第10話:にうぅー!
【クリスタルイーター】
「そんな名前のモンスターだったのか。セシリアも見たことあるのか?」
新月の夜に、地下十一階に下りたことをセシリアに話した。
するとあの動かない魔石モドキのモンスター名を教えてくれた。
俺の問いに首を縦に振ったが、彼女は【ダンジョンじゃないところで】と文字を書く。
「地上にもいるのか」
【ダンジョンのモンスターは、全部地上のモンスターを真似て創られたの】
そう文字を書いてからドヤ顔をして、それから【知らなかったの?】と。
「知ってる知ってる。忘れてただけですからぁー」
「ぐふぅ」
ニヤりと笑うセシリア。
こいつ、マウントを取ろうとしてんのか。
「てや!」
「いぃーっ」
デコピン一発。
「クリスタルイーター……動かないし、反撃してこないから安全にステータス強奪できるじゃん。なんで十階にいないんだよぉ」
「おう、あぅ?」
「何言ってんのか分かんねぇ。どうやったらうまく喋れるようになるのかねぇ」
「うぐぅ……【ステータス強奪ってなに?】あぅ!」
っち。はぐらかしたのにツッコミやがって。
「……俺は覚醒者だ。覚醒者って分かるか?」
セシリアが首を振る。
「ふっふっふ。覚醒者ってのはなぁ」
俺ドヤ顔。
「死に瀕した時に、力に目覚めた者のことだ!」
「おぉ!? うわぁい。おぉー」
ふふふ。俺を崇めと奉れ。
踏ん反り返っていると、そこでグゥーっと腹の虫が鳴った。
「ぷふっ」
「おい笑うな。覚醒者だって腹はすくんだよ」
「くふふふふ。あぃ」
今日持って来てくれたのはパン……そして──
「あぁーん!」
「それを言うなら、じゃーん! だろう。うっわすっげ。ハムじゃん、ハム!?」
「くふぅー。んっんっん」
ハムは一枚二枚ではない。ブロックだ。
それを1センチほどの厚みで切ると、俺の背負い袋を指差した。
フライパンを出せってことだろう。
すぐに魔石コンロを作って火を付けフライパンを用意。
ハムを二枚並べると、セシリアは更に鞄からキャベツを取り出した!!
「キャベツもあるのか!」
「あいっ」
パターロールのようなパンを半分に切って、そこに千切りキャベツを載せる。更に焼いたハムを乗せて……。
ゴクリ。
ハンバーガーじゃん。
もうこれハンバーガーだよ。
「い、いただきます」
「いああいまう」
うぅ、うめぇ。マジクソうめぇ。
「ここじゃこんな肉は貴重だからなぁ。普段は薄っぺらい干し肉しか食ってねえから、柔らかい肉はほんと……ほんと……」
「いあぁ……」
「わっ。泣いてねえから! あ、泣いてる……あぁクソッ」
ハム食って泣くとか、どんだけ俺の涙腺弱いんだよ。
「はぁ……地上は動物もいるし、狩りをすれば肉も手に入るからいいよなぁ」
「うぅ? ぁ……んお、にう、あうぉ。【ダンジョンも肉取れる】」
「いやいや、ダンジョンの中に動物はいないだろう」
【モンスターのお肉】
……マジか。
いやでも、モンスターって死んだらどろって解けるじゃん!
「まさか肉を……ドロップするのか?」
「うんっ」
「返事が元気でよろしい。って肉をドロップううぅぅぅっ。だってそれ、モンスターの肉だろ?」
【食べられる】
「でもモンスターじゃん!」
【食べられる】
「いやわざわざ二度も書かなくていいから」
【食べられる】
「三度目ぇぇーっ」
【食べられる】
「あああぁぁぁぁーっ!!」
「いいか。絶対にフードを外すなよ」
「ぁい」
フード付きの外套をセシリアに着せ、俺たちはダンジョンへと向かった。
こいつはここのダンジョンには入ったことが無いので、向かうのは六階だ──と思ったが、
「なんでお前、俺にぴったりくっついてんだ?」
「う? ここ、ここぉ」
ここっていうのは魔法陣のことだ。
いや、別にくっつかなくていいじゃん。
セシリアは首を傾げ、それから地面に文字を書きだした。
【私魔法陣踏んでない。だからリヴァにくっつく】
「は? くっついたら使えるってのか?」
と言ったところで、セシリアが「うふぅ」っとニヤける。
ちっ。まぁたマウント取ろうとしてんな。
【魔法陣使ったことある人にぴったりくっつく】
【魔法陣にちゃんと入っていれば、一緒に使える】
【知らなかった?】
ドヤ顔だ。
クソ、知らなかったよ。
けどそれなら──使える!
「十一階に下りてもいいか?」
どうせなら魔力を強奪したい。
彼女が頷くのを見てから魔法陣に乗った。
セシリアがくっつく。
こ、こいつ……まだお子様なのに胸が……くっ。
「あい」
「は? 魔石? あぁ、通行料か。悪いな」
セシリアから受け取った魔石を足元に落とすと、魔法陣がぱぁーっと光った。
目的地を示せという声が聞こえるので、地下十一階と答える。
視界が真っ白になって、次には洞窟の中だ。
「ここは草原みたいな構造だ。そういうの知ってるかぁ?」
意地悪で言ってみたんだが、セシリアはきょとんとした顔で俺を見返す。
「しらな……い?」
「ぁぐっ」
ふ、ふふ。ふふふふふ。
「なぁーんだ、セシリアぁ。知らなかったのかぁ。そうかそうか、知らなかったんだなぁ」
「いぃぃぃーっ」
「はっはっは。誰だって最初は
自分を中心に半径50メートルぐらいの距離にいる奴しか見えないこと。
それはモンスターも同じ条件だってこと。
ダンジョン内に洞窟があることを説明して、いざ外へと向かった。
これで二度目だが、やっぱり不思議だよなぁ。
明るいのに太陽が無いんだし、じゃあどこに光源があるのかというとさっぱり分からない。
「ぁ。にぅ」
「肉? どこだ──ってあれか!?」
一目みて分かる。
豚だ。いや猪? うぅん、やっぱ豚か。
でも頭に角があったり、尻尾が犬のようにふさふさしているあたり、ただの豚じゃないのは分かる。
豚までの距離は四十メートル程度。
鼻をひくひくさせた豚は、すぐに俺たちに気づいた。
『プッギャアァァァッ』
まだまだ、まだまだ、よぉし。止ま──
ビュンっと、俺の横を風が抜けた。
その風が、プギャーっと突進してくる豚をぶった切る。
「ひえっ」
「おぉー!」
セ、セシリアの魔法なのか!?
風の魔法が使えるとは聞いたが……一撃で真っ二つってエグくない!?
豚はそのままどろりと溶けて……何も落とさなかった。
「うえぇぇ」
「まぁそうガッカリするな。ドロップ率は100%じゃないんだからさ」
洞窟の入口に向かって歩きながら、二匹目の豚が現れた。
「むんっ」
一時停止を使う間もなく、セシリアが魔法で真っ二つ。
今度は魔石が落ちた。
「うえぇぇ」
「割と運がないみたいだな。とりあえず中入っていいか? クリスタルイーターからステータスを強奪したいからさ」
「ぁい……」
石の入口から入ってすぐにクリスタルイーターを発見。
ステータス強奪で魔力を選択すると、スキルは成功した。
「よし。本日分の強奪終わり」
「え?」
「あぁ、このスキルは一日一回しか使えないんだ。しかも盗み取れるステータスは1だけ」
「……おぉ」
なんだ、その同情するような目は。塵も積もれば結構になるんだからな。
再び外に出て暫く狩りまくったが、なかなか肉がドロップしない。
豚以外のモンスターもいるしな。
だけど魔石以外のドロップもあって、神父に換金して貰うのが楽しみだ。
「お、なんだありゃ。牛の顔に……鳥?」
「おぉ! にうっ、にうっ」
「おっしゃ! 俺がやるっ。セシリアは何もするなよっ」
羽根が抜け落ちたような鶏がドタドタと駆けてくる。その頭は牛そのものだ。
牛肉と鶏肉、どっちがドロップするんだ!?
「止まれえぇ!」
強奪スキルは使ったので黄色いマークは出ない。
ハンマーを振り上げ牛の眉間に叩きつけた。
さすがに一発じゃ死なないよな。
二発──三発──四発!!
キィーンっと甲高い音が鳴り、一時停止から再生された鶏牛がどうっと倒れた。
「いよっしっ」
シューっと音と共に鶏牛がどろりと溶ける。
それが地面に吸い込まれた後には、何かの塊が落ちていた。
「にうぅー!」
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6/25から新作を始めております。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556023732979
器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強のオールラウンダーになる!~
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