第3話 女子校の先輩と瑞羽ちゃんがキスしてた

まえがき


人物紹介 播川瑞羽[はりかわみずは]


本作のメインヒロイン。

金髪ふわふわ系。よく喋り、よく眠る。

学年では知られているが、学校全体での認知度は50%くらいの美少女。


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迎える10月20日。


普段より朝早いこともあってか、肺に新鮮な空気が入ってくる感覚がよく分かる。


この感覚はあれだ。店長以外のバイト全員に仕事を辞めると告げて、もう後に引けない状態にした日に近い。気分は腹が据わった突撃隊である。


校門を通過すると、グラウンドでは運動部の朝練が終わろうとしていた。早めについても人はちょろちょろ見受けられる。


「おーい。オソノイ。何やってんだ」

クラスメイトAが声をかけてくる。


どうやら何らかの運動部あがりのようで、よく焼けた頬が仄かに紅潮していた。


私が彼女について知っている事はいつもお菓子を食べ、そのゴミを鞄に詰めていることくらいだ。


誰も指摘はしないが、誰もがゴミ箱あるんだから使えよと思っているはずである。


彼女のオソノイ呼びは瑞羽ちゃんを真似たもので、最初は面白がっていただけだったけど、一年ですっかり標準装備になってしまっている。


「今日は播川は一緒じゃないのか?」

「いつも一緒というわけじゃないよ。もちろんね」と返す。

するとクラスメイトAは「さっき播川が登っていくのも見たんだけど」、とにやけながら続けた。


校門を見ていないでちゃんと部活しておいて欲しかった。そうか、瑞羽ちゃんはもう来ているのか。


「なんか密会があるんだったりして?」と笑いながら言ったクラスメイトAはもちろん、私をからかっている。


私が「ああ、誰かと思えば小林さんか」と軽口で話題を逸らすと、クラスメイトAこと小林さんは「今までなんだと思ってたんだよ」と気持ちよく返してくれた。


今まで彼女と軽口をしたことはなかったんだけど、気にせず返してくれたってことは、ずぼらだけど、いいやつなんだろうなあ。


彼女は話題に困窮したのか、後輩と思しきジャージの生徒の群れを遠目に見た。しかし一変、小林さんは真面目な顔を作って私に向き合った。


「なんかさ、播川さ。変わったじゃん。あれ、オソノイのおかげだと思うんよな」


顔は真面目なのに目は空を向いていて、言いづらいことであるだろうくらいはなんとなく察せられた。


「そんなことないよ。むしろ変わってなさすぎて大学どうすんだって感じ」

これは半分嘘で半分本当、彼女は可愛くなったし、大人っぽくなったけど、内面のホワホワは全く変わっていない。


すると小林さんは「中学と比べての話な」と言う。確かに、私は彼女の中学時代をほとんど知らない。


瑞羽ちゃんの中学時代はどんなだったのだろう。きっと近隣ではチワワと人気を二分していたに違いない。


と、そこで思い至る。「てか、小林さん中学違うよね」そういえば、と私は詰め寄った。


「知ってたんだよ。Twitterで」と小林さんは言った。私達は一応デジタルネイティブ世代というやつで、産まれた時からSNSと共にあった。


とはいえ、私みたいに産まれた時代を間違えたアナログ人間もいるのだが。


そこまで思い至った私は気分が良くなって考えた。うん。小林さんになら、私が去った後の瑞羽ちゃんを任せてもいいかもしれない、と。友達の多い小林さんがいればいつも私にひっついている瑞羽ちゃんのことも少しは安心できるというものだ。


「じゃあさ、瑞羽ちゃんと結構話したりするの?」

「そりゃ、まあたまにはだけど」

「これからも仲良くしてやってね」


「急にどしたん」そういう小林さんは明らかに不審そうだったが、脳内で勝手に会話を切る為の発言と肚に落とし込んだようで、「じゃあな」と言ってくれた。


私が踵を返して「じゃあ、また」と校舎に向かうと、彼女は「待って」と呼びかけた。


振り返ると彼女は「頑張れよ」と右手を掲げた。明らかに彼女は何か下世話な誤解をしていたが、二度と学校に来ないであろう私は訂正するのも煩わしく、右手を掲げ正面入口に突入したのだった。


約束した空き教室は私達が普段使用している二年生のクラスが収められている廊下の先にある。正直秘密の場所というほどでもない。わざわざ入る必要もない場所だから誰も来ないというだけだ。


我が校では、人気ひとけのない場所はすぐにになってしまう。一年の頃は二人で屋上にたむろしていたのだが、後からやってきたカップルが堂々とイチャイチャし始めてしまい、照れながら逃げ出したのだった。


カップルの強さはどれだけ盲目になれるかで決まるのかとその時は思ったものだ。


そんな訳で、二年Hクラスは私達がようやく見つけた、いわば安寧の地だったのだ。本当にただの空き教室なんだけどね。


階段を登りながらも、スマホで時間を見る。少し早いがもう彼女は来ているらしい。


気づくと、どうやら私の心は弾んでいるようだった。昨日のシミュレーションが成功したからかな。


だけれど、二階まで駆け上がり教室に近づくと、何やら慟哭のような声が聞こえてきた。この時間帯に誰かがクラスにいるというだけでおかしいのに、どうやらその声は二年Hクラスから届いているようだった。


何かを強く拒絶して、それでいて泣いているような声。片方は瑞羽ちゃんとして、二人いる?


私は少し足取りを緩やかにし、足音を立てないように歩きだした。彼女が一人で来ていない理由が分からず、教室の脇で私はしゃがみこんだ。


「私をオソノイのいないところに連れて行ってください」


…これは瑞羽ちゃんの声?


動揺した私が教室を覗くと、瑞羽ちゃんの後ろ姿と、知らない誰かが抱き合っている姿が見えた。背の高い女がよく手入れされた長い爪を瑞羽ちゃんの背に突き立てて、強い情欲を露わにしている。


二人は顔を近づけていく。瑞羽ちゃんにも嫌がる素振りはない。私が脚を縛られたかのように目を離せないでいると、瑞羽ちゃん越しに、抱きついていた女の蛇のような瞳が、私を嘲笑っているのがみえた。


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あとがき


寝取られRTA…


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