第2話:ステータス強奪
ステータスオープン!
──は、この世界にはない。
冒険者になるとカードが発行され、それには持ち主のステータスが表示されるらしい。
「リヴァ、そんなこと聞いてどうするんだ?」
地下三階の町でただ一つの教会。
俺みたいな親のいねー、地下街で暮らすガキどもに飯と寝床をくれるお人好しの神父は元冒険者だった。
自称、超一流らしい。
超一流がなんで地下街にいるんだよっていう。
「どうもしない。知りたかっただけだ」
「ふぅーん……なぁリヴァ。お前、スタンピードからこっち、随分とスレたガキになってねぇか?」
「うっせぇよ生臭坊主」
前世の記憶が蘇ったのに、十歳の子供を演じられるか。
スタンピードが鎮圧されたのは、発生から二日経ってからだ。
鎮圧された翌日には、ダンジョン三階の地下街と四階五階の資源区画に転がる遺体の回収が行われた。
俺も遺体を埋めるための穴を、朝から晩まで掘り続けた。
次々運ばれて来る遺体に、あの人がいないことにほっとすることも。
だけど……モンスターに喰われたことで指の一本すら残っていない人も相当数いる。
だから、生きているなんて希望は抱けない。
「おいリヴァ。ぼぉーっとしてどうしたんだ、あ?」
「……どうもしねぇ。教えてくれてありがとな生臭坊主」
教会を出た俺は、ある場所へと向かった。
この地下街でゴロツキどもがたむろしている、所謂スラムってところだ。
そこには地上で罪を犯した罪人たちが集まっている。
賞金首だの、金持ちや貴族に手を出したような奴らでもない限り、地下街まで衛兵が追って来ることはない。
だから地下街には罪人が多いし、人口の一割はそうだろうな。
あの日、前世の記憶が突然蘇った俺が使えるようになったスキル。
一つは『一時停止』とでも呼ぼうか。
もう一つは『ステータス強奪』だ。
ステータス強奪は一時停止させている状態でしか使えないらしい。
それはあの日、逃げている最中に使っていた一時停止の時にも分かっていたことだ。
そして一時停止も強奪も、モンスターだけでなく人間相手にも使えた。
面倒なのは一時停止が肉体の行動のみに影響していること。意識はしっかりしているってことだ。
「でも寝ている相手なら、止められていることにも気づかないよな」
ゴロツキ相手ならステータスを強奪しても罪悪感はない。
ってことで、その辺で眠りこけている奴らで実験だ。
この世界のステータスは『筋力』『体力』『敏捷』『魔力』の四つ。
ステータスを選択してくださいって声がしたし、選ぶ必要があるんだろう。
路地から顔を出すと、あっちにもこっちにも寝ている馬鹿がいる。
止まれ──と念じて瞬き。
寝ている相手なので止まっているのかどうか分からないが、顔の横に黄色い三角マークが出たので成功だ。
この一時停止、効果範囲は結構広い。
俺の視界に映る、姿かたちがはっきり認識できる範囲のようだ。
ただし範囲内にいても障害物の向こう側にいる奴なんかには効果が無い。
俺が見ている──それが絶対条件だ。
黄色いマークは距離感無視して触れることが出来る。
さて、まずは『筋力』の強奪だ。
[強奪するステータスを選択してください]
という声のあと、筋力と念じる。
[筋力を1強奪することに成功しました]
やった!
って、たったの1かよ。しかも成功しましたってことは、失敗もあり得る?
何度かやってみれば分かるか。
再び一時停止を使って──あれ? 黄色いマークが消えた!?
強奪スキルの検証を始めて一週間。
このスキルは一日一回しか使えないことが判明した。
更に一カ月──このスキルが失敗する条件が分かった。
[対象の筋力が術者の筋力を下回っているため、強奪に失敗しました]
相手のステータスが俺より高くないと、強奪は出来ないらしい。
しかも失敗も一日一回にカウントされ、この日は強奪スキルの使用が出来なかった。
翌日、同じ相手に今度は『体力』の強奪を試みる。
これは成功した。
つまりステータス単位で成功判定があるんだな。
しばらくは体力一本に絞って、失敗するようになったら敏捷の強奪、それから魔力だ。
そうして三カ月も過ぎると、全ステータスの強奪が失敗するようになってしまった。
平均すれば一つあたり30ぐらい増えたことになるはず。
元々のステータスがどのくらいだったか分からないから、なんとも言えないなぁ。
困ったときは生臭坊主だ。
物心ついてから九歳になる頃まで、俺もあそこにいた。
前世の記憶が蘇る前の俺は、ここでの食い扶持を減らすために自分から教会を出て行ったんだ。
時々戻って来ては怪我を治して貰ったり、休んだりはしていたけどな。
「おーい、なま──神父」
「あぁ? わざわざ言い直しやがったなクソガキ」
神父の癖に口が悪い。
だけど俺が頼れる大人はこの人しかいないし、実際物知りなんで助かっている。
知りたいのはこの世界の一般人の平均ステータスだ。
冒険者はあれこれ突出しすぎていて当てにならない。
「神父。ステータスの平均値ってあるのか? こう……一般人の平均とかさ」
「まぁたステータスか。知ってどうするんだ? 冒険者カードや教会の鑑定水晶で見る訳でもないだろうに」
「鑑定水晶!? そ、そんなのあるのかよっ」
「でっけー教会にしかない。もちろんここには──」
小さい教会だしある訳ないか。
「あーあー、期待しねぇ。で、平均的な数値ってあるの?」
「まぁ……はぁ……この俺様が教えてやろう! なんせベテラン冒険者だからな」
「元だろ」
「だいたい魔力以外は40前後ぐらいだ。魔力は20ぐらいだな。お前ぐらいのガキで50以上あれば、将来魔術師になれる可能性もあるってぐらいだぞ」
魔力は他のステータスより低いのが当たり前なのか。
「神父のステータスってどんくらいだっけ?」
「俺様かー? ふっふっふ、見たいんだな。輝かしい俺様のステータスを!」
神父はポージングを決めて懐からカードを取り出すと、指先をガリっと噛んで血を滴らせた。
カードは血によって反応するらしい。
血のついたカードには、神父のステータスが浮かんだ。
筋力:98 体力:397 敏捷:139 魔力:2018
「は? なんだよこのめちゃくちゃなステータス。魔力四桁って……。それ以外も一般人の平均を軽く超えてんだけど」
「ふっふっふ。まぁそれぐらいないと、冒険者なんかやってらんねえよ」
普通に生きていく分には、さっき言った魔力以外は40前後、魔力も20ぐらいで不自由なく暮らせる。
それ以上を必要としないなら、わざわざ体を鍛えたりはしない。
──と神父は言う。
だけど一般人であっても、重い物を運ぶ仕事をしている人の筋力や体力はもう少し高い。
足が速い──と言われる人も、普通よりは敏捷が高かったりする。
これも神父の話だ。
「じゃあ……ゴロツキどもとかも?」
「んぁー、そうだなぁ。奴らも他の連中よりかは、少し高いだろうなぁ。ま、俺様程じゃあねーけどな」
「はいはい。ありがとうな、神父」
話を聞いて教会を出た。
一般人の平均が40前後……俺は子供だから半分だと仮定して……筋力、体力、敏捷は50前後ぐらいまで上がった……のかな?
強奪していた相手がゴロツキばかりだし、他より少し数値が高いかもとしたらそんなもんだろう。
──長生きしろよ坊主。
そう言われたんだ。絶対長生きして見せる。
そうだな、差しあがって目標は──
「前世と今の年齢を合わせた二倍!!」
えぇっと、前世が二十三歳で事故死して、今が十歳。
合計三十三歳だな。
その二倍ってことで──六十六歳。
うん、ささやかな目標だな。
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