第33話 新米くんの冒険譚(2)
蒼天の城にたどり着いた新米くんは、石井にまず会いに行った。
医務室にいるらしい。
医務室のドアを開くと、包帯で白くなった景泰達、北尊に行ったグループがいた。石井に手当を受けているところのようだ。
新米くんは、石井になんて言えばいいのか分からないまま、向かったせいで、暗い顔のままだったが、その様子を見て、一気に張り詰めていたものが消えた。そして、啖呵を切るように、心で思っていることをそのまま伝えた。
「い、生きていたんですね。よかったぁ。」
「え? どうした。こいつ。というか誰?」
新米くんは、さらに、石井の顔を見て、飛びついた。
「石井さん。僕、怖くて、怖くて。でも、帰ってきました。」
「今の所、怖かったことしか伝わってこなかったから。ちょっと落ち着いて。」
そのまま石井に医務室の奥にある、机の元に誘導された。
「どうぞ。椅子に座って。」
疲れのせいで新米くんは、実家にいる時のように、伸び伸びと椅子に深くもたれかかった。一応目上の人の前なのに。
「それで、私と別れてからのことを一から説明して。」
「はい。まず.......」
新米くんは、あったことを全て話した。舞衣があの場にはいなかったこと。今回は完全に敵の策にハマってしまったことを。
「そうか。大変だったね。疲れたでしょう。後は、私に任せて。あなたは休みなさい。」
新米くんは何かを言いかけたが、石井の慈愛のこもった命令に気兼ねなく従った。
石井は、蒼天の会議室に重要メンバーを招集した。会議室に集ったのは、総勢15名。
石井が話し始めた。
「もう、みなさん知っての通り、今回の作戦は私達の大敗北で終わりました。この会議では、情報の共有をしたうえで、これからの取り決めを行います。」
「「「お願いします。」」」
「では、さっそく、情報の共有から。今回の作戦は、北尊に攻めるグループを囮とすることで、東唯の城攻めを容易にするというものでした。ですが、神谷はそれを読んでいたのか、北尊に向かったグループは待ち伏せされた敵にやられてしまいました。なんとか生き延びたのは5千人中、10数名。
また、東唯の城攻めの方では、私達を油断させるためなのか、わざわざ私達の筋書き通りに敵は動きました。しかし、それも敵の罠。敵のNo.1である加藤重秀によって、城内に攻め込んだ兵士はことごとくやられました。これは、なんとか逃げた兵士による証言です。
また、舞衣様は調子を悪くしていたため、城外で治療していましたが、城から出てきた加藤によって、おそらく殺されたと思われます。」
会議室内にどよめきが起こった。
「どういうことだ!」 「そんなはずはない!」 そんな声が聞こえてくる。
この事実に限りなく近い憶測を、誰もが認めようとはしない。場にいる誰もがそうなるのは、浅霧舞衣という存在がみんなにとって、単なる王様ではないからだろう。
その会場の混乱を一時収めたのは、樹さんだった。
「みなさん。一度、静かにしてください。......。静かにしろっ! 様々な想いをみなさんお持ちでしょう。ですが、一旦石井さんの話を聞きましょう。」
「ありがとうございます。」
ただ、決してその10文字には明かりが灯ることはない。思い詰めた表情が、石井の心情を分かりやすく反映していた。
「続けます。先程、”舞衣様が殺された”と言いましたが、正確には推測としてです。加藤と舞衣様の戦いから、私ともう一人の青年は逃げました。それは、舞衣様の判断です。
その後、舞衣様のことを心配した青年は、戦場に一人で戻りました。しかし、そこには誰もいませんでした。もし、加藤に勝っていたのならば、すでに舞衣様はこの城に戻っているでしょう。ですが、あの場にいた者なら、誰でも思います。加藤には絶対勝てないと。だからっ、だから、舞衣様はきっとすでにお亡くなりになっていると考えました。
あの時、助けられたかもしれないのに、助けなかった私のことは存分に処罰してください。でも、青年は最後まで舞衣様のために尽力しました。処罰するなら、私だけにしてください。お願いします。」
言葉からは、冷たくあしらっているようにしか感じられないのに、誰も石井のことを批判しないのは、それだけ石井が辛そうに語るからだろう。
「隼翔の国の者が犯した罪は全て私、片岡樹の罪です。石井さんや、今回の作戦を考えた高村さんに対して思うところは、みなさんあるかもしれませんが、処分を受けるのは、私一人にしてもらうことはできませんか。お願いします。」
「樹さん。そんな私のために......」
「石井さんは、もう休んでいなさい。あなたのような素晴らしい人格と優秀な医療技術を持った人がこの国からいなくなっては終わりです。」
樹さんは石井に小声で命令した。ちょうど、新米くんにも同じことをした石井にとっては、樹さんの気持ちが痛いほど分かったのか、会議室から退いた。
そんな一連の流れを見ていた蒼天の王、仙海旬は、
「君たちは本当に良い人すぎるね。僕はそこまでできないよ。たぶん。だから、そんな君たちを見習って、僕にできることをしておこうか。
少なからず、ここにいる全員は前にやった作戦会議で、全員この作戦に賛成していたはずだ。そうだよね。樹君。」
「はい。全会一致で決まっていました。」
「ってことはだよ。今回の作戦に関して、処罰されるのはここにいる全員だ。樹君だけじゃない。そうでしょ。それに、舞衣くんの件も、彼女が自ら出した命令で、彼女は加藤と戦うことを選んだ。誰も悪くない。
全ての元凶は破界の国にいる神谷譲なんだから。つまり、誰かが処罰されるべきじゃないよね。今話し合うべきは、どうやって平和を乱す破界の国を倒すかだよね。」
部屋の空気を一変させ、話の流れを完全に牛耳る。このカリスマ性はさすがとしか言いようがない。
旬さんのおかげで、次へのスタートダッシュがうまく運ぶこととなった。
各城のスパイと九州に行ったシゲ達、それに四国に行った、旬さんの弟の亮さんと、その幼なじみの帝海快希さんら蒼天のメンバー。それぞれに、現状を報告した手紙を送ることになった。
内容を簡単にまとめると、こうだ。
今回の作戦が失敗したこと。舞衣がおそらく死んだということ。それと、次の作戦はよ。この3点。
手紙の返答を待つ間、蒼天の城で、もう一つ決められた。
「以前に決められたものの、進展のなかった対破界の国用の城ですが、今すぐにでも着工しませんか?」
そう言うのは、菊池さん。蒼天で政治家として働いているよ。
「異論がある人は......。いませんね。じゃあ、言い出しっぺの私が、明日にでも手配をしておきましょう。」
「ちなみに、城の名前はどうしますか? この城と区別するためにも、名前あった方がいいですし。」
「城の名前は超重要事項だよね。それによって、運命が決まるとも、昔誰かが言ってたよ。それじゃあ、樹くん。君が城の名前を考えてよ。完成までに」
「え? 私!? まあ、いいですよ。」
旬さんは、城の名前がさも重要かのような雰囲気を出し、その責任を全て樹さんに任せることで、樹さんに挽回のチャンスを与えた。
みんなも、それに気づいたようだ。
次の日から、着々と城建設への準備が始まり、設計図や材質など。それに、どこに置くかも。決めることはたくさんある。
皆が城の作業に精を出している頃。九州では......。
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