第2話 からっぽのエピーズ
緑あふれる細道を歩みながら、紫髪の双子が話し合う。
「……ニーニャはさ、将来の夢ってある?」
ラニは空を遠く見上げながら訊いた。
ニーニャしばしの沈黙の後、おずおずと言う。
「お父様の…支えになりたいかな……」
「いいんじゃない?ニーニャなら出来るよ。頭良いんだから」
ラニは妹の夢を応援する。
家庭教師から「もう教えられる事は無い」と言われた妹に、嫉妬してはいない。
自分より頭のいい妹は、むしろ誇らしくさえあった。
そんな自慢の妹なら、と――
「あっ」
ニーニャが驚いた声を上げた。
その視線の先には。
「げっ」
「ラニ、勉強はどうした?」
二人の父親、エピーズがいた。
彼は高そうな服を着こなしているが、血色はあまり良くない。
やつれて表情が分かり難いが、どうもお冠のようだ。
「こうした‼」
ラニはそう言い捨てるや否や、踵を返し走り去ろうとする。
だが彼はそれを許すほど、甘い大人ではない。
「捕らえろ!ウィンドケージ‼」
大気中に存在する魔力が、エピーズの意志によって励起する。
それは、己の意志を具現化させる技術、『魔法』である。
懐から取り出したこぶし大の輝石が、呪文に応じ共鳴する。
それは、使いこなせれば一騎当千に成ると云われる道具、『アーティファクト』である。
「ゲェーーー⁉」
ラニの体は旋風でふわりと浮いて、逃げることはできなくなった。
それでもジタバタするラニに、父親は目を合わせて沈黙する。
「………」
「……………」
「………………………………………………………」
「……ゴメンナサイ」
ラニは根負けして、自分から謝った。
すとん、と地面に足がつく感覚がする。
そして抱きしめられた。隣にはニーニャもいる。
「お父様……」
ニーニャは抱きしめ返した。
だがラニは知っている。いや、ニーニャも気付いているのだろう。
エピーズの心には、大きな穴が開いていると。
一人きりになると、いつだって寂し気な顔をしている事を。
自分たちの前では、気丈なフリをしているだけだと。
それが自分たちの為にではなく、愛しき女性の遺言を守る為でしかないと。
――知っている。気付いている。
「……さあ、ラニは勉強に戻りなさい、ニーニャはラニを見張ってくれるかい?」
エピーズはズボンについた土を気にも留めず、二人の頭を撫でて言う。
二人からは逆光で、彼の顔は見えなかった。
「さ、ラニ、一緒にお勉強しましょう?」
「う、うん……」
ラニはニーニャに手を引かれるまま、ついていく。
父親がさっき、どんな顔をしていたか思いながら。
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