第20話:超絶イケメン最強神父
「んー、これで空間内三割ってところか」
神父の『帰還』魔法で教会に戻ってくると、奴が手あたり次第巾着の中にいろいろと詰めていった。
調理器具、テーブル、椅子八脚、神父のベッド。
するとぺったんこだった巾着に少しだけふくらみが出た。
「こいつはな、無限に物を入れられる訳じゃねえ。袋ごとに中身の容量はまちまちなんだ。意外と少ないが、それでもこの部屋いっぱいに詰め込めるぐらいの容量があるな」
「すげぇな」
「しゅごごごごご」
「金貨五十ってところか」
……は?
「え、それ一個でここから冒険者登録までやってもお釣り出るじゃないか」
「そうだな。だが売るなよ。これがどれだけレアアイテムだと思ってんだ。俺すら持ってねーんだぞ!」
「そういやこれ、神父が倒した恐竜から出たんだっけ」
「きょーりゅー? 勝手に命名するんじゃねえよ。あれはティアンティーレクスってモンスターだ。まぁそれはおいといて、これはお前が持っとけ。冒険者辞めた俺様が持ってたって仕方ねえだよ。それにな、これがあることで格段に効率は上がるんだよ」
でも金貨五十枚……
地上の居住権の半分の金額だ。
これ一個で半分貯まることになる。
「いいかよく聞けリヴァ。お前の背負い袋に、こいつは入るか?」
神父が巾着からドロップアイテムの毛皮を取り出した。
二メートルぐらいの毛皮だ。
「入る訳ねえだよ」
「だよねぇー。十二かいはな、ドロップ率は低いものの、こいつが出るんだ。これ一枚で銀貨二枚だぞ」
「すげーじゃん! 六日分の稼ぎになるのか」
「でも背負い袋にゃ入らないんだろ? どうやって持って帰る」
そりゃあ丸めて紐で括って背負うしかないだろ。
ってところで、そんな格好した自分を想像してみた。
とてもじゃないが、まともに戦える気がしない。
「運よく二枚目でましたー」
むりぽ過ぎる……。
「ドロップアイテムの中には、結構デカくて重いものだってある。こいつを持ってみろ。俺のベッドが入ってんだぜ、それ」
「……軽い」
「小さいから懐に入れて持ち歩けるし、盗難防止にもなるだろう」
ぐ……。確かに今まで、背負い袋いっぱいにアイテム詰めて地下街に上がって来ると、嫌な視線を向けられていたもんだ。
盗まれないようにって、警戒しながらここまで来てたもんな。
「他にも利点があるぞ。この袋の中に食料を入れても、腐らねえ。中の時間は止まっているからな」
「え? 止まってる?」
「あ、先に言っておくとだな、生き物は入れられない。まぁ入れられるようなら、こうして俺が手を突っ込んでる時点で、中に吸い込まれてるっちゅーねん」
人もモンスターも動物も、とにかく生きているものは入らない。
死んでいれば入るらしい。
「地上なら倒した獲物を袋に入れて、解体業者に持って行く奴もいるぐらいだ。とにかくな、これは自分で使うためにとっておけ」
「うぅーん……」
「デカいもんが出て、そのたびにここに戻ってきてたら、時間の無駄だろ。これがあれば何日もダンジョンに潜れる。転送装置代の節約だって出来るんだ」
「リヴァ、私も、そえ、あったほうがいい、思う」
「セシリアがそう言うなら……」
あの場に彼女がいなければ、たぶん今頃俺は死んでいた。
あの場のドロップは全部、神父が俺たちにくれるという。二人で分け合わないとな。
「分かった。これは俺たちが使うってことで」
「リヴァくぅーん。今『俺たち』って言ったよねぇ。このお嬢ちゃんとずーっと一緒ってことかぁ。ねぇ、紹介してよぉ」
「……くっ。殺すぞエロ生臭変態坊主」
「きゃーっ。リヴァくん怖いわぁー」
可愛くもない声を上げて、神父がセシリアの背中に隠れる。
そんな神父を見て、セシリアはにこにこと笑っていた。
はぁ……疲れる大人だな。
「じゃあ岩塩と胡椒とか、とにかく料理に使える調味料系とか頼むよ。人間の町に行かなくていいからな。安全に手に入る、物々交換でいいから」
「はい」
「魔石以外に何があるといい?」
「んー、こえとか、こえ」
空間収納袋をセシリアに持たせ、地上で食料を仕入れて来て貰うことにした。
何日もダンジョンに引き籠るためには、食料が必要だ。
地下街で買う物より、セシリアが持って来る地上の食べ物のほうが断然美味いので、どうせならそっちの方がいい。
「ハ、ハムがあったら……嬉しいんだけどな」
「うん、はいっ。さん、にち、ぐあい」
「三日ぐらいか?」
「はいっ」
地下街に来るときは夜にしろと念を押して彼女を見送った。
寝床には戻らず、教会へと向かう。
今回の件でギルドから事情聴取があるだろうって、神父が言うので、教会で待ってなきゃいけないからだ。
「お、セシリアちゃんは帰ったのか」
「あ、あぁ。帰ったよ」
神父にはセシリアが有翼人だってのは話してない。
ダンジョンで知り合った──としか言ってなかった。
「外は暗いけど、大丈夫なのか?」
「いつも夜だったし、大丈夫だ──うぇ!?」
外はって……セシリアが外に出たの、知ってるのか!?
「はっはぁーん。あのなぁリヴァ、俺様は超絶イケメン最強神父だぜえぇ。知ってたに決まってんだろ」
「し、知ってって……どこまで知ってんだよっ」
「んふぅー。お前がー、あの子にー、惚の字だってグハァ。急に殴るとか酷いリヴァくぅん」
「次はこっちで殴るぞ」
神父に貰ったハンマーをチラつかせた。
「それさすがに死ぬから止めて。ったく、わーったよ。アレだ。お前ぇが随分前に聞いてきただよ。エルフやドワーフ以外の亜人について」
「あ、あぁ」
セシリアが上から落ちてきた後の話だな。
「そん時お前、有翼人の話したら表情変わったんだよ」
「ちっ。目ざとい奴だな」
「観察力が鋭いと言って欲しいなぁ。冒険者になるなら大事なことだぞぉ。あと乙女心を知る上でも大事なんだからな。今のままだとモテないぞお前ぇ」
ほんっとこいつは的を得たことを不真面目に言いやがる。
「まぁあとな。俺はここで身寄りのない子供を拾っては面倒みてんだ。親のいるガキだって、だいたい顔は覚えてんだよ。そもそもあんな綺麗な子がいたら、俺が忘れる訳ねえだろ」
「ロリコンめ」
「いやぁー、リヴァくんったらぁ。でもほらぁ、ロリコンなんていくらでもいるだろう。それでなくたってこの町じゃ、ちょっと見た目が良ければ直ぐに人攫いに連れて行かれるんだ。あの年齢までここにいるような子じゃねえんだよ」
だから外から来た女の子だってのは、見た時から確定していたらしい。
確かにな……この教会で暮らす子供たちの八割は男だ。
そしてこの教会にいたって、教会の外にでてひとりで歩いてりゃ、連れ去られることもある。
実際、俺が幼い頃に女の子が遊びに行ったっきり帰ってこないなんてことが何度かあったし。
そのたびに神父は女の子を探し回り、帰って来た時には泣いて自分を責めていた。俺たち子供には見えない場所で──だが。
「とにかくな。絶対に他の奴らには知られるな」
「や、やっぱマズいのか」
「あぁ。有翼人は今や希少種だ。希少ってことはそれだけで価値が上がる。有翼人は奴隷の中でも最も高値で取引される種族だ」
「それを知ってる奴に見つかれば、狙われるのは必須か……」
「まぁ世の中悪い人間ばかりじゃねえ。絶対にそうなる訳じゃねえが、どこに悪い奴らが潜んでるか分からねえからな。危険を避けるために、隠しておく方がいいだろう」
話さないのが吉。それは変わらないってことだ。
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