第55話 愛されること


「マシロ、ここは?」


 彼女が指を這わせたのは、胸元。制服のボタンを、上から一つずつゆっくりと外されて。晒されたデコルテに落とされたキス。


「ねぇッ、はずかしい、」


 私一人だけ胸元のはだけた格好で、下着も見られてしまっているような状態で。二人はしっかりと制服を着込んでいるというのに、私だけこんな格好なのだ。羞恥心が、よけいに私を煽る。


「かわいいブラつけてるね」


 肩紐をなぞられて、そのまま胸の形を確かめるように手が滑っていく。すべすべの彼女の手はひんやりとしているのに、内に燻っている劣情は更に熱さを増すような。


 彼女の手が、私の膨らみに触れる。彼女たちよりも随分と小さい、発達途中のようなそこを優しく揉みしだく手。


「ふにふにしてて柔らかいね」

「っぅう、はずかしいんだって、」

「真白ちゃん、かわいいよ」


 頬へのキス。続いて額へのキス。噎せ返りそうなくらいに甘い空気。


 じわりじわりと溶け出す毒のように、体に染み込んでいく甘美なそれに浸っていく。


 形に沿うように指で撫でたり、手のひら全体で揉み込むようにしたり。触られ慣れていないそこへの刺激は、微量に甘い刺激となって脳に伝達されていく。


「っぁ、ん、ぅ……ひ、ぁ、そこぉ、っ」


 次第に指先は胸の先の蕾に触れそうになって、また離れていった。ずっと、優しく甘い。裏を返せば、ほんの少し、物足りない。


「私も触りたいな……」


 首筋への愛撫を続けていた優依ちゃんが、ボソリと呟いた。その言葉とともに、今度は彼女の手が腰から脚へと伝っていく。スカートの上から内腿を撫でられると、また腰がゾクリと引けるのを感じた。


「マシロ、今びくってした」

「ふふ、太腿敏感なんだね。かわいいなぁ」

「そんなに、かわいいばっかり言わないでよぉ……」


 可愛い。かわいい。何度も二人から言われる言葉だ。恥ずかしいし、目の前の二人のほうが可愛いし。そう思ってしまうのだけれど、二人は何度だって私に愛を囁くのだ。


「だって、私達が大好きな真白ちゃんはかわいいに決まってるじゃない」


 吐息混じりのその声に、また腰が揺れた。


 二人が私の体を愛してくれている。そんな事実も脳を蕩けさせる要因の一つになっているのかもしれないと思うほどに、二人から与えられる快感は甘くて、心地よかった。


 スカートの中に、そっと侵入してくる優依ちゃんの手。手のひらから、指先へ。擽ったさの裏には、大きな快楽が眠っているのだと教え込まれるような手。


 外側から、内側へ。より敏感なところへ近づいてくる魔の手を拒む方法を、私は知らなかった。


「っん、ぅ……ゆい、ちゃん」

「なぁに、真白ちゃん」

「もどかしい、よぉ」


 未だ二人が微弱にしか与えてくれない甘い毒に、染まりきってしまいそうなのに。でも、決定的な快楽は、まだ与えられていないのだ。


「っ……今のマシロの顔、すっごくやらしい」

「ゃあ、言わないでよ、ッ……だって、ぅ」


 もっと、ほしいんだもん。


 小さく口を動かして、口から出そうになった本音を、自分の意思で告げた。二人が欲しい。二人に与えられる、甘い毒を飲み下したい。そうして、二人の恋人と一緒になりたい。


 その言葉を聞いた彼女たちの瞳には、野性的な光が灯っていた。


「そんなこと言われたら、我慢できないじゃない」

「しなくていいって……そういうことでしょ、マシロ?」


 星羅ちゃんの唇が三日月を描いた。はあ、なんて甘くて熱い吐息を吐いている彼女のシャツの襟を引き寄せて、喉元にキスをした。


「してくれる、でしょう……?」

「……あんた、ホント」


 ギラついた瞳が私の唇を奪った。呼吸を奪われるようなキスに、私の劣情を燃え上がらせるように撫でられる下腹部。


「真白ちゃんのここ、今から気持ちよくしようね」


 顔は見えないけれど、悦楽混じりの優依ちゃんの声が聞こえた。そっと下着に手が伸び、ショーツのクロッチの上から気持ちいいところを撫でられる。


「ふふ、もうこんなになってる……我慢、しなくていいんだものね」


 激しいキスと、甘く、直ぐ近くまで迫ってくる刺激。一枚の布に阻まれたそれが恋しい。下着の上からなのに、すっかり濡れたそこが音を立てた。羞恥を掻き立てるその音も、もう今からの行為の材料でしかない。


 早くシて。そう口にする代わりに、少しだけ脚を開いた。


「星羅、がっついてないで早く真白ちゃんのこと善くしてあげましょう?」

「っ、はあ……わかってる」

「覚悟しててね、真白ちゃん?」


 二人が服を脱ぐのを、快楽に焦がされた身体のまま見つめていた。綺麗だと思った。


「大好きだよ、マシロ」


 疼く熱を、全て二人に委ねる。二人の愛に、溶かされる。

 ベッドのシーツに、くしゃりと皺が寄った。



 この日私は、愛されることの幸せを知った。


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