第11話:隣

「リ、リヴァ……お前……どこからその娘さんを誘拐してきましたか!?」

「勝手に俺を罪人にしてんじゃねーよ! てめぇーには肉を食わせてやらねえからな!?」

「え、リヴァちゃん、俺様にお肉くれるの?」


 鶏牛からドロップしたのは、念願の肉だった。

 見た感じだと鶏肉のほう。たぶん二キロぐらいある。


 背負い袋に突っ込んで急いでやって来たのは教会だ。


「モンスターからドロップしたんだ」

「十一階で狩りをしたのか。はぁー、やったじゃねえか。あの階層のモンスターから肉をドロップする確率は、結構低いからな」

「やっぱそうなのか。結構長い時間狩りまくってやっとだぜ。はぁ、夜通し狩りをして眠い」

「うぅぅ、ふわあぁあ」


 セシリアも眠いようだ。

 だがせっかくの肉! すぐ料理したい。すぐ食いたい!


「鶏肉なら唐揚げにしたいが……塩しかねえもんなぁ」

「からあげ? なんだそりゃ」

「せめて胡椒でもあればなぁ」

「おい、俺様の話を聞いてくださいお願いします。ちなみに胡椒はねえが……これならあるぜ」


 そう言って神父が白い粉を持って来た。


「それヤベぇ粉か?」

「小麦粉だ、小麦粉! ヤベぇってなんだよ。どこでそんな知識付けてくんのか」


 主に前世だけど、地下街にだってヤバい粉はいくらでも流通してるじゃん。


 塩と小麦粉かぁ。

 水で溶いた小麦粉をうすーくつけて、そこに塩をまぶすか。


「ん、ん」

「なんだセシリア?」

「ん。おしょー」


 和尚?

 しおしおの黒い粒を差し出してきた。

 なんか……見覚えがあるような。


「お、おいそれ。胡椒の実じゃねえか? 俺様も見るのは久しぶりだぜ」

「え、胡椒!? セシリア、これ胡椒なのか?」

「はいっ」

「お前、凄い奴だな。最高かよ」


 頭をわしわしと撫でまわすと、セシリアは真っ赤な顔をして笑みを浮かべた。


 これが胡椒の実なら、中身を出さなきゃならないんだよな。

 ──と思ったら、神父がすり鉢とすり棒を持って待機している。


「セ、セシリア。どのくらい使ってもいい?」

「ん」


 彼女は鞄から小さな巾着を取り出して、そこから黒い粒をすり鉢に注いでいく。

 結局巾着の中身全部出してしまった。大匙一杯分ぐらいかな。


「全部出していいのかよ」

「ん。ん、んんー……ま……まとぁ、とっえうう」


 聞き取りにくいけど、また取ってくる、かな?


「よぉし、パパごりごりしちゃうぞー」

「誰がパパだよ、気色わりぃな生臭坊主。セシリア、言っとくけどこいつと俺は赤の他人だからな」

「ぅ……は、はい」

「やだなぁ、俺様とお前の仲じゃないですかー」


 肉のために必死だな。

 神父が胡椒を砕いている間に、こっちは肉を一口大に切り分けていく。

 結構な数になるな。まぁ子供たちに食わせてやると、あっという間になくなるだろう。


「セシリア、この石使って小麦粉を溶いてくれ」

「はいっ」


 切った肉に塩コショウを振って、それから水で溶いた小麦粉をまぶす。油も貴重なので揚げるというよりは焼くに近いか。

 弱火にする為に、火元から離れた位置でフライパンを置いた。

 魔石コンロには段階的にフライパンを支える凹凸がある。火加減ようのものだ。


「はぁ~……眠い。早く食いてえ。眠い」

「寝るか食うかどっちかにしろよ、お前」

「食って寝る」

「そりゃいいが……あの子はどうすんだ? ほんと、どこで知り合ったよお前」


 くっ。スルーしろよまったく。


「ダンジョンで知り合った」

「ほほぉ。ダンジョンで口説いたのか」

「なんでそうなるんだよエロ坊主!」

「カァーッ。生臭からランクアップしたぜ!」


 下がったんだよ。


 しかしこの時間だと、このまま上に帰すのは危ないな。

 地下街でも外を歩き回る奴は多いし、あの場所から空気穴に向かって飛ぶのも町から見えるかもしれない。

 地上は地上で明るくなっていれば、空気穴の周りをうろつく奴がいるかもしれないし。


 夜までここにいさせるか。


「おいリヴァ、もうよくないか? 焦げそうだぞ」

「おっと──おし、たぶんいい感じだ」

「たぶんってのが不安だなぁ。そろそろガキどもを起こしてくる。で、分けてくれるんだよな?」


 何をいまさらという顔で神父を送り出す。

 その間にこっちは朝飯の用意だ。


 昨日のうちに買ってきていたのだろうパンと唐揚げ、それとセシリアから貰ったキャベツを千切りにして添えてやる。

 ドレッシングなんてないが、しおれていない野菜があるだけで大喜びするだろう。


「さて、俺たちは先に食ってしまおうぜ。ガキどもがわぁーって来るから狭くなるしよ」

「はい」


 いただきますっと手を合わせて唐揚げにかぶりつく。

 塩コショウだけの味付けも、ここじゃ最高の贅沢品だ。


「あぁ、うめぇ。肉柔らかいな」

「うん。んん~」


 硬いパンも、唐揚げを口に含んですぐにかじりつけば美味しく感じた。


 肉……これからは十一階で狩りをしようかなぁ。


 じっくり味わいたい──とは思っても、ひとり唐揚げ二切れしかない。

 それでも俺は満足だ。

 頑張ればまたゲット出来るのだし、そう思ったら元気が出た。


 飯を食い終えたら戦利品を置いて教会を出る。

 フードを被せたセシリアを連れてお気に入りの場所まで歩くと、そこで睡魔の限界を迎える。

 腹も満たされたし、唐揚げを食ったという幸福感が睡魔を助長させる。


「ふあぁあ。セシリア、もう外は明るいだろうし、お前、出ていくなら夜まで寝て行けよ。その方が安全だろ?」

「うにゅう……はいぃ」


 壁を背もたれにして座ると、セシリアもその隣に座った。

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