第34話 死んでもなお 慶護編
俺(慶護)は悩んでいた。
どうにかして九州の5ヵ国の潰し合いを止めなければいけないのに、どこの国も説得できていないのだ。
今も交渉に失敗して帰っているところだ。
*****
30分前
「
めったに敬語を使わない俺がわざわざ頭を下げてまで頼んでいる。でも、もう結果は見えている。自分がどこから来たかを告げた時の、相手の表情。今回で3度目だ。
「そういうなら、今すぐ隼翔の国から兵を呼んでくださいよ。」
だから俺は、その訴えに対する、まともな返答が導き出せずに、沈黙してしまった。
「できないでしょう。あなた達は遠いんですよ。だって、破界の国に対抗するだけの勢力を持ってくるとしたら、あなた達は何日かけるつもりですか? きっと数ヶ月はかかるでしょう。それなら、言うことを聞いてでも、近くにある巨大な力に頼るしかないじゃないですか。」
今の俺には、沈黙を貫き通すことしかできなかった。今までだって駄目だったから。何度説得しても同じ答えしか返って来なかったのだから。
「私達はあなた達と違って同盟の国もありませんし、巨悪に楯突こうなんて考える余裕もありません。だから、もう二度と来ないでください。あなたのことを傷つけないで帰すのは、敵を増やしたくないだけですから。」
そう言われて城から追い出された。気づいた時には門が閉まっていて、門に向かって何度訴えかけても、返ってくるものは何もない。ただ一つ受け取れるものがあるとすれば、それは、己の無力さだけだ。
(俺じゃだめなのか。)自然とそう結論付けていた。
*****
とぼとぼと高村さんのいる屋敷へと向かう。何の収穫も無しで帰る、この平坦な道のりが、とても険しくて辛い。
「「けいごー。」」
呼ばれた方を見ると、傾き始めた太陽に照らされた2つの小さな人影が見える。
それは、いつしか仲良くなってしまった、近所の農家の子ども達。2人は兄妹で、まだ、あどけなさの残る12歳と10歳だ。きっと、俺の弟妹が生きていれば、こいつらと同じくらいの背丈だっただろう。
二人は、畑仕事の手伝いをしていた。
「また、駄目だったのー?」
「慶護はバカだからなー。あれ? もしかして泣いてる?」
妹の
というわけで、ここにも俺を煽るやつが誕生しちゃったよ。
「お前らな。」
俺は、二人を追いかけ回した。この一週間のうちに、もはや恒例になっている。
「ありがとな。なんか元気でたわ。」
「やっぱ、さっき泣いてたんだw。」
「泣いておりませんー。」
この笑顔を守るためにも、俺は頑張らないと。まあ、まずは屋敷に戻って、英気を養わないとだけどな。
上を見れば、空は黄金色に染まっていて、時刻が夕方だということを告げている。
「じゃあ、もう帰るわ。またなー。」
「バイバーイ。」
「家に帰ってまた泣くなよー。」
「おうっ。」
やべっ。もう日が暮れちゃいそうだ。早く戻らないと。
_____
目の前には、誰かから借りているにしては、豪勢な建物がある。これこそが、今俺たちが住んでいる家なのだが、97人もいる俺たちを容易に収容できるのだ。
収穫が一切なかったことで、誰かに後ろ指さされそうで怖いけど、なんなら、後ろから襲われでもしたらね。怖いよな。
その時背中に、殴られたかと思うくらい強い衝撃が走った。そのまま俺は倒れ込む。誰だ? もしかして、俺死ぬ?
恐る恐る、後ろを振り向くと、ただの手紙の配達員だった。
「すみません。つまづいてしまって。お怪我はありませんか?」
「(絶対怪我したけど、ここは紳士的に)大丈夫だけど!」
少し相手が怖がってる。え? どうして? 俺、なんかミスった?
「えーと、あの、お手紙です。」
俺に手紙を渡すとすぐに、荷物を持って走り去った。
なんだったんだ? あの配達員。
まあ、いいや。とりあえず、立ち上がって家を目指しながら、便箋をざっと見る。
手紙は誰からだ? おっ。隼翔の連中からか。こないだの作戦の結果はどうなったかな。
試合の結果を楽しみに見るように、手紙を開く。
えーと、なになに。まじかっ。作戦は失敗か。ってことは、あの高村さんよりも神谷の方が
それで、それで。次は......。
「なんで、......。あいつがっ。」
役立たずの俺じゃなくて、チビで、ドジで、アホだけど、みんなのことを一番に考えてて、誰よりも強くて......。そんな舞衣がなんで死ななきゃいけないんだ。俺は、あいつにまだちゃんと感謝も伝えられてないのに。
絶望の淵に立たされてようやく俺は気づいた。
あいつは、舞衣は、俺にとっての当たり前だったんだと。
屋敷の玄関の前で泣き崩れている自分に仲間が気付き、どうした? と問う。そのまま俺は手紙を差し出し、悲しみの波動は大きくなる。
_____
大きな部屋に一同を集め、高村さんが皆に声をかけていた。
俺は自分の心と対話をしていたので、ちゃんと、聞いていなかった。それで、高村さんが、俺の肩をトントンと叩いて、温和に言う。
「慶護様戻りますよ。蒼天に。」
そうか。みんなは戻るのか。いたって、冷静にそう考える。
さっき聞いてなかったことを謝りつつ、俺は熱く
「いや、俺はここに残ります。九州は俺に任せてください。」
高村さんは、一度思考を巡らせてから、喋り出す。
「いいですよ。その代わり、約束してくれますか? 絶対に生きて帰ってくると。」
「はい。」
俺は決意した。あいつの想いを絶やしちゃいけない。
俺は舞衣が死んでもなお、この世界と戦い続ける。
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