第22話 宿泊先に到着
道路に停まった車から、荷物を抱えて緩やかな坂を登っていく。青空が眩しいくらいに澄み渡っていて、青色は深くて、白みがかっていて、淡くて、綺麗だった。
白くて重そうな雲すらも、景色の一部に溶け込んでいた。上を見ながら歩いていると転びかけて、二人に笑われてしまったのだけれど。
さて、歩みを進めていった私達が辿り着いたコテージは、私達たった三人で使うとは思えないほどに大きくて綺麗なものだった。
白木を基調に建てられたそこは際立って美しく、大きくて開放的な窓が存在感を示している。数段ある階段を登ると、現れたのは重厚そうな扉。
「えぇっと、鍵はこれね……よし、あいたかな?」
キーケースを取り出した優依ちゃんが、出してきた鍵を入れて回す。その動作を上と下の二回繰り返せば、閉じられていた扉が開いた。
「どうぞ、入って?」
にこやかに告げた彼女に誘われるようにして、私はコテージに足を踏み入れた。
扉を開けると、少し薄暗い。外からの眩い光が窓ガラスを通して部屋を照らしているが、照明のついていない室内には優しい影が落ちていた。
ドアを開けた先には石畳の玄関が控えており、木製の下駄箱がある。コテージ内部は外装と合わせてか、木の雰囲気を中心にコーディネートされているのが分かった。
少しの段差の後はフローリングが広がっており、時折柔らかなラグが敷かれている。右手奥には階段が覗いており、見た感じだとそこの階段からロフトに上がれるようだ。
階段を目で追うと同時に、天井の高さに嘆息する。二階という形にするのではなく、ロフトという体を守ることによって開放感を演出しているのだろうか。
まぁ私はここの建築士ではないので知ったこっちゃないが、考え抜かれた素晴らしい建築家の作品の一つに数えられるだろうことは推察できる。
一階部分の間取りとしては、階段横のスペースにL字型のアイランドキッチンが配置されており、手前側にはダイニングテーブルがセットされている。どれも部屋の雰囲気に合ったシックモダンなテイストだ。
階段とキッチンの間に扉が見受けられるから、あの奥に水回りが配置されているのだろう。対して左手側は、壁側がほぼガラス張りになっている。奥の壁には大きなテレビが鎮座していて、居心地の良さそうなソファと、ガラス製のローテーブルが並ぶ。
……正直、一庶民には豪華すぎて目眩すら覚えそうだった。
「すごすぎない……?」
思わず声に出してそうつぶやくと、後ろの雰囲気が無言の肯定を示していた。さらに後ろからは苦笑が滲む。
「うちの両親が海好きで……毎年とは言わないけれど来る場所になるだろうって、豪華になっちゃったのよね。あ、他のところはこんなに豪華じゃないからね?」
「いや、他があるって時点で違うから。優依の感覚ズレてるのよ」
「そ、そうだよ。一般家庭にはそもそも別荘とかないからね?」
「あぁ……」
言われてみれば、とでも言うように得心した表情になる。彼女の普通は彼女の中にしかないので忘れていても仕方ない。ただ、珍しく狼狽えているようにも見える彼女の姿にキュンとした。
「ま、まぁまぁ! とりあえず今日からは三人でここで過ごすから、よろしくねっ」
「うん、よろしくね。優依ちゃん、星羅ちゃん!」
「ん。なんだかんだ、ちょっと楽しみだね」
重い荷物を抱えながら、三人で笑った。
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