『さまよえる古墳』 中
『な、な、これは、なんと。』
ぼくは、あからさまに、異様な雰囲気に、まずは、びっくりした。
広い、開放型のフロアーが、例の古墳で満杯になっているのだ。
たしかに、最近は、貴重な遺跡や遺物を、建物で覆うという保存方法は実際にある。
しかし、この遺跡は、はっきり言って、名もない田舎の小古墳に過ぎない。
まあ、中身がだれであるかは、もちろん分からないが、それなりの方ではあったのだろうけれども。
第一、どうやって、ここに入れたのか?
ばらばらにして、あとから組み立てたというのが、一番ありそうなシナリオである。
しかし、それを、一人でやれるとは、まあ、思えないし、そもそも、公共物だろうから、いくらなんでも、勝手にはまずいだろう。
まさか、先に古墳を移しておいて、あとから、建物で覆ったか?
いやあ、だって、集合住宅だからね。
それはないだろう。
さっぱりわからなくなった。
まあ、市役所の職員さまなんだから、なんらかの、からくりが、あるのだろうか。
『この建物は、8階だてで、各フロアーには、4つのお宅が入ります。ただし、2戸つなぎにもできます。ここは、そのように、なっております。で、結局全体で、一階、二階、最上階は、2戸、残りは4戸入りましたから、24戸が入居しておりまして、すべて、古墳、または、その中身となっております。』
『ちょっと、まったあ。え、じゃ、この建物全部が、古墳、とか、ですか?』
『はいー。そのとおりです。最近は、世の中、一時に比べると、文化遺産の継承が、良くなりましたが、それでも、あえなく破壊された知られざる小さな古墳、遺跡は多いのです。とくに、集落跡は、広かったりして、よほど重要でないと、全体の保存は難しいので、発掘物だけを保存している場合があります。各地の大学とか博物館も、頑張ってはいますが、限界はありまして、だから、あたくしのような、時空間横断型保存人がいるのです。まあ、現世の行政機関とは、微妙な関係があります。しかし、あたくしたちには、長い積み重ねにより、かなりの資産がありますから。それに、ものを、いわせるのです。』
『秘密も多い?』
『そうです、そうです。』
『あの、あなたは、どなたなんですか?』
『通称、卑弥呼、と呼ばれます。本来は、火星の出身です。この宇宙と、ともに歩むことを運命と定められました。』
『あの、じゃ、あなたのお墓は?』
『まあ、生きてるから、お墓じゃないけど、これが、自宅です。』
『はあやあ。つまり。卑弥呼さまのお墓は、ない、と。』
『そうなんです。でも、大っぴらには言えませんでしょう。』
『そら、まあ。』
『あなたさまは、まあ、時の証人です。あたくしたちには、各時代に、証人を残します。』
『なんですか。それは?』
『強制はいたしませんが。せっかくだから、中を見学しませんか?』
『な、か、?』
『そう。あたくしの、おうちの中を。さあ、どうぞ。悪くないですよ。男性には。とくに。』
『なんだあ? それは?』
『まあ、まあ、どうぞ。』
こうなったら、見学しないわけには、ゆかないじゃないですかあ。
ぼくは、アパートか、マンションか、の中にある、彼女の自宅に招かれたのである。
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