第27話 合宿二日目

 太陽が瞼の薄い皮膚を通って光を伝えてくる。無意識に入っていた眠りは深海に潜ったように深くて、深呼吸をするように大きく息を吐いて、吸って、目が開いた。どうやら朝が来たようだ。


 満足の行く睡眠が取れた時の、確かに意識が自分のものに変わっていく感覚。穏やかな微睡みも心地よいが、さっぱりとした目覚めはこんな夏の朝には相応しいような気がする。


 どうやら昨日の私は、二つあるベッドのうちの片方を占領してしまっていたようだ。広いベッドの真ん中寄りの場所で眠りこけていた私を気遣ってか、優依ちゃんと星羅ちゃんは背中を合わせるような形で片方のベッドに眠っていた。


 二人への申し訳ない気持ちもありつつ、ユイセラ限界オタクの私は、寝起きから供給されたユイセラ成分でホクホクだ。


 星羅ちゃんは私のいるもう片方のベッドを、優依ちゃんは逆側の壁を向いて、背中合わせになって眠っている。向かい合っているのではなくて背中合わせなところが逆にいい。オタクならこの感情はきっと理解いただけるだろうと思うが、さりげない仲の良さとお互いへの安心、信頼感が滲み出ている背中合わせは至高のシチュエーションなのだ。


 叫び出したい衝動。崩れ落ちてしまいたいほどの脳への刺激。推しカプが推しシチュを目の前で繰り広げている。最高。とはいえ私は寝起きだし、彼女たちを起こしてしまっては申し訳ないどころかオタクの私が首を落とすことになるだろうからやらない。やれない、が正しいなんて知らない。


 さて、昨日二人よりも少し早めに寝てしまった私は、彼女たちより早く目覚めてしまったようだ。このまま二度寝をしてもいいかとも思ったのだが、体が眠りを欲しているように思えない。


 とりあえず、と、二人を起こさないようにそっとベッドから身を起こし、裸足のままペタペタと音を立てながらロフトの階段を降りた。


 身支度を軽く整えた私。未だに二人は起きてこないので気になって時計を見てみたが、私はぼちぼち早起きをしてしまったようだ。


 昼寝もして、早めに布団に入って……というのをしていたらこの時間になるのは仕方がないような気はしたが。


 さて、今からの時間をどうやって過ごそうか。


 思い悩んだ末キッチンに向かった私は、今日の予定を思い返しながらキッチンの中にあるものを物色していた。


 そう、なんせ今日はこの合宿の目玉でもある、海に繰り出す日だから。泳いだりもするとのことなので、昼食はビーチで軽く食べることになっている。持ち運べるようにおにぎりやサンドイッチを持っていく手はずだ。持っていくための準備を整えながら、ふと思う。


 ——海。すなわち、そこは天国に等しい。


 水着の女人たちが闊歩し、そこはしなやかな美貌に溢れている。惜しげもなく晒される素肌と、体のラインを隠すこと無く見せてくれる色とりどりの水着たち。


 正に天国、としか言い様がないだろう。女性の裸体が魅力的だということは数々残された美術品たちが証明してくれているとは思うが、隠されるからこその美、というのは紛れもなく存在する。水着は体のラインを強調しながらも、一部を隠すことでより一層女性が持つ美しさを際立たせていると言って良いだろう。


 ニヤケも震えも止まらない。きっと私は緩みきった表情をしているのだろうと思う。だって、私だけが彼女たち二人の水着を見ることができるのだから。


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