第13話 攻略済みの子
「あの、委員さんすみません。ちょっといいですか?」
「はい、どうなさいましたか?」
きょろきょろと周りを見回して待っている生徒がいないことを確認した彼女は、私に向き直って笑顔を向ける。ああ、本当に可愛らしい子だ。悠一が狙うのも頷ける。
「さっき話されてたのって、有坂くんですよね?」
「そうですけど、貴方は?」
「同じ部活の者なんですけど……」
怪訝そうな目。なぜ話しかけられたのか分からないという感情と、少しの嫉妬が混じっているように感じられる。
唐突に冴えない女が話しかけてきて、しかもそれが自分が少なからず恋慕に似た感情を抱いている相手についてのことだったのだから、話しかけられた意図が掴める訳もないだろう。私が逆の立場でも全く同じことを思っただろうし。
それでも、彼女から得られる情報は絶対にあるだろうと思った。彼がどんな形で距離を詰めていったのか、彼に対して抱いている感情はどういった類のものなのか。分析が力になることは、今までの経験(とは言ってもギャルゲーだが)で何度も味わってきている。
「有坂くんが貴方のお話をしていたので気になったんですよ〜、図書室にいる委員の子は可愛いよって!ほんとに可愛らしい方ですね」
「わ、悠一くんがそんなことを……?!そ、そんなことないですけど、ありがとうございます」
微笑みながら告げると、とって嬉しそうに笑みを浮かべた委員の女の子。名前は咲ちゃんと言うらしい。心から嬉しそうな顔をするあたり、奴のことがちゃんと好きなんだろうなと伺える。すごくモヤモヤするのは、私だけだろうか。
「咲ちゃんと有坂くんは恋人とかなんですか?」
「そ、そんなの普通の友達ですよ!悠一くんは可愛いとか言ってくれますけど、恋愛感情なんてないでしょうし、……」
それを言ったあたりで、寂しそうな色が目に浮かぶ。恋仲になりたいのだろうか。悠一はやめておいた方がいいぞ、と言いたい気持ちはあるのだが、彼女にとっては好きな相手だ。
恋は盲目。きっと彼女には届かないのだろうと思ってやめてしまった。彼女を刺激しないように呼び方にも気を付けているのだが、これが功を奏しているのだろうか、彼女は徐々に心を開いてくれているように感じる。
「だから、友達ですよ、悠一くんとは」
「そうなんですね、私ったら……。相性もとても良さそうだし、すっごく素敵な人だから恋人さんかと思っちゃいました」
「そんなぁ、恥ずかしいこと言わないでくださいっ!」
「あはは、ごめんなさい」
すごく気まずい。でもこれも、新たな被害者を増やさないため、ひいては彼女の目を覚ますためでもあるのだ。もうこれ以上、誰も彼の偽の姿に騙されてほしくない、と。
とりあえず彼女の反応を見ると、悠一は本性を見せてはいないらしい。まあ当たり前だろう、彼の本性を見せたところで好きになってくれる人など、ごく僅かだろうから。
本当の彼を好きになったなら構わない。それでも、彼の見せる演技に騙されただけなのなら、それは、私が救いたいと思う。
「でも、仲良しなお友達がいるみたいでよかったです!って、私が言うことじゃないですけどね」
「ふふ、確かに。でももっと図書室に来てくれたらいいんですけどね、最近は忙しいみたいです」
「あら、そうなんですね?」
私の本能が、これは必要な情報だと感じる。彼女が落ちたことを察知して、他の女の子に手を出し始めたのだろうか。そうだとしたら、複数の子に同時に手を出している証拠になってくれるだろう。次の子が彼の毒牙に貫かれる前に、彼の力を削がなくてはいけない。
「私は少しだけ寂しいですね、恋人でもないのになんなんだって感じですけど」
その苦笑には寂しさが混じっていて、彼女の中には確かに彼がいるのだと分かる。ああ、忘れさせたい。早く。
「いいんじゃないですかね、今度言っておきますよ」
私も笑いを織り交ぜながらそう言うと、彼女も釣られたように笑ってくれた。情報を引き出そうと、そのまま雑談に移行する。結果的に彼女との会話の中で出てきた情報は、彼が今別の女の子に手を出そうとしている現状と彼女に対して行ったアプローチの種類いくつかだった。
これで彼女を救う。そんな大それたことは言えないかもしれないが、私の決意は確かにそこにあった。
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