第20話 炎上した

まえがき


人物紹介 播川瑞羽[はりかわみずは]


本作のメインヒロイン。脅迫犯。中学二年生にして初犯を犯した。

ヤンデレという言葉でオブラートに包まなければヒロインになってはいけない人間。


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電話先での在野さんは、突然の相談に驚いているようだった。


「小園井ちゃんが言ってたんじゃないか。というか未来を見ずとも分かるよ。今『メトロトレミー』の主要キャラを個人がやるなんて暴動必至だよ、暴動必至」


「叩かれても平気です。全部、どうせくつがえるんですから」

「いや、まあ分かるけどさ。きゅうすぎるってば!」


在野さんが声を荒げるが、私もここを譲ることはできない。


「在野さん、その、舞台をなくすつもりだって…」

「コホン、あれ?言ってなかったっけ?そもそも、脅迫事件が起きると分かっているなら、やらなきゃいいじゃんって思ってさ。天才的じゃあない?私の発想」


「いや、その通り、その通りなんですけど、舞台は今やらなきゃだめなんです」

瑞羽ちゃんのあの時言っていた言葉の意味は分からないが、私は彼女を信じている。


「脅迫事件が起きるっていうのにかい?理由を聞かせてほしいかな。別に小園井ちゃんは、全ての可能性をタイムリープして確認したってわけじゃないんでしょ?」


気づけば、在野さんは既にきちんと聴く姿勢に入っていた。こういうところは本当に尊敬できるんだけど。


「瑞羽ちゃんが…瑞羽ちゃんが言っていたんです」

「君の元カノだっけ?その子、脅迫の犯人なんでしょ?なんで信用しなきゃいけないのさ?」


確かに、信用に値する情報は一つもない。しかし、それでもあの時の誓いだけは本物なのだと思う。


「死ぬ前に、彼女に言われたんです。この舞台を成功させなきゃ駄目なんだって。そうじゃなきゃ『メトロトレミー』の未来はないんだって」

そういうと、在野さんは黙り込んでしまった。


「はぁ。いいよ。辻凜花になっていい。でもあんまりに荒れておじゃんはなしだよ」

そういうと、最終的には認めてくれたようだった。


「ええ、任せといてください」


「それで、そんなに私のコンテンツを荒らして何をしたいわけ?」

そういう在野さんは、今まで気がついていなかったが少し疲れていたようだった。


ごめんなさい。


「舞台をなんとしてでも成功させたいんです。ですので、私が辻凜花になっている間、舞台の準備を続けてほしいんです。中田愛弓さんのメンタルは、私がなんとかします」


「愛弓ちゃんは、『メトロトレミー』に関する別の起用を考えてるんだ。正直、君の話でタレントとしての素質があることは分かってるしね。だからさ、取り返しのつかない事態になるような真似だけはやめてくれよ」


天才気取りで、自分本位な人のように見えるが、数回の電話で彼女が優しい人だということは分かっていた。


「…一度だけ彼女と話す機会をください。それで駄目なら、舞台は中止でいいです」


「でさ、中田愛弓のために、君が何でそこまでしなきゃならないわけ?舞台をどうしてもしたいってなら色々やり方もあると思うけど」


「…恩返しのためです」

「え?」


引きこもっている間にどれだけ観たと思っているんだ。最初は疑念のみだったが、今はもう確信している。


病床の私を支えてくれた小田之瀬積み香を、今度は私が支える番だ。


XXX


次の日、Twitter上では辻凜花が中の人ありでYoutubeアカウントを開設することが発表された。


Twitter上はとんでもないことになっている。怖いもの見たさでアカウントを開くとすごいのなんのって。


正直、効いた。この頃の悪口は未来よりやばい。早く来てくれコンプライアンス。


いやまあ、ムカついたけど基本的に叩かれているのはキャラの人気を利用してYoutubeで金を稼ごうとしていることだ。


瀬戸際で私がぷっつんしていないのは、一重ひとえに「この時代にこんなビジネスやるやついたら私もキレてたろうな」と思ったからだ。


というか未来でもキレてたんじゃなかろうか。私、もし高校生の時にくじらの小部屋があったらずっとなりきりしてただろうしな。


しかし、この頃は叩かれているコンテンツも、後三年もしたら逆に「まだ人気を金に変換してないの?遅れてるぅ」と言われるようになるのだ。


正直、荒らしが全員手のひら返しすることを知っていなければ私は既に潰れてしまっていただろう。


私には未来から持ち込んだ技術などはない。だから、このを最大限に利用しなければいけない。


荒らしは無視するだけで消える。荒らしは無視するだけで消える…


そして、荒らしが増えたということは、私の計画が成功に近づいているという意味でもある。今は我慢だ。


私は、狙いが上手くいっているかどうかを確認するためにくじらの小部屋を開いた。


亜萌天子[意味分かんない。まじで意味分かんないよ。在野さんって変なことばっかりするけどさ、これはファンの事考えてなさすぎるよ]


阿古照樹[しかもよぉ、なんで凜花なんだぁ?口下手な凜花がYoutubeなんて上手くいくわけないだろ]


亜萌天子[ぜっっっっっったいどっかの大手タレント事務所が、『メトロトレミー』の人気を聞きつけてさ、若手タレントを人気にするために利用したんだよ!Twitterで言われてたし!]


うむうむ。こうやってデマは拡がるのだな。しかし、ここまではむしろ狙い通りである。


私の今回の作戦はだ。囮作戦ともいう。


舞台が炎上するなら、より大きな炎で覆い隠してしまってえばよかろう!


Vtuber辻凜花のインパクトは舞台『メトロトレミー』の比ではない。なんせ公式で認められた辻凜花自身なのだ。


今後、配信上での私の言動はそのまま、『メトロトレミー』の公式情報になる。


…まあ、ぶっちゃけ『メトロトレミー』では「公式が言ってるだけ」のコンテンツもあって、私もそっちに分類されちゃうかもしれないんだけどね。


在野さんの小説は大量にキャラが登場して簡単に矛盾するから、どっちを採用するかは個人に委ねられるのだ。


はっはっは。これで瑞羽ちゃんの脅迫状は中田愛弓に届くことはない。その脅迫状はいつか見せるために私が保存しておいてやろう。


煽るために、くじらの小部屋にコメントする。


辻凜花[馬鹿な…。私がYoutubeだと」

阿古照樹[凜花、お前の問題だろ?」


阿古照樹の中の人は会ったことはないが、基本的に口は悪いけど流されやすく、普段何してるんだってくらい返事が早いのが特徴だ。


亜萌天子[凜花。私は知ってるから、凜花だけが本当の凜花だってこと、ここだけが本当だってことも。Vtuber辻凜花も中田愛弓も、なんとかしないと」


あ、まずい。中田さんも全然忘れられていない。


辻凛花[舞台のことなどどうでもよかろう!真の問題はやはり、Vtuberのことだろう」

とりあえず辻凜花にヘイトを集める。


このままじゃ瑞羽ちゃんが犯罪者になってしまう!ということで私は、急いでスケープゴートになるべく在野さんに私の連絡先をVtuber辻凜花として開示するよう要求したのだった。


脅迫文が届いたのはその一週間後の後だった。


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あとがき


書いてて思ったのですが、うちのメインヒロインである瑞羽ちゃん、他の小説だと「ざまあ」される側の人間なのでは…。


あと、中田愛弓が小田之瀬 積み香だということを小園井が気づけたなら他の人間も気付けるだろ!という意見もあるかと思いますが、未来の彼女は一応天才子役としての発想をそれを隠すために使用していた、ということで、過去では気づけた。という考え方で…なんとかなれ!


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