第24話:地上へと続く階段

 この小さな冒険者カード一枚あるのとないのとで、世界は一変する。

 自由に階段を上り下り出来るし、地上で行うような依頼を受ければ外の世界にも出ることが出来るんだ。


 外に──地上に──。


「よし、それじゃあ早速だが、ひとつ仕事を受けてくれねえかな」

「え、仕事?」

「あぁ、そう難しい仕事じゃねえ。ただのお使いだ」


 お使いクエストか。まぁゲームでも最初はそんなのばっかりだったし。


「了解した。で、依頼内容は?」

「まぁまぁ慌てんな。今用意するから、そうだな……メサヤ、ギルドのロビーで依頼を受ける時の流れとか教えてやってくれ」

「分かりました。ではお二人とも、一階に行きましょうか」

「はい」「はいっ」


 一階に下りてロビーに行く前に、別室でもう一つの報酬である金を貰った。

 金はギルドに預けることが出来るらしい。


「お預かりした金額はギルドカードに記録されます。司祭のカードをご覧になったことは?」

「あぁ、あります。ってか生臭って司祭だったんですか?」

「生臭? あぁ、エルヴァン司祭のことですね」


 生臭でしっかり通じるあたり、ギルドでの扱いもそんなもんなんだろう。


「ランク……としては司祭です。他の職業と違って、聖職者は教会に属しています。そこで階級分けもされるんですよ」

「階級って、例えばどう分けられるんです?」

「下から、見習い神官、神官……次が神父とシスターですが、ここは男女で言い方が変わるだけで、階級は同じです。次が助祭、そして司祭、高司祭となります」

「……上位クラス!?」


 え、神父って……実は凄い?

 いつも馬鹿みたいに「俺様は一流の冒険者だったんだじぇー」って言ってたけど、本当だったとか?


「あ、それでですね。お金を預けられますと、カード裏面の名前の下にその金額が浮かび上がります」

「預けている金額……生臭のカードにあったの、151だった」

「……ひゃ、ひゃくごじゅういち……エルってことですね」


 百=銀貨一枚だ。

 地下三階でも一日十エルはないとまともに飯は食えない。

 子供たちの人数を考えると、二日分の食費にもならないな……。

 どことなくメサヤさんも同情するような目で明後日の方角を見ていた。


 ん? そういや生臭どこ行ったんだ?


「セシリア、生臭どこいったか知らないか?」

「ん、うえ。まだ」

「ギルドマスターとご一緒なのでしょう。このお金、どうされます? 持ち歩くには危険ですが」

「そう、だな。俺と彼女に半額ずつ……セシリアは預けるか?」

「んー……うぅ」


 カードを見つめて、それからメサヤさんが持つ巾着を見た。

 金貨十五枚なので、巾着は大きくはない。だけど大金だ。

 地下三階の町では大銅貨すら大金に見える奴がいるぐらいだからな。


「分からないなら預けとこうぜ」

「はいっ」

「全額でよろしいです? いろいろ買い揃えたりするものもあるでしょう?」

「買い……あぁそうか」


 本格的にダンジョンに籠るなら、野宿に備えていろいろ買っておきたいな。

 せっかく地下一階まで自由に出入りできるようになるんだ、三階じゃなくてここで多少質のいいものを揃えよう。


「金なら俺様に預けてある分もあるだろう。ほれ、持ってきてるから、こっちの半分を預けとけ。残りはほら、いろいろ買わなきゃなんねえだろ」


 と神父が登場。


「お、おう。用意周到じゃねえか」

「へっ、まぁな。たぶんこうなるんじゃねえかなぁっと思ってよぉ。俺もいつまでもこのキンキタキラしたもん隠しておくのも、心労がな……」


 いやまぁ、封印魔法だっけ? それ使ってるつっても、キンキラキラは確かに心臓に悪かっただろうな。

 神父は巾着に入れた金と、裸の金を俺に渡す。俺はそれをメサヤさんに渡して、ギルドで預かってもらうよう手続きをして貰った。


「ではこちらへ。ロビーで行えることのご説明もしますので」






 地下の冒険者ギルドでも依頼はある。上に比べると種類は少ないらしいけど、ダンジョンでしか取れないものなんかもあるのでそういったものを持って来てくれって依頼があるそうだ。

 ロビーの壁にそういった依頼を張り付けてあるから、その紙を持ってカウンターヘ。

 そうすりゃ職員が依頼の受諾処理をしてくれる。


 ドロップアイテムの査定もここだ。

 他にも階層やモンスターの情報も金を払えば教えてくれる、そうだ。


「ここのダンジョンでは地下三十階までありますが、二十階までなら地図もございます」

「お金取るんだろ?」

「そりゃー……もちろん!」


 っとメサヤさんはにっこり笑った。


「あ、マスターが来たようですね。それでは、ご武運を」


 ご武運をって、お使いクエストだろ?

 そんなに難易度高い依頼持って来るのかよ。


「よぉし。ギルドからの依頼だ!!」


 え?

 ちょ、そんな大声出されると、注目浴びるじゃん。

 ほら、みんな一斉にこっち見てるし。


「リヴァ、セシリア。両名にはこの手紙を──」

「て、手紙を……」

「てがぃ?」


 なんでそう、いちいち溜めるんだ。しかも手紙を掲げてるし。

 え、これなにかの儀式?


「手紙を、迷宮都市フォレスタン地上支部のギルドへ届けてもらう。モンハウ鎮圧の報告が書かれた、この手紙を!!」

「え……地上……は?」


 上のギルドって、実際すぐそこじゃん。階段で繋がってんじゃないのか?

 なんでわざわざ──


「あの二人がモンハウ潰したパーティーか?」


 そんな声が聞こえた。


「若い男女のペアってのは聞いてたが」

「地下十二階のモンハウとはいえ、あの若さで成し遂げるとは」

「あら、可愛い坊やじゃない。うちらのパーティーに誘ってみようかしら」

「頑張れよぉ、ルーキー」

「二人のおかげで僕らは命拾いしたんだ。ありがとう!」

「ありがとうよ!!」


 へ、な、何が起きてる?

 なんで俺、感謝されてるんだ?


 俺はあの人みたいに……ただ、出来ることをやっただけなんだ。


「ふふ、ふふふ。こしょヴぁいねぇ。ね、リヴァ」

「え、あ……うん」


 こそばゆい、か。


「さぁさぁ、早く仕事に行ってくれ。あ、横着して直通階段なんか使うんじゃねえぞ。ちゃーんと外の階段から行け。これが通行用カードだ。有効期限は三日だからな。三日以内に依頼を終わらせてくれよ」

「いや三日以内って、行って帰るだけなら──」

「さぁさぁ、行った行った」

「お、おい、え? ちょ」


 ギルドマスターに背中を押され建物の外へと出される。その間も冒険者から拍手や称賛の声は止まない。


 建物の外には神父がいて、真っ直ぐ後ろの通りを指差していた。

 その先にあるのは──


 地上へと続く最後の……階段。


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