第13話 先輩と同居を始めたよ

まえがき


人物紹介 沖宮青葵[おきみや あおい]


本作のヒロインの一人。高身長かつ細身で、声がかけづらいタイプの美人。

生粋の引きこもりであり、家にモニターとか何台も並べちゃうタイプ。

正直3つ目以降のモニターはほぼ使っていない。


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私達の部屋の家具は白を基調に揃えられている。それは紅葉さんが推したコンセプトを飲まされた形だ。私が決めたのは主に家具の形状である。私にとって家具の高さというのもセンスある部屋の条件で、クローゼットなどは低めに統一した。


上に小物を置くのが好きなのだ。


総合して、高校生にしてはいい部屋に住ませて貰っていると思う。風変わりなところをあげるとしたら、中田愛弓のグッズで溢れていることくらいだろう。


「明日さ、元町に服見に行かない?」

紅葉さんがソファでパソコンをカチャカチャしながら尋ねる。


「なんか、そこまで頻繁にデートしてたら逆にアリバイ工作感半端なくないですか?」

「いいじゃん。そこまで誰も気にしてないって」

ここぞとばかりに彼女はこちらに近寄ってきた。紅葉さんに好き放題デートをする口実を与えてはいけなかったかもしれない。


あの一件の翌日から、町から飛び出すようにして私は横浜で紅葉さんと同居していた。付き合っている、というわけではない。


オソノイを好きだという気持ちを持ったまま紅葉さんと付き合うことは不誠実だと思えた。それでも、私の中で紅葉さんの立ち位置はどんどん大きくなっていくし、同居生活もまあ、理想的な日々だったといえる。


あの計画を飲んだ10月20日。私は条件通り、オソノイとの交友は一切断った。彼女を説得して出ていくことは難しいと考えて、何も言わずに飛び出した。


だってさ、女子高生二人での新天地同居なんて、親よりもオソノイの方が認めてくれないもん。


それから私は、心配したオソノイからの連絡を捜索届を出されない程度にいなす方法についてずっと考えていた。


しかし、オソノイからの連絡は何故か一切来ず、失恋経験者の紅葉さんにずっと慰めてもらうことになっていた。


私も大概恋愛にはポジティブだが、これって事実上の失恋なんじゃないかという気づきには目を逸らしている。


今の私達の仕事は、紅葉さんとの仲の良さをSNSでアピールすること。これはもちろん、オソノイへの疑いを薄めるためである。


それに、親密な友人を他に作るとそっちにも被害が及ぶから、紅葉さん以外との関係は断ち切らなきゃならない。周りからは病んでいるタイプのカップルと思われていることだろう。


そんなこんなでみなとみらいからシーパラダイスまであちこちに義務観光をしたのだが、正直楽しんでは、いた。


一線を超えることは避けていたし、紅葉さんも気を使ってくれてはいた。


しかし、そうはいっても同居をしている以上徐々に私達の距離は縮んでいくことは避けられなかったし、紅葉さんは私を口説くチャンスだと思っているんだから、オソノイとは考えもつかなかったようなデートや同衾などもする機会があった。


それでも未だにオソノイの事を思い返すと胸が痛んだし、くじらの小部屋を見返す日課はずっと続けていた。彼女はSNSをやっていないから、現状を知れないのが残念だが…。


紅葉さんに申し訳ないという気持ちも浮かびかけていたが、彼女も中田愛弓の出演した番組も食い入るように見ているので、お互い様だ。


どう考えてもバラエティの番組であっても、紅葉さんは放心したかのように中田愛弓だけを観続けていた。


そんなまあ、60点くらいの日々も五ヶ月を過ぎた頃、とうとう『メトロトレミー』の舞台がおおやけに発表された。反応は凄まじく、当時の思い出を語る人が増え、中田愛弓にも再びスポットが当たったりもしていた。


中田愛弓を出せ!という声も多かったが、舞台の大失敗を既に悟っている私からすれば、彼女は一切関わってほしくなかった。それに亜萌天子は中学生のキャラだから、スタイル抜群の愛弓さんは合わないと思う。


引っ越し一つ取っても、色々なやらなきゃいけないことがあって、大概多忙な半年だったといえるだろう。


なのに何故か。


私の私の時は止まったままで、ようやく時計の針が進み始めた感覚を覚えたのは、くじらの小部屋のサイトに新着の更新を見つけた時だった。


辻凜花[今まで世話になったが、私はこれ以上いられないようだ。舞台も楽しみだな。皆ももう、『メトロトレミー』に興味はないかもしれないが、一度、観に行ってみるといいだろう]


それは、三年ぶりの投稿だった。毎日チェックしていたものが突然更新されると、なかなか実感が湧かない。内容に関係なく、条件反射的に喜びが溢れる。


そしてそれは本当に条件反射に過ぎず、内容を読み込んだ私はすぐにオソノイに電話していたのだった。


XXX


私の電話はオソノイではなく彼女の母親が受けてくれた。

「瑞羽ちゃん。あの子はピンピンしてるから大丈夫。なーんにも気にしてないから、今月の間かな?ちょっと暇な時だけ顔を出してあげて」


私が泣きそうな声をしていたからか、優しい声ではあった。しかし、、という言葉から彼女が危ない状況にあることは察せられた。


私は「はい、はい」としか言えず、病院の場所を聞くとすぐに、新幹線で都内の病院に向かった。紅葉さんも一緒だ。


「オソノイ、そんな病気だなんて一度も言ってなかったんです!」

「とにかく、まだ間に合うよ。急ごう」


私はくじらの小部屋に返事をしようかとも思ったが、これからの事を考えるとそれも憚られた。

甘王寺高校の近くにまで帰ってきた私は、走って病院に向かう。


「瑞羽ちゃん、あれ!」

紅葉さんが叫ぶ。


病院の手前には、背筋の曲がった、いかにも学校に行ってませんという感じの青髪をした女が待ち受けていた。長身痩躯という言葉がぴったりで、顔は綺麗なのだが自ら影を作るような暗色の重いメイクをしている。


「よっ」

病院道中の壁に寄りかかった彼女が軽く手を挙げた。


「青葵…」

「よく分かったな。写真、見たことあったんだけ」

私は紅葉さんから彼女の写真を見せて貰っていた。正直ひきこもりの彼女と会うことになるとは思っていなかったが、予想に反して彼女の立ち振るまいはとても堂々としていた。


「青葵。なんでここにいるの」

「あんたと一緒さ。大事なくじらの小部屋の仲間のお見舞いにな」

彼女の表情は、信じられないことに愉悦に満ちていた。まるで、「ざまぁ」とでも言いたげに。


「青葵。頼むよ。もうこんな事やめて。人が死にかけてるんだよ」

「あんたなぁ。私何もしてないじゃん。勝手にオソノイから離れたのは播川瑞羽で、勝手にくたばろうとしてるのは辻凜花…オソノイで、そしてその二人を離れ離れになるよう仕向けたのはそこの秋窪紅葉だ」


「じゃあ、どいて」

「別に立ち塞がってねえだろ。挨拶しただけ、こんな細いワタクシが道路を塞げるわけないじゃん」

紅葉さんが「行こう」と青葵の方へ向かっていく。


言葉の通り、沖宮青葵は道を塞ぐような事はしなかった。

そのまま私達が通り過ぎようとすると、青葵は大きな声で「そういえばぁ」と叫んだ。


「秋窪紅葉は、オソノイの病気のこと知ってたよなぁ。死ぬギリギリまで隠してたってわけだ!やるじゃん!!」


沖宮青葵はわざわざそのことを伝えに来たらしい。背中しか見えないが、正面ではきっと喜色満面の笑みを浮かべていることだろう。


秋窪紅葉は動揺して速度を緩めたが、私は時間が惜しく、彼女を置いてオソノイのところへ向かった。


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あとがき


すれ違う二人…!

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