第14話 真実 その1
「…あの時、何があったか。それを話すと長くなっちまう、色々ありすぎたんでな。短くなんてできないぜ?」
「どれだけ時間がかかっても構わない。だから、教えて」
「…わざわざ聞いて済まなかったな、まっすぐな…いい眼だ」
傷の傭兵、グラディウスの試すような問いかけは、ただの確認だった。
ラニの揺らがぬ意志、その堅固さの。
「あの日、あの夜。あの屋敷で起こった事。包み隠さず真実を伝えるぜ……」
王国中のほとんどの者が寝静まった夜。
屋敷の一部屋に、明かりがまだ灯っていた。
その部屋には十数名が集まり、窓際に立つ男が話し始める。
「傭兵の皆、よく集まってくれた」
その男はエピーズだった。
一呼吸おいて集まった者達に説明を始める。
「まず言っておく、ここで見聞きした事は他言無用だ」
「そして君たちは概要を聞いた後、この依頼を断る事も出来る」
「依頼を受けなかったとしても、前金は払おう」
「つまり、ヤバイ事をしまーす。詳細は黙って、口止めもしまーす。ってか?」
「俺たちの事一切信用してねぇじゃねーか」
まだ若い、軽薄そうな男が吐き捨てるように言った。…イディオだ。
そも、傭兵たちが何故集まったのか、それは傭兵たちのたまり場となっていた酒場に、屋敷の使いが来たからだ。
依頼をしたいから屋敷に来て欲しい。と言われればわざわざ見過ごすような者は少ない。貴族からの依頼、その額は傭兵たちにとってはかなりの高額だ。
そう浮足立っていた者は、すぐに危険な現実に引き戻された訳だが。
「そうだ。君の言う通り、口止めだ」
「信頼関係もない相手に自らの急所をさらす気はない」
「だがそれは君たちの急所にも成り得るからでもある」
「墓穴を掘りたくないのなら、今すぐ帰りたまえ」
「ザッケんな!」
イディオは侮辱されたと思い、喰ってかかる。
それをグラディウスが制止した。
「やめておけ、相手はアーティファクトの所有者だ。死にたいのなら、構わんが」
イディオはそれを聞いて顔が青ざめる。
彼の今の心境は、ゾウにケンカを売ったアリと同じものだっただろう。
一歩間違えば文字通り、虫けらのように消されていた。
それを理解して、生唾を飲みながら二歩下がった。
「すまんな、依頼人。傭兵の質はピンキリでね」
グラディウスは傭兵たちを代表して謝罪する。
「構わないよ。これが初めての依頼と言う訳でもない」
「数年前にも、君たち傭兵に依頼を出したことがあったからね」
エピーズは五年前、奇病の治療薬を探すために傭兵を雇っていた。
しかし、傭兵たちはその依頼を達成する事が出来なかった。
彼女の死を受け入れられなかったエピーズは、彼らをひどく責めたのである。
(間に合わなかったのは、私も同じだったのにな……)
エピーズは懐かしそうな、それでいて悔しそうな顔で下を向いた。
この場にいた何名かは、その理由を感じ取り、少しばかりの哀悼を捧げる。
だが五年前、国外を流浪していたグラディウスには、知りようがなかったが。
「………?そうか、それならよかったが」
「……さて、改めて…依頼の概要は『探し物』だ」
「ただし、国を越えての仕事となる。その上、探し物がどこにあるかも不明だ」
「これから話す詳細を聞いたなら、依頼を受けたとみなす」
「当然、依頼を受けた以上責任も発生する。よく考えてくれ」
傭兵たちはざわめきだす。
彼らはここが分水嶺だと、明確に理解している。
「長い前置きはこのくらいにして、依頼を受けるならここに残ってくれ」
「受けない者は使いに街まで送らせよう。もちろん前金は受け取ってからな」
傭兵たちの後ろに控えていた執事が、視線を受けて会釈する。
その隣、扉の横には門番のリヒターが小間遣いとして立っていた。
さらに執事の隣には、前金の入った革袋が人数分用意されている。
「クソっ…!」
イディオは我先にと部屋から出ていった。
それを口切りに何名かが去ってゆく。
本能に従う者、経験に学んだ者、保身に走る者。
そして残ったのが……
「俺を含めて五人、か。思ったより残らなかったな」
グラディウスが閉まっていく扉を横目に呟く。
だが、大金に釣られて集まった者を責める気はないようだ。
「さあ依頼人、内容を聞かせてくれ。飛び切り危険なヤツだろう?」
彼は、冒険のスリルを求めて傭兵になったのだから。
ここに残った者は理由は違えども、彼らなりの目的があるのだろう。
エピーズは頷き、話を続けた。
「さっきも言った通り、探し物だ。と言っても……」
「それはアーティファクトよりも希少な物」
「いや、未だ存在そのものが幻と言われる……」
グラディウスはもったいぶった言い方に、むしろ心が躍るようだ。
エピーズは娘たちの顔を思い浮かべながら、その言葉を放った。
―――禁忌の業、『死者の蘇生法』を探し出して欲しい
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