第17話:救出

「魔法陣からの転移か!? ──止まれっ」


 咄嗟に声がでた。


「セシリア!」

「あぅ……えいっ」


 風を圧縮して槍のようにして投げる魔法。敵一体に有効なそれを、セシリアは何本も出現させた。


 地下十二階にある魔法陣を使ってここまで戻ってきた人がこの中にいる。

 範囲魔法を使えば巻き込むのは確実で、だから彼女は単体魔法を使ったのだろう。

 俺もハンマー二刀流で手近な奴から片付けていった。


 一時停止が切れれば即スキル使用。

 それを五回繰り返したところで、転移してきた人を発見。

 時間いっぱい。もう一度一時停止したら、転移してきた人たち《・・・》の腕を引っ張った。

 人数は四人──


 二人人を引っ張ったところで時間切れ──再び一時停止。


「うっ……」


 これまでの疲れもあって、目頭に痛みが走る。


「あんたら動けるなら仲間を担いで階段まで上がってくれ!!」

「え、あ……わ、分かった!」

「なんで階段下フロアにモンハウなんてっ」


 叫んだところで状況は変わらない。

 残り二人は彼らが引っ張り上げ、なんとか全員救出完了。

 といっても四人とも負傷をしている。


「聖職者は……いないか?」

「いない……けどポーションがあるから、これでなんとか」

「けどこの状況、ヤバいんじゃない? だってモンハウの真っただ中に転送装置があるんだもの」

「十二階から帰ろうってパーティーも、入口から転移装置で十二階に来るパーティーも……全員あの中だよな」


 この状況は確かにマズい。

 俺の一時停止で出てきた人たちを救出することは出来る。だけどそれは、このモンハウを潰すまでずっとここで居続けなきゃならないっていう意味でもあった。

 いや。目が痛み始めているし、そう何度も連続で使うのは無理だ。


「セシリア。まだ魔法は使えそうか?」

「はいっ」


 こいつ、結構タフだよなぁ。


「今なら誰もいねえ。範囲魔法ぶっぱなせ!」

「おぉー!!」


 声には出さず、セシリアは魔法の詠唱に入った。

 こっちはさりげなく視界に彼女を入れておく。万が一、魔法陣から誰かが出て来たとしても、セシリアごと動きを止めるためにだ。


 幸い魔法陣から人が出てくることなく、セシリアの魔法が完成。

 三日月型の風の刃がいくつも弧を描いて飛ぶと、階段下に群がったモンスターを一網打尽にした。


「すげ……」


 素直にそう思った。

 一緒にいた冒険者も同じことを思ったのだろう。魔術師っぽい男は口をぽかんと開けて、信じられないといった顔を向けている。

 

「中級の精霊魔法の中でも、必要な魔力量の高いやつだぞさっきの。あの子まだ未成年だろ?」


 そう言われて、俺も未成年ですなんて考えてしまった。

 十五で成人って、やっぱ馴染めないよな。


「ふぅー」


 さすがに疲れたのか、セシリアは階段に腰を下ろして振り返る。


「お疲れ。残りは俺が片付けておくよ」

「いば、がんばえぇ」

「おう」


 残りは十匹ほど。一時停止を一度だけ使って、十秒以内に倒せたのは四匹。

 はぁ……セシリアに比べると俺、弱いなぁ。


 もう一度一時停止して追加で四匹倒し、残りはスキル無しでなんとか倒し終えた。

 階段下にはドロップアイテムがどっさりある。

 パーティー救出までに何十匹か倒していたし、下手するとここに五十匹ぐらいいたのかもな。

 とりあえず全部拾って背負い袋に入れた。


 さすがに今のでかなり目が痛くなった。少し眩暈もするし、ちょっと休もう。セシリアも魔力が切れかかってるようだしな。


「大丈夫か、お前ら」


 気遣って声を掛けてきた冒険者に、ちょっと魔力切れだと説明。

 休んでから上に戻ると話すと、彼らは一足先に地上・・へ戻ると言う。


 地上か……羨ましいぜ。


「モンハウの報告はギルドにしておくよ。君ら名前は? ギルドにモンハウ討伐の功労者だって伝えておくからさ」

「……いや、俺たちは冒険者登録してねえから……」

「は? 冒険者じゃないのかお前。でも──」

「リック」


 熱血漢なパーティーリーダーってところか。それを魔術師の男が止める。

 俺が地下街の住人だって気づいたんだろう。


「冒険者でなくても、モンハウ討伐に貢献すればそれなしの報酬が貰えるはずだ。だから名前と、どこか連絡の取れる場所があれば上に伝えておく」

「そんなの出るのか」


 魔術師が言うには、冒険者であれば貢献値が結構貰えるとのこと。

 勿体ないことをした……。

 それから規模に応じてお金の報酬も出るそうだ。

 あと──


「モンハウ討伐者としてちょっとした有名人になれる」


 ──と。


 うぅん、それはノーサンキューかな。

 とにかくくれるものがあるなら貰うさ。


 名前と、それから地下三階の教会のことを話すと、このパーティーも生臭坊主に世話になったことがあると言っていた。


「じゃあギルドにはそう伝えておくよ」

「これ──少ないけど助けてくれたお礼よ」

「俺たちもやっと駆け出しを卒業したところで、あんまりいいものを渡せないのが情けないところなんだけどさ」


 そう言って彼らは数本のポーション瓶と、じゃらりと音のする巾着袋をくれた。

 中身は魔石だろう。


「ありがとう。正直助かるよ。今の俺にはお金が必要だからさ」

「そうか! 役に立ててくれるのなら、助けて貰った甲斐もあるってもんだ」

「いやいやリック、それなんかおかしいぞ」

「ほんと、ありがとね」


 彼らは階段を下りて魔法陣へと乗った。

 最後にもう一度振り返って手を振るので、俺もセシリアも手を振り返して──そして四人は転移装置を発動させた。


 なんだか良い冒険者だったな。助けられてよかった。


「いば、よあった?」

「ん? そうだな。良かったと思ってる。人助けが出来て、お礼も貰えて。ギルドから報酬う、貰えるのかよほんとに」


 でも今はこの巾着袋の中身だ。結構魔石が入ってるだろ?

 口の紐を解いて中身を見ると、魔石とはちょっと違う石が見えた。


 ……これ……。


「宝石か!?」

「わぁ、きえい。あ、こえこえっ」


 俺が掌にだした石の一つを摘まみ上げ、セシリアがにこにこ顔で俺を見た。


「まおうしぇき」

「……魔王チェキ?」

「うぇ?」


 いや、首傾げられても困るんだけど。


「まぁこんな所でがちゃがちゃ広げねえで、上に戻って教会で神父に自慢しながらゆっくり見るか」

「うんっ、はい!」


 立ち上がって階段を下り、魔法陣を──


「はぁ、なんだよこりゃ。俺様のモンハウが潰れてんじゃねーか!」


 そんな声がして視線を左に向けると、大量のモンスターを背後に抱えて走って来る男が──いた。

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