第4話:親方! 空から──
魔石の相場は──安かった。
「冒険者ギルドなら、ちゃんとした相場なんだがなぁ……ところでリヴァ、お前、これどこで拾って来たんだ」
困った時の生臭坊主だ。
元冒険者ってだけあって、その辺のことは詳しいだろうと思って相談してみた。
「モンスターぶっ殺した。地下街だとまともな相場で買ってくれないのか?」
「ぶっ殺したって……まぁいいか。いやよくねぇんだけど。ここは地下街だぞ。上と同じ相場わけがねえだろう。安く買い叩いて上で売る。その為には上の相場より遥かに安く買わなきゃ儲けがでねえじゃねえか」
ってことで売るのは却下だ。
だけど自分で使うには量が多い。
「お前ぇ、地上を目指すのか?」
「そのつもりだ。こんなごみ溜めで一生を終えたくない」
「まぁそうだよな。誰だってそう思っているさ。思っているだけでそれを実現できる力はない。けど──」
神父が俺の顔をまじまじと見る。
「死に瀕した時、力に目覚める奴が稀にいる」
「力に……」
「ちなみに俺もそうだった」
「え、神父が!?」
それでこんな野郎が神聖魔法なんかを使えるようになったのか。
「それまで下級の回復魔法や支援魔法しか使えなかった俺が、突然上級の退魔魔法を使えるようになったんだ。どうだ、凄いだろう?」
……こいつ、力に目覚める前から神父だったのかよ!
だけど確かに凄い。突然強い魔法が使えるようになったってのは驚きだ。
「お前もそうなんだろう。俺様にゃあなーんとなく分かるんだよ」
「わ、分かる?」
「そ。お前さんの中の魔力の流れが、以前とは全然違うんだよ。俺様ぐらい徳の高い神父になるとなぁ、そのぐれぇ分かるんだよ」
徳……ねぇ。
しかし、そうか。俺みたいに覚醒する奴は稀にいるのか。
そいつらも転生者なのかな?
なら神父も?
だとすれば今この場で神父はそのことを話すはずだ。
覚醒者=転生者なら、神父も俺もそういうことになって、隠す必要はない。
だけど何も言わないってことは……イコールではないってことだろう。
「魔石を売って金にしてぇなら集めろ。ある程度集まったら、俺様が代わりに上で売却してきてやる」
「え、でも神父って元冒険者であって、現役じゃねえんだろ?」
「まぁな。けどカードを持っている奴は、ギルドの施設を利用する権利はあるんだよ」
「本当か!? だったら頼む。いやお願いしますっ」
神父は「久しぶりに可愛げがでたじゃねーか」と言って笑った。
「なっなっ。このポーション瓶は?」
「あぁ? あぁ……まぁ自分で使え。正直、それ一本じゃ擦り傷ぐらいしか治せねえんだよ」
「ゴミポーション!?」
「お、よく知ってるじゃねーか。ライフポーション・ランクゼロって言ってな、別名ゴミポーションなんだ。ここのダンジョンだと、十階層まではそれがたまに出るんだよ。買取価格はねえ。ギルドでも買い取ってねえからな」
本当にゴミじゃん。
まぁいいか……塵も積もればなんとやら。貯め込んでいたら、ちょっとした怪我でも治せるだろう。
半年ほどすると地下七階まで自力で下りれるようになった。
一度下りてしまえば次からは転送装置が使える。この装置は魔法陣を踏んだ者しか使えないが、一度踏めば以後は自由に行き来できる転移魔法陣だ。
神父の話だと、十階まではタダで使えるが、そこから下は魔法陣を発動させるのにお金が必要とのこと。
七階に下りれるようになったらさっそくスキルの強奪だ。
だが二カ月もしないうちにスキルが失敗するようになった。
強奪スキルの事も神父に話し相談すると、
「六階でモンスターぶっ殺している間に、自然にお前のステータスが上昇したんだろう。そもそも冒険者ってのはそうやってステータスを上げてきたんだからな。当たり前っちゃー当たり前なんだよ」
「そっか……でも今の自分のステータスが全然分かんないもんなぁ」
「お、分かるぜ。魔術師の魔法にな、モンスター情報っつーのがあってな。モンスター限定なんだが、ステータスを見ることが出来る魔法なんだ」
ダンジョンの上層階に生息するモンスターのステータスは、だいたい把握されている。
強奪できなくなったってことは、七階に生息するモンスターのステータスと同じになったってこと。
五種類のモンスターが生息しているので、それぞれのステータスの一番高いのを見ればいい。
「今のお前のステータスは、筋力127、体力134、敏捷112、魔力75だろう」
「魔力が低いなぁ」
「それはしゃーねえだろう。けど次の階層には魔法を使ってくるモンスターがいる。そいつは100あるから頑張れや」
それでも今の他三つより低いじゃん。
まぁ魔力が高くても魔法が使えないんじゃ意味ねえんだけどさ。
ステータスは分かった。ここからは八階を目指してハンマーでぶん殴りだ。
今回は神父が地図をくれて、八階にたどり着くのに一カ月も掛からなかった。
強奪スキルをどのモンスターの、どのステータスに使っても失敗するようになるのに三カ月とちょっと。
同じように繰り返して地下十階に到着した時には、俺の年齢は十四になっていた。
「これでステータスは筋力192、体力201、敏捷177、魔力129か」
十階から下のモンスターは、一部でステータスが把握されていない。
ここから先は正確な数値を出せないかもなぁ。
狩りから戻って来た俺は、いつものお気に入りの場所へとやって来た。
天井には少し大きな空気穴がある。この穴は地上まで繋がっていて、少しだけ空を見ることが出来た。
三年半前のスタンピードで、近くの壁と床が崩落。
新しい階層に繋がっているんじゃないかとか、モンスターが這い出てくるんじゃないかとか噂されてて、誰もここには近づかない。
静かに考え事をするには最適な場所だ。
「今日は星が見えそうだ」
天井を見上げて満天の星空を期待する。
月が見えると一番いいんだが、あいにく空気穴の上を月が通過することはないみたいだ。
だけど星は見える。
あれ? 見えな……いな。
今日は曇っているのか。
そう思っていると、
「う……ぐぅ……」
声がした。
その声は天井から聞こえてくる。もっと詳しく言えば空気穴からだ。
「は?」
首を傾げて天井を見上げていると、カラんっと音がして小石が落ちてきた。
「あぶなっ」
思わず大きな声を上げると、「ひゃうっ」という小さな悲鳴が上がって、次の瞬間──
「はあぁーっ!? なんで女の子が降ってくるんだよ!?」
お、親方なんてどこにもいないんだぞ。それなのに女の子が降ってくるのかよ!?
慌てて手を広げたが、女の子なんてキャッチ出来るのか?
むしろ下敷きになって死ぬんじゃ──
そんなことが脳裏に浮かんだがもう遅い。
空気穴から落ちてきた女の子は──だがしかし、俺に衝突する寸前で……翼を、広げた。
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次回更新は明日の12時予定です。
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