第3話 『主人公』は要注意人物

 先程から続くツイスターゲームの尊さに身悶えしながらゲームマスターとしての役割を続ける私。二人の濃厚な絡みを見ているうちに忘れていたが、今はゲームの時系列ではどの辺りを進行しているのだろうかと、疑問が浮かぶ。


 私が転生したと思われるゲームは、『放課後メルティーラブ』。現世の私が何度もプレイしたギャルゲーと呼ばれるジャンルに属する作品だ。


 それぞれ個性のある女性キャラクターである、優等生の椎名優依、ダウナー系ギャルの結月星羅、地味な文学女子の柊真白の三人を攻略していくというのが主軸にある。


 この作品に登場するキャラクターたちは皆「ゲーム同好会」というボードゲームやTRPGなどのテーブルゲームについて研究するという部活に所属しているので、部活動を通して青春を追体験できるというコンセプトで大ヒットした名作である。「戻らぬ青春を、もう一度」というキャッチコピーが印象深い。


 余談ではあるが、この『放課後メルティーラブ』はギャルゲーなのだが、優依と星羅の二人をカップリングした二次創作、「ユイ×セラ」は百合界隈での人気をかなり集めている。


 私もその沼に落ちた一人で、ギャルゲーを楽しくプレイしたはいいものの、プレイヤーである男子生徒に対して徐々に殺意が湧き始めてしまったのは良くなかったと反省したものだ。


 ……そして私は、謎の嫌な予感に支配されて思考が止まる。


 思い出したのは、主人公のことだ。


 ゲームの主人公である、有坂 悠一ありさかゆういち。以前、ネットで話題になったのが、『悠一はクズキャラ』という開発コンセプトがあるという噂だ。SNSで元開発メンバーを自称する人が話していた為、若干の信憑性もある。


 そしてもう一つは、今から起こるイベントだ。


 今私達がやっているのは、ツイスターゲーム。ツイスターゲームのイベントでは、遅れて部室に入ってきた悠一がヒロイン三人のうちの誰かとラッキースケベが発生する、ということを私は思い出したのだ。


 恐らく、あと数十秒もしないうちに悠一がやってくる。


 ゲームと同じなら、このあと、悠一は躓いて優依か星羅に覆いかぶさる、もしくは勢い余って真白のスカートの中にダイブする、という事が起きるはずだ。私は一人の百合好き、ひいてはユイセラ信者。男なぞに、この楽園を邪魔されるわけにはいかない。


 あぁ、もう時間がない。

 神様、どうかお許しください。私が今からこれをするのは、清らかな、美しい乙女達を守るためなのです。どうかお許しを。


 ガチャ、と、扉が開く音が聞こえる。


 私は意を決して、優依ちゃんと星羅ちゃんが絡み合うツイスターゲームのシートに向かって倒れ込んだ。


「うわっ…!!」


 私の体は、ちょうど二人の上に覆いかぶさるようにして倒れた。二人を下敷きにするように、そして、私自身も膝をぶつけて痛い。痛いが、それよりも。二人の柔らかい体があるという事実で私の頭はふわふわと天にも登るような心地だ。


 申し訳ないという気持ちは勿論ある。でも、どうか許してほしい。だってこんなにも柔らかくて、いい匂いの女の子たちが私の下にいるという事実は動かせないのだ。どうか許してほしい!


「大丈夫、真白ちゃん!? 転んだみたいだけど……?」


 優依ちゃんと星羅ちゃんに覆いかぶさったまま、もぞもぞと動いていた私に手を伸べたのは悠一だった。心配そうに手を差し出してくれている。


 そこで私が感じたのは、戸惑い。何故かといえば、ゲーム世界での主人公・有坂悠一はこんな思いやりのある態度を取るキャラクターではないからだ。迷子の小学生を見かけた際の選択肢で、『見てみぬふりをする』が何故かルート選択の最適解になるようなヤツなのだ。


「だ、大丈夫だよ! ごめんね優依ちゃん、星羅ちゃんっ。悠一くん、ありがとうね」


 そう言いながら、悠一の手を取って起こしてもらう。下心のなさそうな彼の表情に、こちらもなにか毒気を抜かれたような気持ちになってしまった。


 一応攻略キャラクターであるはずの私をいかがわしい目で見てこないし、めちゃくちゃ可愛い美人なユイセラの二人に対してすら卑猥な目を向けていない。


 おかしい。これでは『悠一クズキャラ説』は嘘だったということになる。とはいえ、あれは公式情報では無かったし、やはりデマだったのかもしれない。


 一旦、クズキャラ説は頭の隅に置いておくとしよう。ひとまず、今日の悠一の対応は覚えておくことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る