第14話仇との再会
ガラガラと荷台をひく音。
そして、不意に首に圧迫感を感じて目が覚める。
「殺してやる……! 殺してやる……! 絶対に、許さない……!!」
銀髪の少女は俺に跨り首に手をかけ、殺意の籠った瞳で俺を睨んでくる。
その殺意の籠った瞳からは大粒の涙が溢れかえっていた。
☆ ☆ ☆
不意に、目を覚ます。
ぼんやりした頭で、なんとなく首をさする。
「あ、起きたみたいだね」
銀髪の少女は、そう言い微笑みかけてくる。
「ああ……」
ぼんやりとした頭で、そう答える。
「いやよかったよ。キミが死んだんじゃないかって、わたしも彼女も心配してたんだぜ?」
彼女は、くすくすと可笑しそうに笑いながら、コップへお茶を注ぐ。
「ほら、お茶だ。ずっと寝てたから喉が渇いてるんじゃない?」
「ああ……ありが――」
すっと差し出され、思わず受けとってしまいそうになる。
「――っ! ……いや、いらねぇ」
コップの縁へ口をつけたところで意識がはっきりと覚醒し、すんでのところで思いとどまる。
「おや、どうしてなのかな? ボクはこんなにもキミを案じているのに」
白々しくそう嘯く彼女に、お茶の入ったコップを突き返す。
「いやいらねぇよ。ほら、お前が飲め、余ったらもったいないだろう」
「いやいや、女の子に自分が口をつけたものを勧めるなんてどういう神経してるのさ。ボクとしてはキミに飲んで欲しいんだよ」
睨みつけるが、ニコリと笑って受け流される。
……仕方がない。
「おら、飲め! どうせ毒でも入れてんだろ!」
「痛い痛い痛いよ、ちょっ、やめて! それに毒なんて入れてないからぁ!」
頭を掴んで強制的に飲ませようとすると、じたばたともがいて抵抗してくる。
「毒が入ってないってお前、そんな嘘が通用すると……」
「毒になんて入れてないよ、ボクが入れたのは強力な睡眠薬だー!」
一瞬の静寂。
「危険なのは変わらねぇだろうが!」
「ちょっ、ほんとにやめて! 痛いし、しかもそこはキミが口をつけたところ……っ!?」
不意に、扉を叩く音がした。
俺と彼女の動きがピタリと止まり、恐る恐る扉がある方へと顔を向ける。
「……起きたんなら、変なことする前に知らせて欲しいんだけど。少なくとも、私とあの変な人は心配してたんだから」
ジト目でそう言われてしまうと、返す言葉もない。
見たところ教会の中っぽいし、銀髪の少女の発言からも俺が気絶していたことは明白だ。
「それは悪かった」
素直に受け取り、深々と頭を下げる。
心配をかけていたのなら、しっかりと謝るべきだ。
「いやまあ、そんなしっかり謝るような事じゃないですし……。あー、そうそう、変な人も心配してたんで、行ったらどう? 動けるならだけど」
目を泳がせていると、なにか思い出したのか、あっ、と声をあげてそう続けた。
「まあ、そうだな。……というか、変なやつってなんだよ」
「いやほら、私、助けてもらったとはいえ、一度襲われてるんで、完全に許すのは時間がかかると言いますか……」
あー、それなら仕方がないか……。
実際、八代はレイを襲った。生きるためだとはいえ、被害にあった当人からすれば、そんな簡単に許せるものではないだろう。
「んじゃまあ、行くとしますか」
よいしょっとベットから降りると、背筋を伸ばして固まっている体をほぐす。
「それじゃあ、ボクはもう行くから。暇じゃないんでね」
少女はそう言うと、すたこらさっさと去っていく。
レイは彼女を見送ると、俺へと視線を移してきた。
「……あの人、また君の知り合い?」
「ああ……まあ……」
互いを認識している仲なので知り合いといえるだろうが、知り合いとまとめるのはどうしても気が引ける複雑な関係でもある。
「彼女の名は、セシル」
そこまで言って言葉を切る。
ここから先は、俺が言うべきでは無いかもしれない。ただ、もしもあちらが話すことになるかもしれないのなら、失礼だろうがなんだろうが、俺が言おう。
自分がしたこととはいえ、この言葉を彼女の口から発せられることは、酷だから。そして、俺も聞きたくないから。
だからこそ、俺はその言葉の続きを言った。
「ただ単に、あいつの姉の仇が俺ってだけの関係だ」
☆ ☆ ☆
リンドウの森へとたどり着く。
あれから数日間寝ていたと聞かされた時は驚いた。そのせいか、この森も少しだけ懐かしく感じてしまう。
レイや八代、セシル以外にも、衛兵の人も心配していてくれていたようで、街を出る際にはなんども無事かどうかの確認をされたし、リンドウの森に向かうと聞いた時は、強引にでも止めようとしてきた。
「今度、お礼の品でも用意するべきかね」
ボソリとそう呟くと、リンドウの森の奥地へと足を進めていく。
目指すは、あの戦いがあった洞窟だ。
――洞窟の近くまで着くと、洞窟の方からは騒々しい声が聞こえてきた。
「おい! それはこっちだ、バカ!」
「あん? 誰がバカだ、殺すぞ」
ちらと見てみると、無精髭の男と、グスタフがなにやら言い争っている。
……というか、グスタフ生きてたんだ。
俺がじーっと二人の喧嘩を眺めていると、しばらくしてその喧嘩を静止する声が聞こえてきた。
「そこの二人、暫し待たれよ。何をそんなに揉めているのだ」
「「お頭、お疲れ様です!」」
八代が偉そうな態度で近づいていくと、グスタフと無精髭の男は姿勢を正してばっと頭を下げた。
「は!?」
その異様な光景に、思わず声を漏らしてしまう。
その声に弾かれるように、八代は顔をこちらへと向けてくる。……あっ、目が合った。
「めーゆー!!」
ぶわっと目に涙を溢れかえらせて、両手を広げてこちらへ走りよってくる。
え、なにこれ怖い。なんなのこれ、怖い。
「いや、近いし抱擁いらんしあと涙拭け」
「め"い"ゆ"う"」
「おいこら、俺の服で涙を拭くんじゃねぇ。おい待て、ほんとに離れろ」
胸元に顔を埋める八代をなんとか引き剥がそうと顔を押し出す。
あーあ、服が涙でぐちゃぐちゃだよ。今日という一日はまだあんのに……。
「無事だったんだな!」
「ああ、さっき目が覚めてな。シスターとかにとめられたが、暇だったんで遊びに来た」
「うむ、その発言のどれほどが照れ隠しによる虚言なのか……」
「変なこと考えてんじゃねぇぞ」
「痛い痛いっ! アイアンクローやめて……!」
何故か、少し嬉しそうに悲鳴をあげる八代。
なにこいつ、痛みが快感になる性質かよ……怖っ。……まあそれか、単純に心配をかけてたってことか……。
うん、前者だな。
八代の普段の行いを振り返り、そう判断する。
「……よう、そっちは無事そうだな」
「……今ちょうど貴様にアイアンクローで無事じゃなくなりかけたのだがな」
恨みがましげに見てくるが、俺はそんなこと知ったことじゃあない。だってお前、俺の服をぐしょぐしょにしやがったし。
そんなことはどうでもいいとばかりに本題にはいるために口を開く。
「……それで、なんでお前お頭って呼ばれてんの?」
「ふっふっふっ……、聞いて驚け!」
がばっと大きく手を広げ、八代はふふんと少しイラッとくる笑みを浮かべた。
「我の漢気に惚れ、ついていきたいと言い出す者が続出してな。それにより、我がこの盗賊団のお頭となったのだ!」
そんなことを言い出す八代に俺は……。
「は? お前に漢気……?」
衝撃の一言により、途中からの話を全く聞いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます