第1章

序章

第1話 ジャンプ

 誰でも一度は、過去にいって人生をやりなおしたいと思ったことはあるだろう。


 私もそうだ。もう50代になって言うのもなんだが、私は小学生くらいまで戻って女の子達にモテたい。今の自分に似合う四字熟語は「天涯孤独」とか「独身男性」。だから、少しでもモテてみたいのだ。


 人は人生で3度モテ期が来ると言われているが、私は今のところ小さい頃におじいちゃんおばあちゃん達にモテた?以来、来ていない。もちろんこれから先にも期待はできない。


 でも、なんで小学生の頃に戻りたいかって?あの頃は足が速いだけで、クラスの人気者になれる。これで簡単に、私は持てはやされる。ただそれだけだ。別に軽蔑したかったら、してもらっても構わない。もっとも、私は自分の未練を達成したいだけなのだ。


 その目的のために、私が研究に研究を重ねたある日、タイムマシンの開発に成功したのだ。これは、腕時計のように腕に巻き付けて使うもので、年月日と時間を入力すれば、今いる自分の場所の、選択した時に飛ぶ。つまり、私の場合は自分の子供時代の1975年と設定すれば、行けるのだ。念願の1975年に。


 あんまり、長く説明しても分からないだろうから、とりあえず使ってみよう。


 ポチッ。タイムマシンのボタンを押すと、一瞬で時空を移動した。


「おぉー。1975年に無事に飛べたようだ。」


 私は、胸がはずんでいた。これから起こりうることにワクワクしていたが、大きな欠陥を見つけてしまった。それは、過去に行っても自分自身の体は小さくならないのだ。


「やべぇ。なんで気がつかなかったんだ?」


 自分のバカさにイライラする。何せ、子供になる心の準備はしていたから、楽しみにしていた遠足が中止になって悲しむ子供くらい期待を裏切られてしまった感が大きかった。そんなこんなで、一旦心が落ち着いた時、


「でも、ここはどこだ?」


 ふと気になった。さすがに50年近く前のことだから、自分もここがどんな場所か覚えてなくて、分からないが、丘のような高台のような場所だ。周りには少し木々があるが、家とかもないし、やけに見晴らしが良すぎる気がする。

 冷たい風が自分の首筋あたりを、撫でるようにそっと通り過ぎていった。


 なんかすごく嫌な予感がした。そして、よぉーくタイムマシンを見てみると、1975万年と表示されている。


「えぇ!!!!?!!!?」


 さすがにびっくりしすぎて、どっかのお祭り男のようなリアクションをとってしまったが、それと同時に未来の世界がどうなっているのか気になりだした。


 自分の想像だと、月まではエレベーターでいけるようになり、タコみたいな感じの火星人と交流し、そしてとあるクイズ王は、ここはどこでしょう?みたいなクイズでまだ「銀河系だ」というところまでしか分からないところで、早押しして、正解して、「銀河押し」とか言われていて、あと小学生の遊びは、エアコンガンガンの部屋で友だちとバーチャル世界で会いながら、ゲームをする。みたいな感じを想像していた。



 だが、周りを探索してみても、人が全然いないし、建物もない。


 これってもしかして、人間が滅んだ世界なのでは?と想像して、急にぞっとしたが、その時、人の声がした。なんて言っているのかはよく分からないが、かなり殺気立った声だ。


 これは近寄るとやばいかなと思っていると、周りからも激しい音や人の声がしだした。

 なんだ?何が起こった?バレないようにカンニングするように、そっと木陰から覗いてみると、そこでは戦をしていた。


 ただ不思議なのは、いわゆる第一次世界大戦や第二次世界大戦のような戦車や戦闘機などの兵器を用いた戦いではなく、日本の戦国時代のような騎馬戦なのだ。



 さっきからバカ丸出しの自分でも、さすがにこれは危険だと理解して、勢いよく地面を蹴って逃げ出した。

 しかし、逃げている途中で飛んできた矢が鎖骨辺りに刺さってしまった。


「いたぁーーい!」


 親父にも矢で刺されたことないのにぃ!何を考えているんだ。バカ。これは、さすがにまずい。


 タイムマシンで元の世界に戻ればいいと考えるかもしれないが、タイムマシンは一度使うと、充電しないと使えない。一応太陽光発電も取り入れているが、充電が完了するには、まだまだ時間がかかる。


 このままだと、死んでしまうかもしれない。そう思った時、何も武装していない大人の女性が通りかかった。


「?????」


 あいかわらず、ここの言葉は分からない。とはいえ、悪い人ではなさそうだ。とりあえず、彼女に着いて行こう。




 数分歩いていくと、村のような場所に着いた。家が何軒か建っている。


 とりあえず医者らしき人に診察してもらったが、雰囲気は重たい。おそらく矢に毒でもついていたのだろう。そこで私は察して、もう目を閉じようとした。


 するとすぐ近くで、また激しい音がしだした。何が起こったかと、周りを見回すと、さっき戦っていた赤い旗と青い旗を持った人達がこの村の方まで来ていたのである。これは戦線がこの村まで来た、つまり、この村が戦場となってしまうことを意味していた。



 村の家々には火の手が上がり、そして、何も悪くない村人達が、戦いに巻き込まれて殺されていった。


 私ももう終わりか。と決め込んだが、近くで泣き叫ぶ子供の声が聞こえてきた。せめてこの5歳くらいの女の子だけは、逃がしてあげたい。その一心で、その子を抱き抱えて、走って逃げた。


 私達はただの村人だから、戦士は追ってこないはずだ。そうはいっても、安心はできなかったので、近くの別の村まで最後の力を振り絞るように走った。とめどなく走った。


 小学生に戻ってモテるために走る練習しといてよかったなと、この時ふと思った。それと同時に、自分は矢の傷のせいでどうせ助からないことを推し量ると、今まで平和ボケしていた自分に戻りたいと強く願った。


 仕事で疲れて帰っても家には誰もいないが、それでもその時に飲むビールは格別に美味しかった。今自分がいなくなっても誰も心配してくれる人がいないと思った時、ある意味独身で良かった。




 そして、あと200mくらい先に集落らしきものがあるのが見えた。もう少しだ。あともう少しだけ力を振り絞れ。

 その時には、自分は疲れ果てていて、なんでもないところで転んでしまった。



 私はこれ以上は動けまいと思って、女の子に集落の方に行くように指をさした。

 そこで女の子が泣きながらも、一生懸命に私になんか言っている。

 それを理解できない私は、最後に自分の持っている荷物を渡して、


「天井昌(てんいしょう)」


 と、自分の名前を言うと、女の子は察したのか、


「???陽菜。」


 と言って、泣きながら集落の方へ走っていった。



 私はそれを見て安心し、目を閉じ眠りについた。

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