第9話:スキップスキップ、らんらんらん

「っち。薬草を切らしちまったか」

「薬草? 神父が薬なんて必要なのかよ」


 最近は畑と資源区画での仕事を辞めて、ダンジョン十階での狩りをメインにやっている。

 魔石以外にもドロップアイテムがあるので、それも含めれば平均して一日大銅貨二枚の稼ぎになる。

 畑と資源区画で働いて貰う金より、こっちの方が多い。


 その日の稼ぎを預けに来たんだが、薬草がどうとか神父が呟く。


「あのな、魔法は万能じゃねえっつったろ。神聖魔法で治せるのは怪我だ。あと毒とか麻痺とか呪いとかの、状態異常効果だけだ」

「あぁ、病気とかは治せないって奴か」

「そういう事だ。解熱剤や腹下しに効く薬草は、常備しとかねえとな」


 それも全部子供たちのためだもんな。

 生臭だけど、根が善人過ぎるんだよ神父は。


「でも薬草なんて地下街じゃ高級品だろ?」

「だから直接自分で取りにいくのさ」

「え……神父が? つかどこに薬草があんだよ」

「あぁ、地下十一階にあるぞ」


 ダンジョンに生えてんのか!?


「そうだ。お前も行くか?」

「い、行くって、十一階か?」

「あぁ。十一階の魔法陣は踏んであるんだよな?」

「まぁ一応」


 十一階の転移装置を使うには金が要る。でも魔法陣を踏むだけならタダだ。

 いつかの時のために直ぐ十一階に行けるよう、一度そこまで下りて魔法陣を踏むまではしていた。

 ステータスの強奪もしておきたいところだが、いくら待ってもモンスターが来なかったんだよなぁ。


「十一階のどこまで進んだ?」

「進んだって言われても、魔法陣踏んだらすぐ上に引き返したから……」

「あぁ、そうか。あそこな、少し進むと外に出るんだよ」

「外?」






「外……」


 神父の奢りで十一階まで転送し、そこから歩いて最初の角を曲がると……

 通路の先は明るくなっていて、出口のようなものが見えた。


「あぁ、外だ。ただし作り物の世界だけどな」

「作り物?」


 神父が言った意味は直ぐに分かった。

 通路を進むと確かに外に出る。

 どこまでも草原が広がり、見上げれば青い空が続く。


 ただし──


「太陽が……ない」

「そ。太陽がねえんだ。ここは所詮ダンジョン内だ。どんなに見てくれとそれっぽくしても、地下であることに変わりはない」

「どう、なってんだ?」


 風だって吹いている。だけどこの草原には終わり・・・がない。

 地平線の彼方までずーっと草原なんだ。


「魔法で作られた世界──とでも考えとけ。どこまでも続いているように見えるが、ずーっと真っ直ぐ歩くと分かるが、途中で見えない壁にぶつかるんだぜ」

「へ、へぇ……あ、この草原に薬草が生えてんのか?」

「いいや。ほれ、あそこに岩みたいなのが見えるだろう」

「んー、あぁ、なんか不自然に四角い岩だろ」


 神父がその方角に向かって歩き出す。すると目の前の草むらからモンスターが突然──そう、それまで見えなかった奴が突然出てきた。


「リヴァ、たすけてぇー」

「棒読みいぃ!」


 駆けてきたモンスターをハンマーでブッ叩く。


「うへっ。お前、なんつーエグい武器使ってんだよ。つかそれ掘削用だろ?」

「借りた」

「嘘つけぇ。まぁいいや。今みたいにな、一定距離に近づくまでモンスターが見えねえんだ」

「それってヤバくね?」


 死体が消えて魔石が一つ転がる。それを拾いながら周囲を警戒した。


「大丈夫だ。向こうも俺たちが見えてないからな。一定距離ってのも、だいたい50メートルぐらいか」

「モンスター側も条件は同じか」

「そういうこと。それに上の階みたいなのだって、角を曲がったら目の前にモンスター! ってこともあるだろ。それ考えりゃ、対して変わりゃしねぇよ」


 それ言われると、まぁそうなんだけど。


 この、まるで地上のような構図の階層はちょいちょいあるらしい。

 森の中、雪原、砂漠、廃墟……だけど階層内の全てが見たまんまではないと神父はいう。


「ここだ」

「……草原に……ダンジョンの入口……しかも裏側は何もねえじゃん!」

「そもそもダンジョンってのは、空間を捻じ曲げられて作られてんだ、常識なんて存在しねーんだよ。さ、入った入った」


 さっき見た不自然に四角い岩は、ダンジョンの入口だった。

 表から見るとそうなんだが、裏に回ると長方形の岩にしか見えない。

 神父が入って行くので仕方なくついて行くと、中は本当にダンジョンだった。


「どこの階層にもな、こんな風にダンジョン内のダンジョンがあるんだよ」

「面倒くせぇー」

「そんなもんだ──って納得するしかねぇ。なんせここは、迷宮神が創りたもうた世界なのだからな」


 迷宮神ねぇ。いったいどんな奴だよ、こんなもん作ってんのは。

 それにしても、ここは上の階層のダンジョンよりも明るいな。

 人工的──というよりは普通の曲がりくねった洞窟という感じだ。

 

「お、なんか巨大魔石みたいなもんがあるじゃん」

「あぁー、それモンスターだから触んな」

「げっ」


 地面からニョキっと生えた魔石のような、巨大な水晶柱みたいなのがモンスター!?


「ステータス強奪、出来るかな」

「やってみればいいんじゃねーの? 奴ら一歩も動けねぇから」

「……存在意義があるのか?」

「お前ぇみたいに知らずに触ろうとする奴を喰う」


 ……うわぁ。

 けど触らなければそれまでってことだろ?


 動かない奴に一時停止使うとか、なんか変な気分だ。

 ──止まれ。

 お、ちゃんと黄色いマークが出た。

 動かないんだし、敏捷はなさそうだ。筋力……も期待できないよな。じゃあ体力!


[対象の体力が術者の体力を下回っているため、強奪に失敗しました]


「あぁーっ! 失敗したあぁぁ」

「何を盗もうとしたんだ?」

「体力ぅ……敏捷は絶対ないだろ? 筋力だって……なさそうだし。石っぽいから体力はあるのかなぁと思って」

「魔力だ、魔力。あいつら、触れた奴の生命力を奪う『ライフドレイン』っつー魔法を使うんだよ」


 魔力かよ!

 クソッ。貴重な魔力資源だったのか。


「あったあった。ほれ、あれが解熱剤になる薬草だ」


 神父が指さしたのは、洞窟の隅に生えた苔みたいなヤツ。


「薬草は表の草原じゃなく、こっちの洞窟ん中にあるんだよ」

「下痢止めも?」

「おう。生えてる場所は固定してねぇ。見つけたら採取しながら進むしかねえんだよ。お前は俺様の護衛な」


 そう言うと、神父はスキップしながら洞窟を進んで行った。


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