第15話 真実 その2
「はは…『死者の蘇生法』とは、ずいぶんデカい探し物だな」
グラディウスは依頼を聞いて驚いた。
そんなバカが依頼人だとは、露程も思っていなかったからだ。
――『死者の蘇生法』
それは机上の空論と同義とも言われている。
それは数十年前、とある国が始めたアーティファクトの研究からだった。
魔法を増幅し、安定させるアーティファクト。
その力は凄まじく、量産や複製が出来るならば、国家間の均衡をも傾け得る。
故に、数々の文献や800年前の遺跡が、国を挙げて調査された。
だが、一国の力を惜しげもなく費やされてなお……出来なかった。
複製どころか、解析すらも不可能だった。
分かった事は、800年前には『これ』が当たり前のように普及していた事だ。
そこから、滅びた文明の特異性が注目され、こんな噂が流れた。
曰く、かの文明には、出来ない事など無かった。
曰く、かの文明には、不足という言葉は無かった。
曰く―――
かの文明には、死者を生き返らせる方法があった。
「…ふざけないで頂きたい!」
布で口元を覆った傭兵が叫ぶ。シークだ。
それまで理知的な振る舞いをしていた彼だが、この時はあまりの怒りに握った拳を震わせていた。
いや、当たり前の事だろう。ウワサを鵜呑みにして物を探すなど正気ではない。
ましてや存在した保証も無いのであれば。
「不可能を言ってもらっては困る!」
「こちらも仕事だ!それが存在するなら何としても依頼を遂行しましょう!」
「しかし存在しない物を持ってくる事など出来ないのですよ⁉」
エピーズは窓の外を見ている。暗闇にはただ、自分の姿が映るのみ。
頭に血が上ったシークは返答を求めるが、エピーズは背を向けたまま淡々と問う。
「何故、存在しないと決めつける?」
「未だに新たな遺跡が見つかっている」
「その中に、可能性が残っているかもしれないというのに」
「可能性というならば確かにあるでしょう!」
「しかし、限りなくゼロに近いでしょうに!」
「まさか、それに賭けようというのですか⁉」
「…ああ、そのまさかだ」
エピーズが振り向くと同時に、傭兵たちが彼に持っていた冷たい印象が吹き飛んだ。彼の心の中には、静かだが溢れんばかりの炎が渦巻いていると悟らせた。
眼光、表情、気迫。その全てで。
「可能性は限りなくゼロに近い、と言ったな」
「ゼロではないのなら、いずれそれは叶う」
「私の娘たちが、それを見せてくれた」
ラニが家を出ていった時の事を思い出す。
心臓が締め付けられ、自分の間違いを知った。
かけがえのないものを取りこぼしそうになった。
娘たちはその間違いを受け入れてくれた。
取り残されてしまった自分の手を取ろうとしてくれた。
もう繋がる事は無いと、そう思っていた絆を…繋ぎ直してくれた。
ならば
「……ならば!」
「私はそれに報いたい‼」
「頼む!もう、娘の涙は見たくない……!」
繋ぎ直された絆には、あと一本、足りない糸があった。
母親の墓前で泣き崩れるラニを見て気付いたのだ。
そもそもの始まりにして終わりを。
あの日、大切な存在を喪ったのは自分だけではないと。
「どうか、愚かな男の願いを聞いてはくれないか……!」
エピーズは貴族の誇りを捨てて、頭を下げた。
ただの、一人の―――
―――父親として。
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