第15話消えてしまった少女
「漢気……ねぇ」
「そう、それにより我は盗賊団のお頭まで上り詰めたのだ!」
ちらとグスタフと無精髭の男を見てみるが、グスタフはこちらを睨みつけ、無精髭の男は苦笑いを浮かべている。
「あんだよ」
「いや、あんたが八代の下につくなんてなって思ってよ」
俺が意外そうに言うと、グスタは、はんっと鼻で笑った。
「久しぶりに見たぜ、あの魂の入った叫びは。普段はビビりだが、やる時はやる男だ、こいつは」
自慢げに語るグスタフを見ていると、この前何があったのか結構気になってしまう。
「で、あんたは?」
無精髭の男に問いかける。
「あっしの場合、他のもんがお頭を尊敬してましてね。その保護者ってところなんです」
つまりは、八代を尊敬してお頭と呼んでいる訳では無いと。
少なくとも、八代を利用してどうこうという感じには見えないので、放っておいていいだろう。
これで失望されて下克上されるというのは、八代の責任だからな、うん。
「そうか、じゃな」
八代の今の状況を理解すると、さっさと退散しよう。と思い、軽く手をあげてさっさと帰る。
「いや、待って待って! え、もう帰るの。せっかく来たのに?」
「いや、帰るだろ。一応俺、病みあがりだし」
そう言うと、うーむと八代は唸り声をあげる。
「それならば……仕方がないのか……」
「そうそう仕方がないの。……べ、別にあんたと長く一緒にいたくないからって訳じゃないんだからね!」
「何故ゆえツンデレ口調……。それに、ツンデレだと一切デレてないし……」
何故かズーンと落ち込む八代。
「お前にデレるわけねぇだろ」
どこ需要よ、俺のツンデレとか。
そう言い残すと、踵を返す。すると、足音が後ろから聞こえてきた。
「街の近くまで送る」
「……ありがとう」
ぐっとサムズアップして、こくりと頷く八代に俺は軽く礼を言う。
「では、我は少し出かけるのでな」
「へいへい。作業、進めときますよ」
グスタフの返答を受けると、こちらへ視線を戻して「では、行くか」と言って先へと歩き出す。
それに遅れぬよう、少しだけ早足となり横へ並ぶ。
「ちょっと相談したいことがあってな」
「ふむ……。レイ殿の救出に向かった先で、何かあったのか?」
珍しく察しのいい八代に軽く驚きながらも、こくりと頷く。
「ああ、その時ちょっと気になることを言われてな」
あの時の『真実』という言葉が、何度も頭の中で反芻する。自分はなにか、重大なことを知らないのではないかと、言い寄れぬ不可解な違和感が全身に絡みつくような錯覚を覚える。
「ふむぅ。その事なのだが、少々気になることがあってな。先にそっちを話すぞ」
「もう決定事項なのかよ……」
自分勝手な八代にげんなりしつつ、しょうもないことだったら一発殴ろうと決心して先を促す。
「実はな、グスタフはあの女……レイ殿を連れ去った時、我を倒した女のことを覚えていないらしい」
「……は?」
あの女というのは、シオと名乗った女のことだろう。
「いや、嘘ついてるだけじゃねぇの……?」
「否。グスタフだけではなく、レイ殿もその女については知らないと言う」
「なんの冗談だ。実際、俺はあいつのやり合ったし、なんならその怪我で教会へ運び込まれたんだよ」
そう言うと、パチンっと指を鳴らしてこちらを指さしてきた。……なんか動きがうぜぇ。
「そう、それがおかしいのだよ。医療担当したシスターに(レイ殿が)話を聞いたところ、貴様の怪我は全てグスタフにやられた怪我のみなのだ」
「は……? いやいや、切り傷とかあったでしょ、普通に」
「それに、貴様が倒れていた場所。おそらくは、戦闘があったものなのだと思うが、貴様らが倒れているだけで、争った形跡がなかった」
「は……? いや、結構派手にやったぞ」
どういうことだ……? もしかして、スキルの影響か。いや、制約が近いか。
確かに言っていた、色々制約があると。もしかすると、作った幻が倒されると、物理的にその幻が影響を与えたもの全てが元に戻るのか?
「そうだとしたら、諜報においては厄介極まりないだろ……」
知識も持って帰れるのかは分からないが、持って帰れるのなら強力すぎる。それ故の制約なのだろうが、その制約も使い方によっては、スキルの凶悪性を高めているようにしか思えない。
「……では、次は貴様の話を聞いてやろう」
「ドリルかよってレベルで話が変わるな。今物語の核心を突く流れみたいな感じだったぞ」
「我らの人生に物語性などないだろ」
「いやまあ……いや、あるな、物語性」
一瞬確かにと思いかけたが、元魔王軍というだけでかなりの物語性がある気がするのは俺だけか?
あと、なんでそんなに尊大な喋り方なんだとも聞こうと思ったが、よく考えたらいつもの事なのでスルーすることにした。
「前魔王の死について、だ」
俺はあの時、あの場所で起こったことを全て八代に話した。
八代はその話を全て聞き終えると、ふむと顎に手をやり考え込む。
「あの人の死の真実か……。貴様も知っての通り、我はあの人の死の直前は別の場所にいた」
「そうだったな」
あの時、確かに八代は別の場所にいたらしい。
ならば、何も知っていなくてもおかしくはない。
「なあ、盟友。こういうことは、あの方に聞くべきではないか?」
そう問いかけられ、誰がいたっけなと記憶を思い起こす。すると、一人こういう時に頼りになりそうな人物が該当した。
「ああ、いたな。あの天才か」
俺がそう思い出し声に出すと、八代はニヤリと深い笑みを浮かべた。
「そう、『稀代の天才』東堂寺 夏海ならば、何か知っていてもおかしくはなかろうて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます