第21話:冒険者ギルド
三日後の夜、セシリアが食料を仕入れてやって来た。
それを直ぐに食べられるように加工する。
野菜はさっと炒めて食えるように、切った状態で一食分ずつ小分けにして巾着に入れた。
この世界にもビニール袋があるといいんだけどなぁ。
ガラスはあるが、ここでは貴重品だ。
木のお椀に入れて布で蓋をしただけのものを使っている。
一週間分を用意して、あとは燻製肉やハムも一食分ずつ切り分けて葉っぱで包んだ。
「葉っぱもいっぱい持って来てくれてたし、助かったぜ」
「んふぅ」
わしわしと頭を撫でてやると、ドヤ顔になるセシリア。
──お前がー、あの子にー、惚の字だって──
「ああぁぁっ」
「ひぁあぁっ」
くっそ神父のせいで、変にドキドキするじゃねえか。
あ、神父の野郎、笑ってやがる。
「ふ、ふぃ?」
「あ、いや、なんでもない。なんでもないんだ」
「ガキ共寝てるんだから、ちょっとは静かにしろよぉ」
わざとらしく唇を尖らせる神父。
お前のせいだろうが!
やることやってさっさと寝る。
今日はセシリアも教会で休ませ、明日の夜にでも帰らせるか。
──と思っていたのだが。
ガキんちょどもが起きてくる前に飯を済ませると、神父がやってきて「来たぞ」と告げた。
教会の祈りの間には、それなりに身なりの整った二人の人物が立っていた。
「おはようございます」
そう挨拶をしてくるので、思わずこちらも「おはようございます」と返す。
「あら、エルヴァン司祭が面倒を見ているお子さんのわりに、ちゃんとしていますね」
「おいおい、そりゃどういう意味かねメサヤちゃぁん」
「そういうところのないお子さんでよかったわぁって意味です」
神父とは知り合いらしい。
ん? 今司祭って言わなかったか?
「おはようございます。私は冒険者ギルドの迷宮都市フォレスタン地下支部の職員メサヤと言います」
「同じくパウロアです」
メサヤってのが女性で、パウロアってのは男性。女性のほうが年上だ。
ギルド職員ってことは、この前の件だろう。
「立て込んでいたせいで遅くなってごめんなさいね」
「モンハウと、それからトレインマンの件で詳しくお聞きしたいことがありますので、地下一階の冒険者ギルドまで来て頂きたいのですが、今からでは都合が悪いでしょうか?」
「え、今から? い、今から地下一階に行けるってこと?」
予想外だ。てっきりここで話を聞かれるのかと思っていた。
地下一階に……行けるのか!?
「確かお二人でモンハウを鎮圧したそうですが」
「俺様じゃなーいよ」
「え、神父?」
最終的に魔法ぶっぱなして殲滅したの、神父じゃん。
その神父はウィンクをして寄こす。
俺はガードして、跳ね返すような仕草をした。
「まぁどこかの誰かさんが何かしたってのはいいんです。もうひとりはそちらのお嬢さんでいいですね?」
「え……あ、はい」
「報告にあったのは若い男女のパーティーとありました。彼らを救助したのがあなた方で合っていればそれでいいので」
「そ、そうですか」
「ですのでお二人で来て頂きたいのですが」
二人……セシリアもか!?
どうする。連れていって種族がバレでもしたら大変だぞ。
「もーちろん、保護者として俺様もいくけどいいよな?」
「構いません。最後のお話はどうせ、司祭にもして頂く必要があるでしょうし」
「よっし。じゃあ三人で行くかぁ」
神父が来るっていうなら……まぁ大丈夫か?
セシリアを見ると、特に気にした様子もなく目を輝かせていた。
「すげぇー、顔パスじゃん」
ただの一度も上ったことのない、地下二階へと続く階段。
入口は国境警備かよって感じの雰囲気で、槍を持った兵士が六人も立っていた。
「実際には顔パスではなく、カードパスと言うべきかな」
パウロア氏が見せてくれたのは、神父の持つ冒険者カードに似たもの。
「これはギルド職員専用カードで、これがあれば他者を同行しての階段の上り下りが可能になるんだよ」
「俺様の冒険者カードではそれが出来ねえ」
「ただしいつでもこのカードを持てるわけじゃない。冒険者カードは彼らが常に持ち歩けるものだが、こっちは必要な時にしか渡されないんだ」
「そうでもしないと、悪用されちゃうからね」
こちらのカードも、登録した職員にしか使えない。
その上で普段はギルドマスターが管理し、こういう時にだけ担当する職員に手渡されるそうだ。
「じゃあ帰りもお二人が?」
「んー……まぁそこはどうするか、マスターと話してから決めてね」
どうするかって……どういう意味なんだよ。
地下一階に到着すると、三階との違いに驚いた。
「建物がちゃんと並んでる……」
「まぁ三階は適当ーに造られてるからなぁ。早いもん順に建物建てたって感じなんだよ」
町っぽい。それが素直な感想だ。
ここもカードパスで通り抜けると、横幅の広い通路を歩いて行った。
ごみ溜めと違う。通路の脇には屋台まであって、なんか賑わっている雰囲気だ。
二階も結構綺麗だって思ったが、それでも屋台なんてものは見ていない。代わりに浮浪者は見た。
「表通りはこんなんでも、裏通りは治安が悪い。それは地上でも同じだ。だから覚えておけ。どこの町に行こうと、用もないのに裏通りなんかにはいかないことだ」
パウロア氏はずっと真面目な顔をしている。
たぶん神父とは相性悪そうだ。
そうこうするうちに、大きな建物へとやって来た。
「ここは冒険者ギルドよ。迷宮都市には地上と地下の二カ所にギルドがあるの。こっちは主にダンジョンへ向かう冒険者専用ってとこかしら」
「地上のギルドでは、クライアントから依頼された仕事を冒険者に斡旋する、というのは主な業務内容だ」
冒険者の活動内容でギルドも分けているのか。
「ちなみに地上と地下のギルドは繋がっているから、地上の依頼を受けたいときには階段を使って上に行くことも可能だ」
「え、地上に出れるのか!?」
「地下の住民で、地上の居住権を持っていない冒険者なら、依頼を受けない限り建物の外には出れない」
あぁ、そりゃそうか。
だけど外を見ることは可能ってことだ。
あ、あとでちょっとだけ見せて貰う事って出来ないもんかな。
功労者なんだしさ。
二人の案内で建物の中へ。
そのまま二階へと上がり、広めの部屋へと通された。
会社なんかによくある応接室だな。
ソファーを勧められて腰を下ろす。
「あら、こういう所に来るの、初めてじゃなさそうね? 普通はみんな緊張するもんだけど、隣の子みたいに」
「え、あ──セ、セシリア?」
「ひゃひっ。はわ、はわわ、はわわわわわ」
セシリアはソファーには座らず、その前にしゃがみ込んでぷにぷに突いていた。
柔らかい。
どうやらそれが不思議らしい。
ソファーなんて柔らかくて当たり前だっっての。
いや、その当たり前を彼女はしらないのか。
たぶん俺も、前世の記憶がなければこうなっていたかもしれない。
いや、突くのだけは恥ずかしいから止めてくれよ俺。
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