第20話 夏合宿の準備
そんな小さな騒動の後。私達は、夏に向けての会議を始めた。
普段は誰かしらが提案したゲームをみんなで遊んでいる時間なのだが、今日は違う。じきに来てしまう夏休みに向けて、合宿の細かい相談をしなければならない。
私達は一応まだ高校生なので、色々と制約がある。宿泊施設に泊まるのであれば親の同意書がいるし、出かける時間にも制限があるし、お酒を飲んだりしかねないような場所だったら許可が降りないし、行けなかったりする。
それに私達には夏休みの宿題がついてまわるのだ。純粋に楽しみたいところではあるが、そう簡単には行かないらしい。
「まず泊まる場所なんだけどね!」
意気揚々と切り込んだのは優依ちゃんだった。いつもよりも明るい表情に私の口角も思わず緩む。
「実は……理事長がね? 部活で合宿をやりたいって言ったら、うちが別荘として持っているビーチ近くのロッジを借りられることになったの。もちろん活動記録をちゃんと出すとか、課題をおろそかにしないとか、そういう条件は出されたんだけど。でもすっごくいいところだから、二人と一緒に行きたいなぁって……!」
キラキラ言う彼女の笑顔に当てられて、また私は笑顔になった。
そう、会話の中にぬるりと出てきた理事長という言葉。平然と使われるそのワードに一瞬驚いて、ふとゲームをプレイしていた時の記憶を思い返す。
そうだった。優依ちゃんが理事長の娘であることを完全に忘れていた。
別荘、とか言うワードが出てくるのも、私立高である私達の学校を運営しているご両親がいるお家なのだから理解できる。
……相変わらずスケールが大きいな、このゲーム。
ギャルゲーに良い家柄の女の子がいるのはあるあるだけど、隣にいるのが理事長の娘さんだと思うと変な感じだ。
私の考えが頭をぐるぐると回っていく中でも、会話は進んでいく。
「別荘はどれくらいの日数使って良いの?」
「特に指定はされてないけど、合宿って言い切れるレベルにしなきゃって感じ!」
「相変わらず優依のとこのご両親は変なとこでゆるいのに変なとこで厳しいね」
「そうなのよねぇ」
合宿と言い切れるレベル、というとどのくらいになるのだろうか、いまいち検討がつかなくて首を傾げた。
私は前世でも部活などをやっていたわけではないので、相場がわからない。周りのことを思い出そうにも数年前の話なので、無理な話なのだ。
「どうする? 確保するのって5日くらい?」
「そうだね、合宿ってそんなもんでしょ」
「え、あ、そうなの?」
「あ、駄目だった?」
「合宿ってそうじゃないの?」
「あー、ごめん、私が間違ってるかもしれない」
怪訝そうな顔をされたので私も二人に合わせることにする。5日が長いのか短いのかやはり感覚がつかめなくて、適当に言ってしまった部分はあるのだが。
彼女たちはそんな私に不思議そうな顔をしている。申し訳ないとは思うのだが私の中身は齢二十のニートなので許して頂きたいところだ。
へらりと笑って誤魔化すと、会話はまた進み始めた。
「とりあえず、三泊四日でどうかな? そんなに長過ぎるわけじゃないからみんなの親御さんも心配ないと思うし、合宿にも丁度いいくらいじゃないかと思うんだけど」
「私はそれで賛成だよ。マシロは?」
「うん、私も大丈夫!」
「了解。そしたら三泊四日で、日程はどこにしようかなぁ? お盆とかだと海に入る時クラゲが出ちゃうんだよね」
「じゃあ八月の頭とかでいいんじゃん? そしたらわかりやすいでしょ」
「私はそれでいいと思う! 優依ちゃんのお家的には大丈夫そう?」
「多分大丈夫だと思うんだけど、確認しておくね!」
彼女はスマートフォンを開いて、そのまま慣れた手付きでフリック入力を始めた。きっと彼女のご両親にメッセージを飛ばしているのだろうと検討をつけて目線を星羅ちゃんに移すと、彼女は私の方を見ていた。
声は出さずに首をかしげると、星羅ちゃんはふるふると首を横に振る。よくわからないが、とりあえず優依ちゃんの連絡待ちがてらにと、合宿中にやることをまとめ始めた。
「とりあえず海の遊びは外せないよなー」
「そうね、海に入って泳ぐのもそうだけどビーチで遊んだりもしたいし」
「あとはなんだろう? 時間がかかるから普段はやれないこと、とか?」
「時間がかかるゲームか、ってなると陣取り系のボードか?」
「いいね! 私好きだから楽しみだなぁ」
「真白ちゃんは陣取り物好きよねぇ」
「あはは、頭いいわけじゃないから負けちゃうんだけどね」
話は時々逸れながらも、持っていきたいゲームやりたい遊び……まぁ厳密に言うと私達の活動内容が決まっていく。楽しくおしゃべりしていれば、優依ちゃんのご両親からOKの連絡が来たようだ。
「うちの両親は大丈夫らしいから、八月の頭から四泊五日で合宿で決定だねっ! 設備とか細かいことは近づいてきてからまた説明とかするから、とりあえず今日はお開きにしよっか」
今日は特に大きな活動をしたわけではないのだけれど、話が弾んでしまったせいでもう日が暮れかかっている。夏の日は長いと言えど、色濃い夕焼けの色が空に滲んでいるからもうそれなりに遅い時間なのだろう。
私達は急いで鞄を肩に掛けて、部室の戸締まりをして、そして校門へ走った。
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