リライト 第6話(1)

これは、「第6話 たつ」を書き直したものです。まだまだこの回も書き直します。一人称とか三人称の部分とか


直す前の第6話もありますので、ぜひそちらも読んでみてください。

元の第6話になかった新しい要素も入っていますが、大幅な話の変更はありません。

元の第6話から、文章力が少しでも成長してるなと思っていただけたら、嬉しいです。

それでは。

_____


 皆が戦いの準備を始めている中、私達一行は親戚の和正さんのいる東の方へと向かっていた。開拓されていない山道を急いで進んでいくのは、なかなかに至難なもので、あの景泰でさえも、息を切らしている。慣れていない母はより大変そうだ。そんな中私は、まだ2歳で足手まといになるため、父の部下に交代交代でおんぶしてもらっている。そんな一行のメンバーは、景泰に、天才医師の石井、地理専門家の山本、それに御年57歳の元剣豪、三浦信忠(私はジイって呼んでいる)と、なんでも作れる杉崎兼孝の5人と私と母。


 歩き始めてから、4、5時間経っただろうか。太陽がおやすみをする直前に、なんとか和正さんの家にたどり着いた。その家は山奥で一部分だけ開けた土地になっている所に位置している。とはいえ、草原が続く中にポツンと立地しているわけで、家が見えてから、たどり着くまでに多少の労力はいるが。そんな場所にある家は、とてもシンプルな一軒家で、農村と比べたら、まだ立派かもしれない。それくらいに、質素倹約に努めている印象を受ける家だ。


 玄関をノックすると出てきたのは、父が20歳くらい老けたような顔の人。この人が和正さんで間違いないなと確信しつつ、挨拶をした。


「皆さん、変わりましたね。景泰くんは、また筋肉が増えた感じがするし、――。あ、それにこの子が舞衣ちゃんですよね。よく、明正くんにも京子さんにも、似ていますね」


 積もる話はみんなあったようだけど、先に波流の国の状況を和正さんに説明した。


「それは、大変ですね。ここは何もない場所ですが、ゆっくりしていってください」


 かつて弓の使い手で有名だったという景泰の言葉が信じられないほどに、和正さんは謙遜する。もっと先輩風吹かせてもいいと思うけどなー。



 それから、何日も何日も待った。でも、いつまで経っても、父は現れなかった。


 玄関の開く音が聞こえるたびに、私は玄関の先の人影に飛びつくのだが、そこにいるのは、私達一行の誰か。その都度、想いがこみ上げてきて、気づいた時には涙が溢れている。まるで、そういうアルゴリズムでも組まれているかのように。


 父と別れてから数週間後。そんな私を見兼ねて、町に出ることにした。この際、父の生死をはっきりさせた方が良いとの判断だ。


 町に出て、父の生死について問うと、様々な噂、憶測が飛び交っている。が、どんな話の中でも一貫して、父は死んでいる。


 聞き込みの途中で、見覚えのある農家の人を見かけたので、声をかけてみると、


「本当にごめんなさい。私達なんかが生きていていいんでしょうか」


 取り乱している。その様子を目にすると、痛いほど気持ちがよく分かって、下を向く他なかった。彼は落ち着いてから、再度話し出した。


「あの日、灼炎の兵士は狂ったように、波流の兵士を見つけ次第斬殺していました。波流の兵士は命の危険にさらされていても、最後まで私達を守りながら、戦ってくださいました。私達をかばって亡くなった方も大勢います。せめてもと思い、石碑を建てることにしたのです」


 その石碑まで案内され、石碑には


「波流の国の兵士達へ。彼らを英雄と称え、この戦いを英雄の戦いと名付けます」

と綴られていた。


 違うんだ。そうじゃないんだ。別に父は英雄にならなくたっていい。平凡であってもいい。それが、あの父であるならば、浅霧明正であったならば。ただ、傍にいてくれるだけで良かった。

 生きていて欲しかった。その思いが募るほど、あの時、お父さん大好きって言っておけばよかった。たった一言であっても、今となってはもう伝わらない。その後悔の念がどれほど大きいものかは、はかり知れるものじゃない。

 せめて、この石碑にも書かれていない、父と私との記憶だけは、自分の心の中に大切に保管しておこう。それは英雄などといった偉大なものでなく、ただの1児の父親であった浅霧明正を。



 その後も和正さんの家での暮らしを続けていたのだが、母は、父のことを聞いてから病気がちになってしまった。

 もう最近は布団から出ているところをほとんど見ていない。

 気づけば季節も冬に移り変わり、樹木は葉っぱを落としていた。今では最後の1枚となった木の葉をなんとか繋ぎ止めているかのように残っているだけだった。

 英雄の戦いから2ヶ月が経った頃、母は帰らぬ人となった。




 ――13年の時が経った。


 若葉残光流、陽梅(ひめ)。

 草木がそよ風でなびく、そんな趣のある音に加えて、今日は一段と激しく木刀と木刀のぶつかる音がこだまする。まるで釘を打つような音が、立て続けに鳴り響く。舞い散る葉っぱでさえ見向きもされないくらいに、二人は集中している。


 煌めくかんざしは、凛とした顔立ちによく似合う。その容姿は13年前のあどけなさを払拭し、かつて美しい笑顔を咲かせた母親譲りの美貌だ。それに、対峙している男性とは対極的に、筋肉があまり目立たず、しなやかな体つきをしている。一見、戦いには不向きにも考えられるが、彼女はそうは考えていないらしい。なぜなら、特筆すべきは体格ではなく、戦い方だからだ。自分の小さい体を生かして戦うことで、他人には出せない独自の剣術を繰り広げられる。


 若葉残光流、瞬神李飛(しゅんしんりひ)

 女性が地面を蹴り、地面に生い茂った草が飛び散る。どんどん加速していくその姿は、まるで光のよう。一直線に素早く景泰に近づき、景泰の胴をめがけて死にものぐるいで木刀を振る。が、


「まだまだですね」


 そう言い捨てられて、舞衣はまた地面に背中を付けることになった。



 私は、これで何敗したんだろうか。この13年間で一度も景泰に勝ったことがない。筋肉ばかりの景泰の見た目は体が重そうなのに、意外と軽快に動く。なんなら、私の方が身軽に動けそうなのだが、……。そんな景泰に一度は勝ってみたい。それが私の今の目標と言いたい所だけど、もっとエゲツない人がいるのです。それは、御年70歳の動けるお爺さん、ジイだ。もう、引退したって聞いていたはずなんだけど、何かの手違いなのか、現役レベルで強い。そんな二人は私のことを侮蔑するわけでもなく、筋はいいと言ってくれる。


 あらっ、私って強いのかしら。すぐに真に受けて、調子に乗ってしまうのだが、まだ一度も勝ってないのだよ。


 青い空のパレットの中で、白い雲もアイスクリームが溶けるように薄く広がっている。磁石のように地面とくっついて離れない重い背中を、私は地面に手をついてなんとか立ち上がる。礼儀正しくお辞儀をしながら懇願する。


「もう一回お願いします」


「そろそろ、狩りに出ませんか? 夕食の食材を取るために」

 と断られる。狩りかー。私苦手なんだよな。



 ――数時間後

 案の定、私だけ収穫0だ。運動苦手とか言ってる石井と山本と杉崎だって、しっかり何羽か仕留めているのに。


「舞衣様は、いつまで経っても弓が下手くそですね」


「的外れならまだしも、2,3メートルしか矢が飛ばないですもんね」


「仕方ないじゃん。だって私、女の子だもん」


「え? 本当に、女の子ですかぁ?」


「もぉ、そんなこと言わないでよ。泣いちゃうよ」


 我ながら面倒くさい女だなと思う。でも、お母さんが書き残した「女の子入門」には、今の返答が正解だと書いてあったし、たぶん大丈夫でしょ。というか、こんなおじさん達の前で、可愛らしくいる意味あるのかな。と思いながらも、和正さんの家へと向かう。


 太陽とバトンタッチをして出てきた月が私達を見守る頃。みんなで食卓を囲む中、6人の前で私はついにこの話題を話した。


「そろそろ私達もこんなことをしている場合じゃないんじゃない?」


「というと?」


「こんな所で平和ボケしてないで、世界の争いを鎮めにでも行かない? みんなだって、もう若くないんだし、行くなら今かなって」


 スベった時のように、部屋の中が一気に凍りついた。普段なら聞こえないような微かな雑音でさえも、今ははっきりと聞こえるくらい部屋は静か。無言の圧力を感じた私は自然と引き下がっていて、


「ダメかな?」


 と問う。が、不自然にも場の空気が和む。


「まさか、舞衣様の口から、そのような言葉が聞けるとは。本当に立派になられましたね。景泰、感激です」


「私達もいつ言うか、ずっと悩んでいたのですが、なかなか言い出せなくて……」


「そうだったのね。なーんだ。みんな静まり返るから、怖かったぁ」


「それで、どこに向かいますか?」


「えっ、あっ、ちょっとまだ全然考えてない」


「では、まずは山賊を退治するのはどうでしょう。最近、山賊が蔓延っていると町で聞きましたし」


 私のこの返答を予測しているかのように、山本が瞬時に案を出した。


「それ、私も聞きました。どうやら、平気で人を殺すらしいですよ。そして、金品を奪って逃げるそうです」


「そんな酷いことをするのか。許せないな。じゃあ、山賊を成敗しに行こっか。あ、でもさ、山賊ってどこにいるんだ?」


「まあ、山ってついてるから、山にいるんじゃないですか?」


「景泰さ、私のことバカにしてる?」


 私は頬を膨らませて不機嫌そうにする。


「すいません。バカにしました。あ、嘘です。嘘です。どうか肉だけは取らないでー。夕食がほぼ無くなっちゃうから。本当は、私もどこにいるのか分かんなかったので、ついてきとうに」


「よし。お肉半分だけくれたら、許そう」


「えー、半分もですかー」


「じゃあ、2分の1?」


「それなら……。変わってないじゃないですかー」


 私が景泰と戯れている間に、他のみんなは黙々と食べ進めている。石井は食べる時に必ず美味しいと感想を述べ、それを聞いた料理担当の杉崎は嬉しそうに微笑む。そんな様子を見て、早く食べたくなった私は景泰のお肉を取るのは諦めた。私が諦めたことで、景泰はご褒美を貰ったかのように、目をキラキラと輝かして食べ始める。私と景泰の会話が終わったのを見計らって、山本が口を開いた。


「山賊なら、そこらへんの村にでも襲ってくるんじゃないですか?」


「そうだね。じゃあ、近くの村にでも行ってみようか」



 翌日。私の世話係をすることになっている景泰が、朝起きるのが弱い私のことを布団から引っ張り出そうとする。朝から激しい攻防戦で、まだ寝ていたい私は一歩も譲らず、毛布をなんとか保持。


「あともう少しだけだからぁー」


「だめです。そう言って、いつも起きないじゃないですか」


「……」


「じゃあ、分かりました。舞衣様の大好きな藤鳥の肉は私が食べておきますね」


 そう言って、走り去っていく。私は景泰がいなくなったことで安心して寝ようとする。が、先ほどまでもやがかかっていた思考回路が鮮明になるにつれて、事の重大さに気づく。その時には、私の姿は瞬間移動するみたいに寝室から飛び出し、ダイニングへと向かう。


 そして、ダイニングの扉を開くと、大きく開いた景泰の口の中にお肉が吸い込まれていく。机の上にある皿を見ると、もうそこにはお肉がない。


「そ、そんなぁー。……。ひどいよ、景泰」


 うつむく私の肩を誰かがトントンと叩く。振り向けば、杉崎が皿を持って立っている。


「はい、舞衣様。藤鳥丼です」


「え、でも景泰が食べたはずじゃぁ……」


「景泰は人の食べ物を奪うようなことをする人じゃないですよ。幼なじみだから分かります」


「そうか。そうだったのね。なんだなんだ、それならそう言ってよ」


 声に色がついたように、分かりやすく喜んでるな私。でも、この反応が大げさじゃないくらい美味いのです。藤鳥丼は。その喜びを噛みしめながら食事をし、何分か経った頃には手を合わせて、その後食器を片づけた。


「よしっ。舞衣様の準備もできたことですし、行きますか、小川村」


 私達は刀や着替え、食糧といった荷物を持ち、和正さんに別れの挨拶を告げた。そして、小川村へと向かうのだった。


_____


第6話(1)のリライトは以上です。(2)もあります。

もしよろしければ、良い点、悪い点、分かりづらい文など、コメントに書いてくださると嬉しいです。

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