第4話 二度目の高校生活はギャルゲーの中で

 ——次の日。


 普通に学校に行って、普通に授業を受ける。高校の授業ってこんな感じだったっけ、なんていう思い出とも言えないそれをなぞるようにして、必死こいて板書をしていた。そのはずが、いつのまにかチャイムが鳴っていたし私は机に突っ伏していた。


 数学ってこんなに難しかったっけ…なんて考えていたら居眠りしていたのだから世話ない。


 人生二回目! イージーゲームじゃん! なんて考えていたはずなのに……。


 いや、でもきっと大丈夫だ。私には、数学のテストで百点を取るよりも大事なミッションがあるのだから。


 そう。私には今日、大切な、何よりも大切なことがある。今から始まる古典の授業なんかよりも、ずっとずっと大切なことだ。古典の先生の、低くて伸びやかでとても眠くなる声をBGMにしながら、今日の作戦を振り返り始めた。


 今日私は、悠一を尾行する。


 理由は単純だ。昨日の行動が、ゲームとはあまりにもかけ離れていたから。ユイセラの二人を見る目。あれが、本心からだとしたら余りにもゲームと違いすぎる。


 ギャルゲーの醍醐味は主人公と攻略キャラクターの間に起こる、ちょっとだけえっちなハプニング。それを楽しむわけではなさそうな表情は、私の知っている彼のイメージとは大きく違っていた。


 だから、少し不安になった。全くの根拠もなしに見た光景を信じることができるほど、私は純粋ではなかったからだ。


 実は、今朝も彼を尾行していた。ゲームをプレイしていたおかげでなんとなくの家から学校への道順を知っていたから、まずは家を特定。


 登校イベントを何回通過したと思っているんだ。熟練プレイヤーをなめるんじゃないぞ、と、誰に言うでもないマウントを取りながら、朝の登校を斜め後ろの電柱の影から覗いていた。


 登校の時はあまりおかしなことはなかったと思う。歩きスマホもしていないし、横断歩道で止まったら時間を気にしてスマートフォンを開いていたくらいか。道中彼のとなりをすり抜けていく女子高生を見る目も、単純に横を通ったから目で追っている、位の違和感のない感じだった。


 ゲームの彼だったら、もう少しじっと見つめたり、自転車に乗る子のスカート辺りを見ていたような気がするのだが、そんな素振りはなかったのだ。


 つまり、登校時にも、昨日の爽やかな悠一だったということだ。


 爽やかな悠一。実に違和感がある。真白としての私も、なにか違和感を感じているのだ。だからきっと、この違和感を見逃しては、いけない気がする。


 とはいえ、まだ証拠を掴むまでは疑いにかかってはいけない。無条件に疑ってかかって、変に勘違いされてしまっては困るのだ。


 私は優依ちゃんと星羅ちゃんに、平穏な学生生活を過ごしてもらって、あわよくば、二人の絡みを見たいというそれだけ。だから、悠一が普通なのであれば、別にそのままいてもらっても構わないのだ。百合の間に挟まるというなら話は別だが、良い当て馬になってくれるなら大歓迎だし。


 ……とまぁ、そんな経緯があって尾行を始めることとなった。朝は何も無かったので、昼休みや部活のときにはどうにか確認できたらいいな、とは思っているのだが、果たしてどうなるのだろうか。


 授業時間の大体を作戦を練ることに費やした私。気がつけばもうお昼休みだ。先程までの作戦がパーになってはいけない。そう思い、私は同じクラスの優依ちゃんと星羅ちゃんに話しかけた。


「あのっ、さ!」


 まって、めちゃくちゃ恥ずかしい。声が裏返った。死にそう。


 二人の席は近くて、ちょうど二人に聞こえるくらいの声で言ったからだろう。目的の優依ちゃんと星羅ちゃんは振り向いてくれた。


「ふふ、どうしたの真白ちゃん」

「そんな緊張することじゃないでしょ」


 優しく笑う優依ちゃんに、怪訝そうな、でも愉快そうな星羅ちゃんのふたり。


「一緒にお昼、食べたいなぁって思って……いい、かな?」

「全然いいよ〜! 3人でだよね?」

「私はできたら3人がいいんだけど、星羅ちゃんもいい?」

「別に、誰とでもいいけど」

「っ、ありがとう…!」


 よし、これで一つ目の目的は達成される。昼休みに警戒すべきは、ユイセラ二人の身の安全だ。誰がどこにいても不信感がないからこそ、昼休みには警戒が必要だろうと思ったからだ。


 他の女の子に対して悠一がどうしているかはきっと放課後、帰るときに明らかになるだろう。


 私の使命はユイセラを守ることなのだと心に決めて、彼女たちを目の届くところにいてもらうためにお昼に誘ったのだ。

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