第12話 悠一の動向を探ろう
突然だが、このゲームの主人公、【
私が優依ちゃんと星羅ちゃんとの交流を深めている間は、彼の干渉は無かった。それはユイセラの二人を護ると同時に、他の女の子たちは彼が手を出し放題な状況にいるということなのだ。
できるだけ被害を減らしたいという思いはあれど、私にとって一番大切なのは二人である事実は変わらない。だから、私はこの行動を選択した。
「とりあえず、現状確認だよね……」
ユイセラは大丈夫とはいえ、悠一の影響がどこまで及んでいるのかを確かめる必要がある。
彼の影響が大きくなっていればいるだけ、彼の主人公補正は強いというわけで。それはすなわち、ユイセラの二人も影響を受けやすくなってしまうことにもつながるのではないかと考えられるからだ。
「あれ、真白ちゃんどこか行くの? お昼は?」
「あ、今日お弁当忘れちゃって……。購買で買って食べるつもり」
「どんくさ」
「星羅ちゃんっ!?」
「あはは、ごめんって。いってらっしゃい」
お昼休み。二人に手を振って送り出してもらいながら、教室を後にした。彼女たちと話せる時間のはずなのにそれが失われてしまう喪失感。
既に嫌になってきたが、考えてきた小さな嘘を二人に告げた。昼休みの間に、悠一の勢力範囲がどこまで広がっているのか確認する必要があると考えたのだ。
彼のクラスである隣の教室をちらりと覗くが、姿は見えない。これは好機かもしれないと思い、教室に足を踏み入れる。
「ごめんね、ちょっと聞きたいんだけど悠一くんの席ってどこかわかる?」
「んー、悠一くんって有坂くんだよね。私の隣だよ」
近くで集まってお昼ごはんを広げていた女の子たちに声を掛けると、偶然隣の席の子がいたようだった。
「そういえば、あなたは?」
「あ、私は悠一くんと同じ部活なの。今日の部活のことで連絡があったから来たんだけどいないみたいだから、またあとでくるよ」
ふぅん、と興味なさそうに相槌をついた彼女。隣の席の子ならもうハーレムの対象に組み込まれていてもおかしくないかと思ったのだが、彼女の可愛さは悠一には刺さらなかったようだ。悠一の名前を告げる表情や、同じ部活というアピールに対してもどうでもよさそうだった。
「ちなみになんだけど、どこに行ったとかわかるかな?」
「んー最近は図書室に入り浸ってるみたいよ。そんなに急を要するの?」
「いや! そんなことないんだけどね。教えてくれてありがとう」
少し怪訝な顔をされたが、部活を話に出していたからだろう。そんなに怪しまれなかったようだ。そのまま教室をあとにしながら考える。
一緒に食べていた集団の女の子たちも、悠一というワードに反応しているようには見受けられなかった。ということは、悠一のクラスは優先順位が低めなのだろうと想像できる。とりあえず、図書室に向かってみることにした。
「そういえば、図書室には綺麗な女の子がいたな」
確か図書委員の子だ。同学年の中でも美人だと言われることが多いはずだが、あの子が今の狙いなのだろうか。真偽を確かめるためにも図書室に向かうのは決定事項なのだが、現在の進行度が気になるところだ。
昼休みの間は開放されている図書室に足を踏み入れる。図書室特有の、少し古ぼけたような本の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。静かなざわめきと、穏やかな空気感。懐かしさを感じながらも、この場所を脅かしている彼の存在を探して、図書室内のカウンターに足を向けた。
「それじゃあ、また来るね」
「悠一さん、もう行っちゃうの……?」
「また帰ってからも連絡するからさ」
「それならいいけど、絶対ですよ」
「ちゃんと守るよ、なんせ君との約束だからね」
それじゃ、と手を振って私とは逆の方向、即ち図書室の出口に向かう悠一。私はカウンター近くの本棚を見ているふりをしながら動向を伺う。彼も特に私のことは気に留めていなかったようで、そのまま出ていった。
爽やかなイケメンを騙る彼の表情は、図書委員の見えないところになると急に崩れた。取り繕うのはやはり面倒なのだろう。図書室を出る前なのに、彼の顔は緩みきっており、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。
きっと、これは彼の気持ちの緩みだろうと安易に想像できた。美女だと持て囃されている彼女が自分の手中に落ちたのが嬉しいのだろう。
……正直、反吐が出る。
「一人は綺麗に陥落済み、か…」
冷静になれない気持ちと、冷静にならないといけない、と思う頭。小さく口に出して整理をしていく。口ぶりからして連絡先も交換済み、関係性は想像つかない、
だが、図書委員の彼女の表情は明らかに恋する乙女のそれだった。弄ばれるだけだというのに、とは思うが、悠一もそこそこなやり手だ。悟らせないのが上手いのだろう。
一度彼のやり口を聞いてみる必要がある。そのためには、そこで少しだけ淋しげな色を目に浮かべている彼女に話を聞くのが一番はやいだろう。そろそろ昼休みも終わるだろうから、急がなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます