『さまよえる古墳』

やましん(テンパー)

『さまよえる古墳』 上 (全三回)

  『これは、フィクションです。』





 あれから、ずいぶん、時間は過ぎた。


 ぼくは、まだ、生きてはいたが、社会の居場所はとっくに無くしていたし、逆に言えば、気楽でもあった。


 だから、あの、木の実のお守りを頂いた古墳には、今、訪ねるのが、よい時期だと思われる。


 もう少ししたら、自動車の運転はやめた方が良いだろうし、第一、あの程度のやまみちだって、歩けなくなるかもしれない。


 小さな山でも、山は、長く存在する。


 人間が削らない限りは。


 そう、削らない限りは。


 つまり、それは、削られていた。


 山は、無くなって、沢山の高層アパートなどが建てられていた。


 『あらまあ。きれいさっぱり、無くなったか。』


 ぼくは、ある意味、呆れたのである。


 あの、青の洞門は、禅海和尚さまが中心になって、30年掛かって堀り抜いたらしい。


 しかし、ここは、10年も掛からずに、山自体が無くなった。


 飛行機から眺めると、街はどこもかしこも、まるでスプーンで、アイスクリームを削ったように、あちこち、でこぼこだらけだ。


 まだ、文明開化から、200年と幾らかしか経たない。


 あと、200年もしたら、地球が削られて、販売されるのだろうか。


 まあ、山というより、丘だったのだが、なんとも、虚しいものだなあ。


 それにしても、あの遺跡はどうなったのだろう。


 高速道路などの建設に当たっては、地域の遺跡調査が行われる。


 場合によっては、引っ越しさせられたケースもあるようだ。


 お陰さまで、新しく、綺麗に整備された場所さえある。


 ここの、遺跡も、あの、不思議な女性も、引っ越ししたのだろうか。



 そこで、ぼくは、市役所さまに、直接お伺いしてみたのである。


 

    ・・・・・・・・



 どこの現場にも、生き字引みたいな人が、ひとりは居るものだ。


 そこにも、いた。


 昔のイメージで考えてはだめだ。


 最近の役所は、なかなか、飛んでいる。


 ただし、やたら、人手不足だ。


 この、担当者さまも、なにからなにまで、ひとりで抱えているらしい。


 しかし、こうした、学術的、現場的な仕事は、好きな人には天国に近いだろう。


 しかし、ぼくは、まさに、ぶっ飛んだのである。


 小さな応接間に現れた彼女は、制服は着ていたが、あの、古墳で占い師の姿をしていた、あの人、そのものだったからだ。


 しかも、開口一番、こう言われた。


 『お久しぶりです。いつか、現れると思っていました。あのことは、ナイショ。ですよ。』


 

 『む。いやあ、と、いわれましても、いささか、たぬきにつままれたみたいです。いや、すごく、はっきりしたかな。あなた、市役所の方でしたか。いや、それにしても、へんだなあ。古墳はいづこに。』 

 

 『きつねさんは、みたことないですか?』


 『そうなんです。たぬきさんも、一~二回ですが。』


 『わかりました。遺跡は、破壊される前に、自主的に、移転いたしました。』


 『え? 自主的? どこに? どうやって?』


 『見に行きたいですか?』


 『はい。』


 『では、明日、午後3時に、あの丘があった場所に来てください。』



     ・・・・・・・・

 

 その、当日は、大変に、良いお天気であった。


 青空が、気持ち良さそうに、お空に横たわっている。


 新しい、巨大な団地は、かなり高級な内容らしく、アパートとというよりは、マンションに近い雰囲気らしい。


 実際には、賃貸用アパートと、売却用マンションと、両方あるんだそうで、公園地が、境目になっているらしい。


 なんで、古墳を残さなかったのかは、さっぱり分からないが、場所的にまずかったのか。



 彼女は、ごくあたりまえの姿で現れた。


 『ども。』


 『はい。ども。』


 という、非常に日常的な挨拶のあと、ぼくは、後について歩いた。


 やがて、彼女は、売却側の、しゃれたデザインの建物の一階に案内した。


 『はい。こちらです。』


 『はあ? 建物の中ですか?』


 『ずばり、さあ、どうぞ。独り暮らしなので、遠慮要りません。』


 『ぼくなんか、出入りして大丈夫ですか?』


 『ぜーんぜん。』


 彼女は、慣れた感じで、鍵を開けた。


 中に入って、ぼくは、絶句した。


 なんと、そこには、あの『古墳』が、ど真ん中に、鎮座していたのである。



    ・・・・・・・・・・・・



            つづく………


 

 


 


 

 


 


 

 

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