違えていますね」

王子様選抜メンバーのような紅葉さんにこんな情けない過去があるとは思わなかった私は、少し目を見開いていた。


「あはは…そうだろ」と彼女は笑って、私も少し笑った。


「私みたいにさ。こじらせる前に、オソノイちゃんから離れなよ。いいじゃん失恋した者同士でさ、最近甘王寺高校にも飽きたし、横浜とか行こうかなって思ってるんだけど」


「いやですよ、そんな余り物の、寄せ集めみたいな」

私は笑っていた。失敗談を聞いて、気を許してしまったのかもしれない。


その後、ひとしきり昔の話に花を咲かせた私達は帰り支度を始めた。


既に夜になってしまっていたからか、彼女が送ると言い出した。


でもよくよく考えると一つしか年の変わらない同性に送ってもらう意味も分からなかったので、玄関でさよならをすることにした。


「今日はさ、離れろってばっか言っちゃったけどさ。今回の件で方針が決まるまでは、今まで以上にくっついておくといいさ。私も、瑞羽ちゃんはオソノイちゃんの横にいるときが一番幸せそうだと思うしさ」


玄関で彼女は、いかにも老婆心満々ですといった口調で話し始めた。


「ええ、そうします」私は靴を履きながら答えた。と、そこで思いつき「それと、横浜もいいですね」と言ってみた。


秋窪紅葉は少し悲しい顔をして「でしょ」といって笑顔を作った。お前の口説き文句に乗ってやったのに、何へこんでんだ。馬鹿。


扉を開けると、自転車にまたがった。そうか。秋窪紅葉は、もう中田愛弓と会えないと思っているんだろうな。


オソノイのいない生活。望んでももう、オソノイと会うことは叶わない生活。そんな生活がもう、近づいているんだろうか。


夜の帰り道の空気はいつも以上に澄んでいて、そこで始めて私は、自分が今日失恋を認めたことに気づいたのだった。


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あとがき


寝取り進行中!


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