第31話 お風呂に入りたい

 コテージの中に入る。海に濡らされたままの私達は、行く前に玄関に準備しておいたバスタオルで体を軽く拭った。


 塩分量を多く含む海水は、体を拭いただけではその塩気が体に残っているのか少しだけ居心地が悪い。それは横の二人も同様だったようで、皆して顔を見合わせる。


「……お風呂、入りたいよね?」

「わかる」

「私も入りたいな」


 同意が取れたところで、次の問題が浮上する。そう、順番についてだ。昨日はゲーム同好会らしくトランプをして順番を決めたものの、流石に今日は早く入りたい気持ちが大きい。


「みんな女の子だし気にしないよね? 一緒に入っちゃう?」


 優依ちゃんの言葉は正直魅力的だけれど、流石にそれは……。なんとなく心がブレーキをかける。私はオタク故に死んでしまうだろうし、なんだか二人にも申し訳ないし、それにきっと星羅ちゃんが嫌な顔をするのではないか。そう思い、彼女の様子を窺う。


「いいんじゃない? 時短にもなるし、早く入りたい。お湯張ろ」

「オッケー、そしたらお湯入れてくるね」


 まさか、星羅ちゃんが快諾するとは思っていなかった。表情もいつも通りだから、体の不快さ故にやむを得ず、というわけでもなさそうである。星羅ちゃんも優依ちゃんも納得してくれているなら、ということで、三人でのお風呂が決まってしまった。


 最低限拭った体で、床を濡らさないようにしながら浴場に向かう。お風呂場に続く引き戸をスライドさせて脱衣所に飛び込むと、毛の長いバスマットが迎えてくれた。


「早く入っちゃおうか、体冷えちゃうし」

「ん、りょーかい」

「水着は中で?」

「そうね、砂とかついてるだろうから、中で水洗いを軽くしてから洗濯機にかけましょっか」

「確かに!」

「んじゃあ入ろっか」


 水着を着たまま、ひんやりとしたタイルに足を乗せた。昨日はあんなに広々と、寒々しさすら感じさせた広い浴場。三人分の熱のせいか、或いは単に二人とお風呂に入ることができるのが嬉しいのか。体がほんのりと熱を持っている気がする。


「えっと、誰から浸かる?」

「みんな浸かれる広さあるでしょ? みんなで一緒に体流したほうが早いと思うんだけど」

「たしかにね。そうしよっか」


 水を含んで体に張り付く水着。彼女たちがそれを脱ぐのを、今度は目をそらすわけにもいかず見つめる。肩紐に手がかかり、細い紐は肩から腕へとゆっくりと降ろされていった。


「楽しかったけど疲れたね〜」

「そりゃ長時間だったからしょうがないでしょ」


 水着というただでさえ布面積の狭いものを纏っていた二人の艶めかしい肌が、狭い空間の中で晒されていく。ビキニトップスが脱ぎ捨てられ、重力を持った二つの山が締め付けから開放される。


 たわわなに実ったそこが重さに従って揺れるのを、見てしまった。ギャルゲー補正なのか、女子高生の中でも魅力的な身体つきをしている二人である。肌は透き通るように美しく滑らかで、言うまでもなく大きい。


 いつもだったら参加できるはずの他愛のないおしゃべりに参加する心の余裕すら奪われる。


 ……そして彼女たちが脱いでいるということは私も着ていた水着を脱がなくてはいけないということ。


 恥ずかしさもあって、二人とは違いワンピース型のものを選んでいた私。幾分か布が多いのを、ゆっくりと脱ぐ。肌が晒されて体は冷えていくはずなのだが、徐々に火照っていくのを感じていた。


 上半身が露わになるだけでも躊躇っていたのだが、彼女たちは遠慮無しでボトムスにも手を掛けている。待ってといえるはずもなく、けれど私の心はショートしてしまいそうなくらいにドクドクと脈打っている。


 くびれた腰のラインから、布が下がっていく。お尻の輪郭が徐々に光の下に現れて。恥じらいを感じさせずに、二人分の水着がお風呂場のタイルに落ちた。


「真白ちゃん、脱いでくれないの?」

「私たちだけじゃちょっと恥ずいんだけど」


 一糸まとわぬ姿。女性らしい曲線と、整った体。女子高校生、という大人と子供の狭間の年齢の彼女たち。けれど二人の身体は成熟して見えて、女の子、ではなく女性のそれを彷彿とさせる。余りに暴力的なまでに直接晒される彼女たちの裸体を直視できない。


「マシロー? ねぇはやく脱いでよ」

「ぅえ、あ、はい!」


 彼女に促されるままに、ボトムスの部分に手をかける。水を含んでぴったりと肌についたそれを下げるのに少しもたついたものの、なんとか下ろしきった。


「こ、れで……いい?」

「ふふ、みんなお揃いだね」


 彼女たちの女子高生離れした美貌と対比すると貧相な身体を同じ空間に晒していることへの恥ずかしさが込み上げる。思わず手が伸びてしまいそうなきめ細やかな肌に、ごくりと生唾を飲んだ。


 そんな私のことは露知らず、優依ちゃんと星羅ちゃんは海水で冷えた身体を温かなシャワーで濡らしていく。湯気が次第に浴場を満たしてゆき、先程よりは健全に目をあけられる空間が出来上がった。足元から、冷えきった体を温める蒸気が空間に満ちてくる。



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