第3話:モンスターとの戦闘

 ゴロツキからステータスを強奪できなくなって、さて次はどこから奪おうか。

 圧倒的なステータスを持っているのはやっぱり冒険者だ。それは神父のカードを見ても一目瞭然。

 だからといって冒険者からステータスを奪いたいとは思わない。


「となるとモンスターだよなぁ」


 安全にモンスターからステータスを強奪する方法──はある。

 スタンピードを除き、奴らは階段を上って来ることはない。だから階段に陣取って、視界に映った奴を一時停止。そして強奪する。

 どうせ一日一回しか使えないスキルだ。一回やれば直ぐ上に上がればいい。


 地下四階の資源区画で石運びをする前に、一度六階に下りて強奪スキルを使う。


 そんな生活が半年続くと、スキルは全ステータスで失敗するようになってしまった。

 六階のモンスター……意外と弱いんだな。


 一応成功した回数をメモしてある。



******************************************


 筋力:50+38 体力:50+41

 敏捷:50+31 魔力:30+39


******************************************



 元々がハッキリと分からないので、ゴロツキから強奪し終えた時点で魔力を30,他は50あったものと考える。

 まだ100に行かないぐらいだ。


 神父の話だと、ここのダンジョンは初級──ではないらしい。

 冒険者成り立てにはお勧めしないダンジョンなんだとか。


 平均してステータスは100ないぐらいか。

 はぁ、六階ではもう奪えるステータスもないし、どうするかなぁ。

 武器でもあれば戦ってみるのだけれど、そんなものを買う余裕はない。

 

 早朝から地下街外れの農園で働き、お昼前から地下四階の資源区画で石運び。

 ステータスが上がったおかげで、この仕事もだいぶん楽になった。

 だけど貰えるお金は増えない。子供と大人で賃金が決まっているからだ。

 なので適度に手抜きをしている。それぐらいでちょうどいいぐらいだ。


 貰ったお金は毎日のパンと干し肉代で消えている。

 貯金する余裕なんてまったくない。


「いっそその辺の棒で殴ってみるかなぁ」






「かぁー、やっちまった」


 資源区画で石運びをしていると、掘削作業をしていたオッサンが声を上げた。

 どうやらツルハシの柄を折ってしまったようだ。


「おいリヴァ。上に行って新しいのと交換して来てくれ」


 なんで俺が──と思ったが、これは使えるかもしれない!?


「いいよ」


 折れたツルハシを受け取り、それを抱えて地下街へと向かう。

 備品の類は地下街の管理棟にある。

 そこで新しいものと交換して貰う訳だが──管理棟に詰めている連中はロクに『管理』なんかしちゃいない。

 そもそも仕事熱心な連中なら、こんな地下で働いていたりしないのだから。


「ツルハシが折れたので交換していいですか?」


 ここではちょっと子供っぽく声をかけた。

 昼間っから既に泥酔している従業員は、手を振って応えるだけ。

 勝手に持っていけって意味だ。


 倉庫に行って折れたヤツを隅に置いて、新品を一本抱える。

 そして辺りを見渡し、採掘用のハンマーに手を伸ばした。


「うん、これぐらいなら振り回せそうだ」


 ツルハシも重量的には問題ない。ただ今のこの体には大きすぎる。

 採掘用のハンマーなら、服の下に隠して持ち出すのも簡単だ。


「ありがとうございました」


 と言ってはみたが、従業員は夢の中。

 作業場へと戻る前に教会へと向かい、裏口から入って植木の根元にハンマーを隠す。そうしてから急いで作業場へと戻った。


 その日の仕事が終わるとお金を貰い、その足で教会へと向かう。

 また裏口から入ってハンマーを取り出すと、ぼろぼろの背負い袋に入れて地下六階へと向かった。


 ひとまず階段から顔を出してモンスターがいないか確かめる。出来れば一匹でうろついている奴を相手にしたい。

 

 動きを止めている間に、ハンマーで殴る。

 十秒しかないし、複数を相手にはしたくない。


 階段下の踊り場で待ち構えること十分ぐらいだろうか。

 奥の通路からモンスターが一匹、こちらに向かってやって来た。


 体長50センチほどの巨大なネズミに似たモンスターは、俺に気づくと目を赤く光らせ突進してきた。

 ギリギリまで引き付け、そして──止まれっ!


 瞬きをすればモンスターの動きが止まる。

 すぐさま駆け出し、ハンマーの尖った方を思いっきり振り下ろした。


「うらぁっ!!」


 地面に叩きつけられたネズミは、それでもまだ生きている。

 カウントは残り4──もう一度振り下ろす。


 ──ゼロ。


 だけどネズミは動かなかった。代わりにドロリと溶けて、地面へと吸収された。


「た、倒せた。は、ははは。案外楽勝じゃん」


 とはいえ、ネズミはこの階層で最弱モンスターだ。体力も低く、早い段階で強奪できなくなった奴だもんな。

 ネズミの死体が消えたあとには、小さな魔石が落ちていた。

 色はなく、半透明なだけだ。


 ダンジョンモンスターの死体から出る魔石は、色によってさまざまな用途として利用される。

 この半透明なのは衝撃を与えると光って、ランタン代わりに使われる。

 地下街もこれのおかげで明るさを確保されていた。


「よし、もう少し狩りをしてみよう。戦えるようなら七階にだって行けるだろうしな」


 そうしたらまたステータスの強奪スキルが使えるようになるだろう。


 その後、一時間ほどでモンスターを七体倒した。

 魔石は半透明が三つ、赤いのが一つ、水色が一つ。それとポーション瓶が一本。

 赤いのは衝撃を与えると火が出る。もう一度衝撃を与えれば火は消えるので、料理をする時に重宝する。

 水色は衝撃を与えれば水が出て、その量は魔石のサイズに依存した。


「この大きさならバケツ二、三杯ぐらいかな?」


 俺ひとりならこれ一つで二、三日持つだろう。

 地下街じゃ井戸水すら金を取られるので、石があると助かる。

 それとも井戸水代より高く売れるだろうか?


 とにかく今日は引き上げよう。

 魔石を売るかどうかは、値段次第だ。 


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