第16話:モンスターハウス

「頑張れよリヴァくぅーん」

「くんって言うなあぁぁっ」


 含みのある見送り方をするエロ生臭変態神父から逃げるように出発した俺たちは、ダンジョンへと向かう。


「ふふふ。ふふ」

「笑うなっ」

「ふへぇ~」

「だから笑うなって……あんのクソ神父め」


 神父があんな見送りかたをする意味も知らないで、ヘラヘラと笑いやがって。


 十一階にいどうしたら、今度は階層内の魔法陣まで転移する。

 これもお金が必要なのか……はぁ、しっかり稼がないとな。


「そんじゃま、成人の祝いに貰った武器の使い心地を確かめるかね」

「おぉー、ちゅおそぉ」


 ハンマーの大きさは、前より少しだけ柄が伸びたかな?

 俺の身長が伸びたってのもあって、それに合わせてくれたのだろう。それでも六十センチぐらいだろうか。

 金槌の部分も一回り以上大きくなって、武器らしい貫禄が出ている。

 その割に重さは以前のと変わらない。

 ただの鉄じゃないのかもしれないな。

 

「ここにある窪みはなんだろうな?」

「んー、あぁ」


 刃の付け根に小さな窪みがある。もしかして予算不足で飾りの宝石を嵌められませんでした──みたいな?


「こぉ、ここ」

「ん? 魔石をどうすんだ」

「ここ、こう」


 セシリアが小さな赤い火の魔石を窪みに押し当てた。

 すると魔石が光り、しゅるんっと形を変えて窪みの中へすっぽりとハマる。


「は? え?」

「こう!」


 セシリアがハンマーで地面を叩いた。

 それほど力を入れているようには見えないのに、勢いよく火花が散る。


「ひ、火ぃ」

「魔石の力を付与してんのか?」

「そう! はい!!」


 すげぇ。その為の窪みだったのか。

 じゃあセットする石によって効果が──でも石はもうセットされちまったしなぁ。


「こえ、こ……あぅぅ。んー……こえ、ちゅ、ちゅ……」


 ちゅう!?

 い、いや。ここでそんな……大胆ですセシリアさん。


「ちゅかう……ちゅかうと……石、ぐぎ……きえうっ」

「……使うと、魔石が消える?」

「はい! そう!!」


 チューではなかったらしい。ほっとしたような、残念な──いやいやいや。何言ってんだ俺。セシリアはまだ十四だよ。俺なんて中身二十四じゃないか。二十四歳と十四歳。ロリコンです! 犯罪です! 犯罪イクナイ!!


「い、いば?」

「はっ。なんでもない。なんでもないから顔を近づけるなっ」

「ひゃいっ」


 クッソォ。絶対エロ生臭変態坊主のせいだ。

 お、俺がセシリアなんて、いくら綺麗な子だからって意識するわけねえんだよ。


 それとも……精神が肉体年齢に引っ張られてる……とか?


「いばっ」


 突然思考を遮るような彼女の声が聞こえ、モンスターが近いことを確認する。

 そして今の声で向こうが気づいたようだ。


「ふぅ……そんじゃま、お試しを行くか」






 ハンマーで叩く。

 これは以前と変わりない。

 だけど問題は斧側の方だ。斧といっても刃の部分は鋭く、短剣といってもいいほどだ。

 

 普通に斬り付けようとすると、『斬る』より先に『突き刺し』てしまう。

 あと金槌側の重みで上手く振り回せない。


「使い勝手悪ぃー」

「あうぅ……」


 半日ほど使ってみたけど、どうにも使いづらくて仕方ない。

 なんで上下逆さまに刃を付けたんだよ。

 

 上下逆さまに──


 上下……


 ふとなんとなく、柄を逆手さかてで握ってみた。

 金槌斧部分を下にして握る方法だ。

 そうすると、不思議と手に馴染むようにしっくりくる。


 もしかしてそう使わせるつもりで、この刃の形なのか。


「ぁ、いば」

「うし。斬ってみるか」


 安全優先。一時停止を使って動きを止めてからハンマー一閃。


 振り上げたと同時に柄をくるりと反転させ、ハンマーを振り下ろす!


 斬る、と叩くの連続攻撃だ。


「ははっ。なかなか面白じゃん」


 予備だつって二本貰ってるし、二刀流──やってみるか!


 一時停止スキルが手を使わない使用方法でよかったぜ。

 

 動きを止めては斬り、叩き。複数のモンスターが現れればセシリアが魔法で援護射撃をしてくれる。

 そうして進み続け、ときおりセシリアが上空に舞って位置の確認を繰り返し──五日後に地下十二階へと降りる階段を見つけた。


「とりあえず魔法陣を踏んで帰るか。お前、ずっとこっちにいるけどいいのか?」

「あい。うえ、あちゅい」

「……夏だもんな」

「あぃ……」


 暑いから上に出たくない……なんて贅沢な奴だ。

 こっちは出たくても出れないってのに。

 

 けど、地下のほうが涼しいってことか。

 冬は寒いけど、たぶん上よりはマシなんだろうな。


「十二階はどんな造りをしてるんだろう」

「わうわぅ」

「……か行は難しいか」

「ぁい……」


 そんな無駄話をしながら階段を下りて行くと、嫌ぁな光景が広がっていた。


「クソっ。モンハウか!?」


 造りどうこうどころじゃない。

 階段の下はモンスターで埋め尽くされていた。


 モンハウとは、一カ所にモンスターが集まって出来たこれのことをいう。

 正しくはモンスターハウスだ。まぁこれも通称でしかないんだけど。


「このまま放っておいたらスタンピードを起こすんじゃないだろうなぁ」


 四年半前の、あんな状況はうんざりだ。

 しかも今ここでそれが起きたら、俺たちに逃げ場はない。

 魔法陣は階段の下。

 そこはモンスターだらけ。


「クソぉ。仕方ない。上に戻って途中の魔法陣から引き返すか。出来れば冒険者にこのことを伝えたいけど」


 冒険者とすれ違えばいいけど、実際ここで狩りを初めて四年以上経つけど人とすれ違ったことはあまりない。

 十五階から下のほう行けば人が増えるとは、神父から聞いたことはある。

 誰とも出くわさないなら神父に言うしかないな。


「行こう、セシリア」


 踵を返そうとした時だ。


「うわあぁぁっ」


 モンハウの中から悲鳴にも似た声が聞こえた。


「魔法陣に誰か転移してきたのか!? クソッ──止まれっ」


 咄嗟に声が出た。もちろん一時停止発動条件の瞬きも忘れていない。


 助け出すのか?

 魔法陣まで数メートルとはいえ、その間には無数のモンスターがひしめき合っているんだ。

 そこにいくまでモンスターを倒すか、どかすかしなきゃならない。

 十秒じゃ足りないだろ。


 ──よく頑張ったな坊主。


 その時、あの人の声が聞こえた。

 スタンピードの中、俺を救ってくれたあの獣人の声が。


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