第23話:ようこそ

「はぁ、なんだこのステータスは」


 カードが届くとさっそく登録開始。

 難しいことは一切ない。ただ指先をちょんっと切って血をカードに垂らすだけ。それも一滴程度でいい。


 さっき切った指は神父が治癒してしまったので、また傷を作る所からだった。

 二度も痛い思いするなら、さっきの治癒して貰わなきゃよかったな。

 そんなことを考えていると、ギルドマスターの素っ頓狂な声が聞こえた。


「なんか変ですか?」

「変っつーか……平均してどのステータスも高いってのは珍しいと思ってだな」


 正確な俺のステータスて今どうなってんだ?

 自分のカードを改めてみる。



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 筋力210 体力217 敏捷190 魔力164


******************************************



 お、だいたい予想通りだな。


「リヴァは小せぇ頃から肉体労働やってたからな。あとは俺様が魔法の才がねえかなって、いろいろやらせたらこうよ。魔法の才能なかったけどな」

「にしたってここまで器用にどのステータスも上げるとは……こりゃ大器晩成型になるな」


 好き勝手言われているけど、口出しはするまい。


「いたぁのぉ」

「すみません。司祭様、こちらのお嬢さんの指の治癒をお願いします」

「オッケーオッケー。セシリアちゃん、指見せてみな」

「はいっ」


 セシリアの登録も出来たようだ。どうせなら俺の傷も治してくれよ。


「こっちのお嬢ちゃんもまた……随分とたけぇ魔力だな」

「え、なになに。セシリアの魔力いくつなんだよ」



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 筋力35 体力64 敏捷120 魔力469


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 魔力だけ突出してるな。

 いや、十三歳ってことを考えると、敏捷も高い。こいつは俺と違ってステータスの強奪なんてしていないし、素の高さだ。


「しゅごい?」

「ん? このお嬢ちゃん……」


 ギルドマスターが首を傾げてセシリアを見た。

 発音が気になったんだろう。


「言葉は今練習中なんだ」

「あぁ、なるほど。そう、凄いぞ。お嬢ちゃんぐらいの年齢で魔力が三桁もあれば、将来はきっと大魔導師様だ」

「だいまおうし?」


 ギルドマスターが何か言いたそうな顔で俺を見る。


「魔王じゃなくって魔法だ」

「そ、そうか。ちょっとビビっちまったぜ」

「けどセシリアは精霊使いだぜ」

「精霊使いか……なるほど。精霊使いならこの若さでも即戦力なのも頷ける」


 精霊使いなら?

 魔術師と何か違うのか。


「精霊使いの魔術は、精霊そのものが教えてくれます。魔術師は誰かに教えを乞うか、そういう学び舎で学ぶか……とにかくひとりで身に付くものではないですから」

「まぁそういうのがあるから、若い魔術師ってのは少ないのさ」

「へぇ。じゃあ俺たちがモンハウから救出したパーティーの魔術師って──」

「あぁ、かなーり優秀な人材だ。他の連中も、成長速度が早い期待のルーキーさ」


 そりゃ助けて良かったぜ。

 

「さて、あとは裏面に名前を彫りこむだけだが──」

「お、俺、字が汚いんでよろしくお願いしますっ」

「よおしうお願いしまうっ」


 セシリアもかよ。


「あ……字ぃ、綺麗な人がいいです」

「うんうん」


 ってことでギルドマスター、メサヤさん、パウロア氏の三人に字を書いて貰った。

 その結果──


「パウロア氏、よろしくお願いします!」

「しまうっ」

「あ、はい」


 ギルドマスターとメサヤさんがめっちゃ落ち込んでいる。

 まぁギルドマスターのほうは予想通りな感じの字だったけど、まさかのメサヤさんも似たり寄ったりとは。

 しかしパウロア氏の文字は美しかった。すっげー綺麗。


 錐のような道具で、パウロア氏が俺たちの名前を彫りこんでくれる。

 その間にメサヤさんが飲み物を入れてくれた。

 香からすると紅茶かな。


「二人のおかげで、被害が広がらなくてよかったわ。ありがとう」

「あぁ、別に。たまたま十二階に下りただけだから。そのタイミングであのパーティーが転移してきて、まぁ……それで」

「まぁそれでってぐらい、軽い気持ちで人を助けるのね、あなた。それはとてもステキなことだと思います。その気持ち、大事にしてくださいね」


 軽い気持ちで?

 ……気持ち……そんなこと、考えたこともなかったな。

 

 でもきっと……あの人もそうだったんだろう。


 ──長生きしろよ、坊主。


「だがな、あんま無茶はすんなよ。エルヴァンが間に合ったから良かったものの、遅れていたら二人とも命はなかったかもしれないんだ」

「は、はぁ…‥」

「モンハウは見つけたらすぐにギルドに報告。で、討伐隊を結成する。スタンピードと違ってその階層より下に潜れるパーティーが二、三あればなんとかなるからよ」

「でも今回は人為的に作られたモンハウで、しかも転移装置の場所でしたから……リヴァ君の判断はあながち間違ってはいないんでしょうね」

「まぁ……だな。実際あの日、十二階層から戻って来てねえパーティーが二つあったからな」


 帰ってない……冒険者。


「死人が……」

「階層にある転移装置はな、ありゃな冒険者カードに反応するんだ。それで誰が通過したか分かるようになってる」

「それ以外にもギルドに申告して潜る冒険者もいますので、それで分かるのです。モンハウ鎮圧後、念のために十二階層に高ランク冒険者を向かわせて全員に上がって来るよう伝えて貰いました」

「それで戻ってこなかったパーティーが……」


 ギルドマスターが頷く。


 俺たちが十二階に到着する前にやられたパーティーがいたのか……。

 もっと早く俺たちが──いや、全部を救える訳じゃない。

 全部を救えるなんて思うな。そんなのはただの傲慢だ。


「リヴァ。リヴァは、わたし、たすえてくえたよ」

「セシリア」


 落ち込んでるような顔でもしてたのかな。セシリアが心配そうに顔を覗かせた。


 別に好んで人助けするつもりなんてない。

 ただ……


 ただそこに助けを求める奴がいるなら──


 俺はあの人のように……


 助けたいと、ただそう思うだけだ。


「よし、出来ました」


 パウロア氏が錐を置いて、俺たちにカードを返す。

 出来上がったカードには、名前だけじゃなくカッコいい装飾まで彫ってくれていた。


「ふう、ちょっと気合いれてみました」

「サイコー!」

「あ、いいなぁ。俺様のカードにもぉ」

「あなたもう冒険者辞めてるでしょ」


 セシリアも受け取ったカードを、にまにまと見つめていた。


「これでお前さんたちは冒険者だ」

「ようこそ、冒険者ギルドへ」

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