リライト 第3.5話 日常

これは、「第3話 2年後」と「第4話 事件」の間に新しく入った話です。言ってしまえば、リライトではないです。

最新話の方で初めてセリフが出てきた母親「京子」のセリフもここでは収録されています。

(家族全員の一人称が「私」だと分かりづらいので、父親の「明正」の一人称は私から俺に変更します。)

それでは。

_____


 睡眠と食事が繰り返されるだけの赤ちゃん生活の中で、私は真剣に言葉の理解に努めた。元々、語学を得意としない私にとっては、逃げ出したくなるような時間だったけど、美しい母と話すためなら。その意気で励んだ。


 半年が経つ頃には、なんとなくだが、理解できるようになった。私のことを見詰めている母と、試しに喋ってみるね。


「お母さん。外……外に……」


「お外に行きたいの?」


 こくりとうなずく。


「じゃあ、抱っこしようか」


「一人で歩くます」


 私は、よちよちと地面に手をつきながら外へ向かって歩く。母は見守りながら、襖を開く。が、外からの光が人影で遮られている。


「舞衣ぃ。父だぞー」


 親バカのイケメンお父さん、明正だ。人前では真面目なのに、私と母の前では著しく精神年齢が低下する。


「明正! あのね、舞衣がね、外に行きたいって言ったの!」


「えっ! 自分から外に行きたいと言ったのか」


「そうだよ」


「なんてことだ。歴史的瞬間を俺は見逃してしまったのかー! お願いだ。舞衣。もう一度言ってくれー」


 土下座までしだした。

 私は外に行きたいので、父のことを無視して、父の隣を通り過ぎていった。


「京子。もう俺、舞衣に嫌われちゃったのかな」


「いえ。舞衣はきっと照れてるのよ」


「そうか。そうなのか。恥ずかしがらなくていいんだぞー」


 そう言って、私の頭を撫でる。その後もデレデレしている父に、根負けして構ってあげた。


 誰かの足音が聞こえる。すると、父はすぐに襟を正し、顔からニッコリが消えた。いつもの誠実な父だ。


「明正様。折り入ってお話があるのですが……」


「うむ。よかろう」


 父は去っていった。


 私には父がどのくらい偉い人なのか分からない。だが、いくつ部屋があるのか数え切れない程に広い屋敷の主だし、さっきのような人達を束ねているのだから、すごい人なのかもしれない。まあ、私はそうは思わないけどね。



 そんな私は、家族と、父の部下? に支えられながら着実に成長していった。


 私が二足歩行できた時は、


「景泰の持っていた最年少記録を打ち破りました」


 と誰かが言い、その景泰という人は、私のことを抱き抱えた筋肉ムキムキの20代くらいの男性だった。


「景泰さん。今のお気持ちをお伺いしてもいいですか?」


「悔しいですっ! 舞衣様に一生ついていきます」


 色々とツッコミどころがあるけど、ツッコミをするほど、まだ言葉が話せないので諦めた。


 私が怪我をした時は、医務をしている石井修という、天才医師に完璧な治療を施された。石井は、本当に男なのかと疑うほどに、可愛らしい天使の笑顔を持っていて、幼い私に対しても親身になってくれる。こないだも、私が風邪をひいた時に、熱が下がるまでずっと看病してくれた。


 というか、なんで家に医務室あるの? その疑問は私が2歳の誕生日を迎える数日前に、口を滑らせた景泰によって解消された。



 その日、昼休みを日向ぼっこしながら会話を楽しむ高校生のように、私と景泰は話していた。


「景泰を含めてさ、私のお父さんの部下って、マッチョな人多いよね。それに比べて、私のお父さんは細身で弱そうだし」


「いや、明正さんは強いですよ。私は一回も勝ったことありませんもん」


「何で勝負するの?」


「そりゃ、もちろん刀ですよ」


「かたな?」


「あ、……」


「なんで、黙っちゃうの? 教えてよー」


 駄々をこねる私に、もう仕方ないなー。と言わんばかりに景泰は喋りだす。


「これから話すことは、明正さんには秘密ですからね。絶対って約束してください」


「うん。約束する」


「明正さんは、この国。波流の国を治めている立派な方なんですよ」


 父が……治める……この国? 父=国王? いやいやいや、そんなはずないでしょ。


「この国は波流(はる)の国っていって――」


「ちょっと待った!! お父さんが国王? あんなフザけた人が?」


「きっと明正さんは、この戦乱の世に舞衣様を巻き込みたくないんですよ。だから、家族の前ではフザけているのだと思います」


「じゃあさ、さっき景泰より強いって言ってたけど、それはどういう?」


「明正さんは筋肉がつきにくいらしく、弱く見えるかもしれません。ですが剣術だけは、異次元の強さです。剣聖という称号がついているくらいです」


「称号って?」


「称号は、いわば強さの証明ですかね。称号がついてる人は、日本に3人しかいないんですよ」


 少し興奮気味に語る景泰を見ると、この話が本当なんだなと思った。


 景泰が熱く語っている間に、何か殺気に似たオーラを放つ男が近づいて来ていた。景泰はそのことに気が付かないまま語り続け、その仏のような笑みを浮かべる人物に肩をトントンと叩かれた。


「景泰。後でお仕置きね」


「えー!! 明正さん、いたんですかー! 言ってくださいよ。心臓に悪いからー。それにお仕置きって、アレですか?」


「お仕置きについては後で言及するとして、舞衣。お前に話すことがある。景泰、山本を集会室に呼んでくれ」


 神妙に話す父からは、国王たる気迫が伝わり、その表情からは強い覚悟が感じられる。ただ一つ言うならば、怖い。父に対して抱く感情なのか、それとも自分の置かれた立場が、国王の娘だからなのか。それは分からないが、とりあえず父について行った。


 たどり着いた集会室という部屋は、私の名前発表の行われた所だった。ただ、今回は私と父、それに景泰ともう一人男性がいるが、たぶん山本という人だろう。眼鏡が印象的な人物だ。


「私が呼ばれたということは、ついにバレてしまったのですね」


「そうなんだよ。舞衣への説明は頼んだぞ」


「はい。では、舞衣様。まずは私の自己紹介からしましょう。私は山本匠、33歳独身。明正さんの元で、地理の専門家として働いています。ちなみに、歴史にも詳しいです。よろしくお願いします」


 私は、ペコリとお辞儀をした。そのまま、山本は話を続ける。


「まずはこの国と周りの国について――」


――数時間後

 山本の話をまとめると、日本全国で50弱の国が乱立していて、その中でも一際大きい国があって、7大国って言われているらしい。そして、私達の国である波流の国は、長野県あたりに存在していて、残念ながら小国です。しかし、7大国の一角の「遼源の国」と同盟を結んでいる。心強いね。って、山本の話長すぎだろ! 長話は、校長先生とオリンピックの会長だけって決まりでしょ。興味深くて、ついつい聞き入っちゃったし。


 その後、山本の話の途中で寝入っていた父を叩き起こすと、


「山本。ご苦労であった。これから、舞衣を連れて外に出かけようと思うのだが、山本も行くか?」


「そうですねぇ。舞衣様にとっての初の外出ですからね。行くに決まってるじゃないですか」


 自分は、自分は。と、景泰は、子供が親におねだりする時のように、目を輝かせて私に懇願している。


「景泰はここで――」


「お父さん。景泰も一緒がいいな」


「舞衣がそういうなら、そうしよう」


 そのまま、父と手を繋いで、広大な空を黄金色に染める太陽に照らされながら、お散歩に行くのだった。箱入り娘の私にとって家の外に出るのは、初めて。


 外の世界は、前世の私が死ぬ前に訪れた村のようで、畑や田んぼ、それに未開拓の森が広がっている。農地をよく見ると、多くの人が農作業をしていて、時々、汗を拭っている姿も見受けられる。その中のある一人が私達の存在に気づき、手を振っている。私達も手を振り返しながら、農民の方へと歩み寄る。


「こんにちは。明正さん」


 百姓の皆は、決して偽りのない笑顔で私達と挨拶を交わし、


「あら。この子が舞衣ちゃん?」


「そうですよ」


「かわいいねぇ」


 そう言いながら、私の頬をぷにぷにと触ってくる。頬をいじるのって、ここの文化か何かなのか?


「あんた。なかなか顔出さないんだから。たまには、王城から出てきて顔を見せなさいね。あんまり無理しちゃ駄目よ」


 その会話には、上下関係などなく、まるで、近所のおばさんと話しているみたいだった。むしろ、国王である父の方が、農家の皆さんに頭が上がらないようだ。私はその光景に何か微笑ましいものを感じて、夕焼けに包み込まれた田園の絵画さながらの風景と共に、脳裏のシャッターを切って記憶した。


_____

今回は以上となります。

もしよろしければ、良い点、悪い点、分かりづらい文など、コメントに書いてくださると嬉しいです。

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