第17話 在野さんに連絡した
まえがき
人物紹介 中田愛弓[なかたあゆみ]
現在中学三年生。舞台で子役をやっている。
演目の中では『メトロトレミー』を除いては『ヴォルポーネ』などの風刺コメディが好き。
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とにかく、策士でもない私が
私が解決できる問題はとりあえず、舞台『メトロトレミー』失敗の件だ。問題は多々あれど、これは簡単に何とかなる。
とりあえず私は、当時は登録していなかったTwitterのアカウントを作成した。
昔のTwitterの雰囲気は、私の知るものと少し違っていた。
現代のTwitterの方が、なんというか余所行きっぽい口調のような気がする。
この頃のTwitterはどうも開けっぴろげで、フレンドリーで、遠慮とデリカシーに欠けていた。
ちらっと見て回ったのだが、舞台に好意的な意見はほとんどないようだ。
[中田愛弓って誰だよ]
[アニメとかならまだ分かるけど、舞台とか誰得?]
とか、そんなのばっかり。
ここまで来ると世間というより、舞台の発表を決定した在野さんも悪いように思える。
瑞羽ちゃんはこの舞台に脅迫してしまって、それを後悔していると言っていたはずだ。
でも現状を見る限り、ほぼ脅迫しているような連中もちょくちょくいるし、瑞羽ちゃんがそこまで責任を負わなければいけないことではないように思えるけど…。
これを解決する方法は簡単だ。私は知っている。この『子役脅迫事件』の犯人も。その顛末も。
中学生当時の私は、お父さんの教育方針もあってSNSをとても恐ろしいものだと思っていた。高校に入ってからも、瑞羽ちゃんが私の写真をインスタグラムに上げるのを止めていたくらいだ。
でも、
Twitter慣れしている私は、ダイレクトメッセージを送ることに一切の躊躇いはない。今まで送ったことないけど、これって結構普通なことなんだよね?
私がメッセージを送ることに決めた相手は在野恵実、『メトロトレミー』の作者だった。
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少し在野恵実の話をしようと思う。『メトロトレミー』をほとんど一人で作り上げた彼女は紛れもなく天才の端くれだろう。
実際に彼女が手掛けたのは『メトロトレミー』のキャラデザ、小説、いくらかの楽曲、アカウント運用であるが、彼女の才能はクリエイターの粋を脱し、プロデューサーにまで達していた。
彼女は多くのクリエイターと交友を持ち、『メトロトレミー』への協力を取り付けたのだ。最初は赤字だったらしいが、きちんと収益を産み出していたはずだ。
私と同じ、甘王寺高校の出身であり、大学在学中から『メトロトレミー』の制作を始めていた。今は21歳のはずだ。
彼女は今はまだただの貧乏大学生に過ぎないのだが、それでも独特の衣服に身を包み、既に『メトロトレミー』を作ったという功績によってカリスマとしての位置を確立していた。
私はそんな彼女からどうすれば返事を貰えるか考え、とりあえず正直に「未来から来ました。舞台は失敗します」と送ることにした。
XXX
それから私は在野恵実とインターネットを通して会話をしていた。いくらか彼女とやり取りをした後彼女の方から提案されたのだ。
正直三年後の世界においても私はインターネットを通して顔も合わせたことのない人物とやり取りすることなど考えられなかったが、どうせ死ぬ私が怖がっている場合ではない。
在野恵実は非常にせっかちな人なようで、会合の話になってから通話時間に指定してきたのは翌日だった。引きこもりの私とは流れている時間が違うのかもしれない。
「やあやあ、小園井ちゃん!どうですか?聞こえてますか?」
「はい、聞こえてるみたい…です。こっちはどうですか?」
「うん。聞こえているよ」
「本当なら出会ったところからやり直したいんだけど、この際それはいい」
カメラに映る在野恵実は室内だというのに黒のハットを被り、和服のような生地のスーツを着ていた。
見れば分かる非常識さである。
この時代の中ニ病の先導者である彼女は服装一つをとっても尖り散らかしている。
「…よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
互いに頭を下げた。しかし、彼女はどうもその
「なんか違うなぁ。未来から来た人間とのやり取りがこんな風でいいわけないよねぇ。やっぱりzoomってさ、劇的な出会いってもんが生まれづらいよね」
「はぁ」
確かに、それっぽくはなかったが…。
しかし、愚痴をこぼすことにも飽きたのか、在野さんはすぐに話題を変えた。
「さて、君が未来から来たという話だけど、示す方法はいくらでもあるように思える」
未来から来た証拠を要求されることはある程度予測できていた。
私は用意していた話をする。
「ええと、その服は現代的な材質で過去の様式に従っているのが気に入っているんですよね。それで、在野さんは今、ナイロン地のフレアパンツという意味不明な履物をお召しになっています」
未来のことを話そうにも、まだ起こってもいないことの真偽は確かめようがない。そのため、私は未来で読んだ在野さんのインタビューから引用することにした。
これなら、私が知っている人間相手であれば、私が未来人であることはアピールできる。
欠点としては、少々回りくどいことだろう。今はまだ、在野さんもインタビューを受けたことはないだろうし。
しかし、在野さんは少し考えたような素振りをするとすぐにいった。
「よし。信じよう」
「えっ!その、話が早くてとても助かります。ですが、その…」
「言いたいことは分かる。染み入るようにね。でもね、例えば君が本当に私の着ているものを当てていたなら、二、三の質問が必要だったろうさ。もちろん、私は顔も知れてるし、尾行していたら簡単に服装なんて当てられる。でも私はそのナイロン地のフレアパンツというものを知らない。しかし確実に私のセンスだ。明日にでも買い付けておこう」
よくもまあそんなすらすらと言葉が出てくるものだ。彼女は昼ドラの刑事のように自慢げに語り続ける。
「さて、本題に入ろう。入ろうとも!まず君に協力しよう、さあ、話を始めてくれ」
彼女は待ちきれないという様子で私を急かした。普段からそういうタイプなんだろう。
「実はその、此度の舞台大変めでたいのですが、脅迫事件が起こってしまうんです。そこから、子役を傷つけてしまったことでかなり叩かれまして、その…『メトロトレミー』が…」
なるべき在野さんを刺激しないように話す。だって未来からやってきた人間がいきなり事業の失敗を予言してきたら嫌だろうし…。
しかし、在野さんはさして気にするようすもなかった。
「なるほど。ということは脅迫を受けるのは中田愛弓ちゃんということで間違いないね。それで君は、その危機から私か、中田愛弓ちゃんを救うために未来からやってきたコネチカットのヤンキーというわけだ」
「いえ、私が未来から救いに来たのは脅迫犯側なんです」
よく考えたら、私のやってること意味不明だな。
「あ、そうなの?そう」
彼女は少し考え込んだようにしてから「でも、間接的に、私を救いに来たんだと思うよ」といった。
彼女は非常識なうえに、凄い自信家のようだった。
「それで、小園井ちゃん。その問題だけど私が責任を持って何とかしよう」
「その、いいんですか?」
「ああ、いいとも。私は君を信じると言ったんだ。もちろん、私のためにもなるしね。代わりに、私からお願いしたいのは未来の
驚くほど私の思い通りに話が進む。この場合、彼女が合わせてくれていると考えるべきだろう。
「それは構いませんが、在野さんの未来ですか?」
「そんなこと知ってどうするのさ、私が聞きたいのはビジネスのこと。私自身より私のことを知っている君なら知っているかもしれないけど、私就活中でさ。働きたくないんだよ」
「はあ」
「それでさ、手っ取り早く稼ぐ方法を知りたい。つまり、ビジネスを教えて欲しいってことなんだ」
カリスマが言うことには思えないが、私は一応考えてみる。
しかし、私はあらゆる未来人の中で最も金にならないタイプの未来人である。
流行りの企業は知りません。これから来るビジネスは憶えてません。株を知ってる高校生とかって実在するんですか?ここに来て、私が世俗から離れて生活を送っていたことが裏目に出ていた。
「その、私お金とは距離を置いていまして…」
「古典落語に出てくる武士の稚児みたいな生き方だね。でもさ、小園井ちゃんのようにビジネスに疎い人でも、流行ったものくらいはわかるでしょ?」
そう言われて、私は瑞羽ちゃんに色々な流行り物を教わったことを思い出していた。
ほとんど興味がなくて自分では買ったりしていないが、ある程度は憶えている。
「沢山、ありますよ。教えてもらいましたから」
それから私は思いつく限りの流行ったものを私は挙げた。在野さんは懐疑的な眼差しで「それほんとに流行ったの?」と繰り返していた。私のせいではないのにくだらないものが流行っていたことが申し訳なく感じてしまう。
「なんていうかさあ。未来の話ってもっとワクワクするかと思ったけど、ようは陳腐化と再生産をひたすらに繰り返すのが私達の文化だって、そういいたいわけ?」
「いや、私が流行らせたわけじゃないので…。あ、でも、在野さんはなんか、色々面白いことしてましたよ」
「成功は?」
「話題には、なってました」
「話題かぁ、話題じゃあ駄目だよねきっと。でもなあ。面白くないことはしたくないしなあ。何かなあい?面白いビジネス」
ふと気づく。そういえば、日常に馴染み過ぎていて、流行りというイメージがなかった。
しかし、私が瑞羽ちゃんに教えてもらったもので、一つだけ私も楽しんだものがある。
「Vtuber。Vtuberが面白かったです」
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あとがき
ちなみにオソノイが最先端だと思っているだけで、この中学生時代の段階でTwitterはちょっと遅れています。
お読みくださり本当にありがとうございます!
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