第91話 久しぶりの我が家
「っていうか、ほんとに居るんですか?」
「さあ?」
「さあって……」
「ここに来いって書いてあったんだから、ここに居るだろ」
というか、ここまで戻って空振りは精神的にキツい。扉の前で一通りやいのやいのと話し合い、ようやくドアノブに手をかける。ゴクリと唾を嚥下して、ゆっくり扉を引いた。
「やあ、久しぶり……という程時間は経ってないか。ともあれ、元気なようで嬉しいよ」
見たことも無い白髪の少女が、非常に見覚えのある笑みを浮かべていた。
「え、誰……?」
困惑してるレイを見て、シオはふっと笑みを深くする。
「すまない。この姿では初めて、だったね」
パラパラと体が崩れていき、これまた見覚えのない黒髪の短髪の少女に変化する。
「おや? こっちも初見か。えーっと……ああ、彼女か」
またしても体が崩れて、今度は見覚えのある赤毛の女に姿を変えた。
「おや? そこまで驚いてないようだね」
「まあある程度想像はついたからな」
その想像もさっき浮かんできたのは、心の内に留めておこう。
「それで何の用なんだよ」
時間がねぇのは分かってんだろと、言外で言いながらも要件を問い質す。
「もちろん、これは現魔王を倒すには必要なことさ」
いちいち身振りが大きくて、胡散臭い。だがこいつが必要というのならそうなんだろうと、直感的に思った。
「それで、その必要なことってなんだ?」
「決着だよ。わたしと君との決着」
「決着って、なんの……」
「ルールはこの室内のみ。相手を殺した方が勝ち、シンプルでいいだろう?」
妖しげに瞳を輝かせながら、彼女はなおも話を続ける。
「いや、だから、決着ってなんのだよ! 今やらないといけないことなのか!?」
「そうだとも。今でなくてはいけない。少なくとも、現魔王に勝とうという気があるのなら」
突き放すようにそう言った彼女の瞳には、冗談や嘘の色はなくただ真実を話しているだけのように見えた。
「もちろん、そこの彼女も参戦可能だ」
「二対一でも楽勝ってか?」
「そのぐらいのハンデをつけないとね」
言ってくれるじゃねぇか。こんな状況で仲間割れだなんてバカらしいが、元よりこいつらとは協力をし合うというだけで絶対に戦わないという取り決めはない。
いやまあ、同盟を提案してきた方から戦おうぜ! とこられるのはちょっと納得がいかないが。
「……そういえば、この勝負に勝ったらなんかあるのか?」
別になんの意味はない、ただの雑談。彼女の言葉に耳を傾けながら、数年ぶりの家の内装を把握する。
「真実と、能力……かなっ!」
距離を一気に詰めてきて、顎を狙った蹴りを繰り出してきた。
「うおっ!? 合図なしかよ……!」
「勝負と言っても真剣勝負。殺し合いだからねっ!」
連続で繰り出される拳をギリギリのところで躱しつつ、思考を巡らせる。基本的に体術で押してくるタイプか。
「というか、なんでこの家限定なんだよ!」
「長期戦になるのは望ましくないからね。君もそう思うだろう?」
「確かになっ!」
それならこの戦い自体が望ましくないんだが、それを言ってもどうしようも無い。
シオはまたもや顎を狙って蹴り上げてきたが、それは顔をのけぞらせて回避する。が、彼女は勢いそのまま宙に浮いて横に蹴りを放った。
「ちぃっ!」
腕を間に挟んでガードするも、衝撃を受け止めきれず吹き飛ばされる。
「さて――!」
追撃とばかりに大きく踏み込んだ。
「『蜘蛛』っ!」
縄が床から生えてきて、シオの足やら腕やらに巻きついた。
「へぇ」
その時初めて彼女はレイの方へ視線を向けた。……今だっ!
駆けながら剣を抜く。殺し合いなんだから、武器はなしとか言わねぇよなぁ!!
しかし、後頭部に目でもついているのか的確に拳を振り向きざまに振るってきた。
「レイっ!」
「やあぁっ!!」
その拳を俺は真っ向から受け止める。そのおかげかシオの動きが止まりその隙にレイが攻撃する。
「いいねぇ」
ボソッとそう呟くと、体を捩って勢いそのまま足を振るう。
「その体勢から回し蹴りかよ……!」
「よっ……と!」
レイを蹴り飛ばし、続いて俺の襟を掴んで引き寄せる。クソっ、投げ飛ばされた。
床に勢いよく叩きつけられるも、受け身をとって衝撃をできるだけ殺す。
「一撃も入れれてねぇ」
血を吐き捨て立ち上がる。どうする、どうやれば勝てる。体術面ではあちらの方が強い。そうなると、スキルを駆使して圧倒するべきか。
斜めに駆け抜け助走をつける。そんな俺を彼女は目だけで追っていた。その余裕もすぐにぶち壊してやらぁ……!
「『螺旋』っ!」
ぐるりと回転しながら宙に浮いて、そのまま勢いよく床に叩きつけられる。はずだった。
「手で支えられるもんなのかよ」
「為せば成るってね」
ふっと笑みを零すシオの背後にゆらりとレイが現れる。
「おっと、それは読めてるよ」
刀身を掴んでその不意打ちを受け止める。だが、
「『通電』」
「……っ!」
ニッと笑みを零したレイを見て、慌てて剣から手を離すがそれよりも早く電流がシオの体を駆け巡る。
「今っ!」
「『発勁』」
気を拳に纏って一撃を叩き込む。シオの体はボールのように床を跳ね、家具を巻き込んで壁に衝突した。
「倒せた!?」
「いや、まだだ!」
思ったよりも手応えがねぇ。あいつ、喰らう寸前に床から足を離して衝撃を外に分散させやがった。
「発勁でダメってなるともう打つ手が……」
パラパラと、彼女は木屑を落としながら立ち上がる。
「うん、なるほど。良いね、凄くいい」
うわ言のように繰り返すシオの瞳は、爛々と輝いている。その輝きは、まるで何かに魅入っているかのようにどこか危険な光を含んでいる。
「さあ、第二ラウンドといこうか」
そう言う彼女は何かに取り憑かれているかのように、不吉な笑みを浮かべていた。
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