第15話 推しを守護らねば!

 ——時は来た。


 私は、明日を実行日にすると決めた。情報は十分に集まった。いや、集めたと言うのが正しいのだが。彼を糾弾することは、十分にできるだろうと思ったのだ。


 けれど、少しだけ懸念材料があった。少しずつ少しずつ懐柔されてきているであろう優依ちゃんと星羅ちゃん二人のことだ。彼の悪事を告発することで私から離れていかないかどうか、不安だった。


 悠一は、本来ならば攻略を進めるはずの主人公であるポジションだ。だからこそ、攻略対象である私含めた優依ちゃん、星羅ちゃんは、自分が思っている以上に彼に惹かれていると思わなくてはいけない。


 惹かれずにはいられないはずなのだ。ゲームという世界を模した場所にいる私達は、きっと縛られている。恋情すら左右してもおかしくない世界に私はいるはずだから。


 もしかしたら、私が拒絶されるのかもしれない。悠一の思惑通りになってしまうかもしれない。


 途端に不安がこみ上げてくる。明日で良いのか。もっと情報を集めてから、そう思わないわけではない。


 悠一がゲーム同好会に属している以上、ユイセラの二人は甘美なデザートなはずだ。他の綺麗な女の子たちを自分のものにしてから、じっくりとハーレムの一部にしていくつもりなのだと思う。だから、私がこのまま情報を集め続ければ、確実に優依ちゃんと星羅ちゃんは救えると思う。


 ……けれど、そうしたら他の子達はどうなるのか。心を彼に奪われたまま、返してもらえずに、傷つけられて終わって良いのか。


 いいわけがない。


 そうだ。私はあの二人を、この世界を。悠一ハーレムを壊して、私のための楽園を作ると決めたのだ。悠一と違って、誰かを蔑ろにしたり傷つけたりなんてしない。私は皆を為に護るために、悠一という悪を悪として公開するのだ。そうすれば自然に、彼は失脚する。


 私には、強大な力はない。チートも使えない。異世界から転生してきた、ただの一般オタク女子だ。だけど、このゲームに対して、ユイセラの二人に対しての愛は誰にだって負けない自負がある。


 だから私は、明日やるのだ。


『優依ちゃん、星羅ちゃん、明日って予定ある?』


 明日は土曜日。本来なら学校は休みだが、私は部活を口実にしてゲーム同好会の面々を集めるつもりだった。騒ぎにしすぎると、彼の口八丁に丸め込まれてしまう生徒がいるかもしれないと思ったからだ。ならば、私はわたしの信頼できるフィールドで、私の力と彼の力だけで競い合える場所で戦いたいと思った。


 土曜だから、部活をしに来る生徒だけが学校に集まっている。だから、私達の話が公になりすぎずに広がってくれるはずだ。勝算は十分にあった。


『私はないよ、なんかあったのマシロ?』


 星羅ちゃんからの返事は私のメッセージから数分後だった。更に数分後、優依ちゃんからも返事が来る。


『私も大丈夫だよ!』

『実は明日どうしても部活みんなで話したいことがあるの。時間はみんなに合わせようとおもってるから、都合のいい時間教えてほしいんだ』


 一文字打つごとに、緊張と少しの不安に駆られる。けれど送らなければ始まらないのだ。始まらないし、彼の作戦は終わらない。彼女らが最後の餌食になる予定なのだ。終わらせなければいけない。それができるのは私。奮い立たせるように、送信する。


『おっけー。私は朝早くはヤダからお昼からが良い』

『私もお昼からで大丈夫だよ! 13時以降とかがみんな集まりやすいんじゃない? 真白ちゃんはどうかな〜?』

『私もそれで大丈夫!悠一くんにも確認してくるね』


 彼とは個人用のチャットでやり取りをする。最初からグループでやればいいと思ったかもしれない。けれど、これは私なりのケジメだ。


 宣戦布告。


 メッセージ越しとはいえど、彼に何も悟らせずにこれを実行するのは流石に私としても気持ちが良くないから。だからこれは、私なりの宣戦布告。


『悠一くん。明日、13時に部室に来て欲しいんだけどいいかな?』


『もちろんだよ、真白ちゃん。楽しみにしてるね』


 音符の絵文字なんてつけて陽気に返してきたくせに、彼の文面から感じる温度はどこか冷たかった。彼も少しは察したのだろう。これで何も感じない鈍いやつなら、私はここまで警戒をしない。ここまで女の子が彼の虜になっていたりしない。


 だから、彼は強敵なのだ。彼が自分の特性を、強みを理解して、そしてそれを上手に使う。容姿が特別優れているわけでもない彼があの位置にいるには理由がきちんとあったのだ。それを、私は知っている。


『よろしくね』


 色々と。

 そんな言葉は書く必要ない。きっとお互いに分かっている。


 明日が、勝負の日だ。


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