第34話 死んでもなお 舞衣編(1)
最後まで私は、なめられていた。それに加藤は、私が隼翔に帰ることを簡単そうに言うが、もうダメそうだ。今の私には動く力もない。
そのまま私は、人里離れたこの土地で倒れたまま、重いまぶたが闇へと誘った。
_____
「大丈夫?舞衣。」
その優しい声で、私は目覚めた。あんな攻撃を食らったから、もうダメかと思ったが、助かったのか。よかった。目の前にいる私の母の顔を見て、そう思った。
というか、お母さんって治療とかできたっけ?と思って、腹部を見たら、包帯でとにかくぐるぐる巻きにしました。っていう状態だった。
「お母さん、てきとうに巻いたよね?」
「え、いや―。あ、うん。」
「こんなてきとうじゃ、だめだよ。気持ちは嬉しいけどさ。」
そう言って、包帯を取ると、私は一切怪我をしていなかった。
あれ、なんかすごい怪我してるはずだったのにな。まあ、いいか。
「それでさ、舞衣。私と一緒にお祭り行かない?」
「え!?お祭り?」
「えー。もしかして、忘れてたの?舞衣も楽しみにしてたじゃん。」
「そうだっけ?まあ、いいけどいつ?」
「今日だよ。もー。そういう忘れっぽいところは、あの人そっくりね。」
そういうお母さんはなんだかとっても嬉しそう。それに、今私が17歳だから、母は40歳だと思うけど、あんまり年が変わらないような気がする。これが美魔女っていうやつか。
もっとやらなきゃいけないことがあったような気がしたけど、お母さんとお祭りに行けるのは、すごい楽しみだから、これを楽しんでからでも遅くないよね。
というかお祭りか。この世界でのお祭りってどんなものなんだろう。私のイメージでは、屋台があって、それに盆踊りとかして、あと打ち上げ花火とかやるイメージだけど。
「舞衣。着替えるよ。」
「着替えるって何に?このままの格好じゃないの?」
「何言ってるの?お祭りなんだから、浴衣を着るに決まってるでしょ。」
そういえば、浴衣も夏の風物詩か。着たことなかったから、忘れてた。
着替え中
「じゃん!!どう?お母さん。」
「え!?可愛い(*^^*)さすが、我が娘。だが、私も負けてないぞ。」
「え!?本当にこれが40歳なのか!」
そうやって見せる母の姿は、心の声が漏れてしまうくらいに美しかった。
「40歳とか言うな。(*^-^)ノ私は永遠の17歳なのだ。」
「17歳じゃ、私と同い年になっちゃうじゃん。」
「え!?舞衣ってもう17?」
「そうだけど。」
「まだ13歳くらいかと思った。」
「それは、どういう意味かな(。・`з・)ノ」
「ま、がんばれ。」
「がんばれってひどいなぁ。」
ようやく準備も整った。
なぜか分からないけど、お母さんと手をつないでお祭りの会場まで向かった。
その手は冷え性なのか冷たいが、母の愛情という温もりが感じられる。
お祭りまでの道中で、はっと気がついた。
「お母さん。私、刀持ってくるの忘れちゃった。」
こんなことを言ってから、我に返ると、自分って刀依存症なんだな。ちょっと恐ろしい。
「別に今日くらいは持ってなくて、いいんじゃない? それに、舞衣は空手の達人でしょ。」
「あぁ、そっか。」
無駄に納得させられた。私には刀が無くても、武術がある。
その後も、母と他愛のない話をして歩んでいた。母と話すことはもちろん楽しいが、それ以上に心踊るような、音楽が聞こえてきた。
「お母さん。ついたね!!」
「なーに。そんなに、はしゃいじゃって。」
二人で笑い合いながら、ゲートをくぐっていった。
そこには、多種多様な屋台があり、昔懐かしの盆踊りもやっている。
どうしようかな。どこに行こうかな。
「舞衣。あれやりたい。」
母が指を指した方向にあったのは、金魚すくいだった。
「お母さん、子供っぽ。」
「だから、言ってるでしょ。私は永遠の......」
「あー。そういうのは、いいから、行こう。」
というか、母のあの反応は17歳というより、5歳児の方が似合ってるよ。
「へいらっしゃい。あれ、お二人さんは、明正さんのところの。」
「そうです。京子と」
「舞衣です。」
「そんなら、お金はいらねぇ。」
「え! いいんですか?」
そう言う母の表情は、心に裏表がないかのように、本当に喜んでいる。
「それじゃあ、舞衣。勝負するよ。どっちが多く取れたかで。」
「望むところだ。」
試合開始
「うわー」
もう取れたのか? はやっ! って思って母の方を見たら、もうポイの紙が破れていた。
「へたくそ。」
母を少しからかっただけだったのに、母はちょっぴり泣いていた。
「え? 大丈夫? ごめんね。下手だなんて思ってないから。」
「え、本当! 私、下手じゃないのね。よかった。」
なんなんだ。この人は。自分の記憶だと、もっと大人の女性の魅力を感じるような感じだったはずなのに、今、目の前にいる母は、喜怒哀楽の激しい、まさに子供だ。
しかも、もう金魚すくいに飽きたようで、次は食べ物コーナーに行こうと言っている。
今日は、連れ回されて、心身ともに疲弊しそう。でも、なんか彼女と遊んでいるような感覚だな。そう思いながら、ふと頭に誰かの顔がよぎった気がしたが、思い過ごしか。
1時間後。
だんだんと夜の影も濃くなってきた。それに反して、お祭りはどんどん賑やかになっている。
「みんな、盛り上がってるかー!」
なんだ? 急に。しかも、周りもそれに反応して歓声を上げている。
「これより、毎年恒例のイベント。喧嘩大会を開催する。」
なにそれ? 喧嘩大会? お祭りでそんなの聞いたことないよ。
「舞衣。参加したそうな顔してるじゃん。」
「してないよ!」
「え? 顔に書いてあるよ。参加したいって。鏡を見てごらん。」
そう言われて渡された鏡で自分の顔を見ると、しっかりと文字で「参加したい」って書かれている。そんな表情をしているのではなく、文字が現れているのだ。
「ほらね。書いてあるでしょ。」
え? なんでだ。母に、そんなことを顔に書かれるようなタイミングは、なかった。ってことは、本当は、私は喧嘩大会に参加したくて、顔に文字が現れたってこと?
そう信じかけたが、念の為、もう一度、鏡を見た。その時、ようやくトリックが分かった。鏡に映る文字は、反転していない。つまり、鏡に
でも、なんでそこまでして、参加させたかったんだ?問い詰めるとすぐに答えが出た。
「だって、この大会に優勝すると、すごいものが手に入るって、あの人(明正)に言われたんだもん。」
絶対、嘘じゃん。
おそらく、父は母に聞かれたんだろう。「優勝したら、何もらえるの?」って。それで、何がもらえるのか知らなかった父はてきとうに言ったんだろう。きっと、そんなところだ。
「まあ、いいよ。参加するよ。ただ、私が参加してる間は、身の安全には気をつけてよね。お母さんは、そそっかしいから。
それとさ、喧嘩大会に出すならさ、もっと動きやすい格好にしてよー。」
「それは、どうしても舞衣の浴衣姿を見たかったからね。もちろん、着替え持ってきてるよ。」
さっきまで、なんも持ってなかったのに、いつの間に。しかも、いつも戦いの時に使ってる服だし。準備いいな。まあ、細かいことはいいや。とにかく急がないと始まっちゃいそうだし。
着替え中
「エントリーする人ー。もう締め切りますよー。」
やばい。締め切りとか言ってる。周りは人だかりだ。それに、大会の受付までは大声で、届くかどうかの距離。とにかく、手を空に向かって高く上げ、大きい声で
「はーい。はい。エントリーしまーす。」
すると、モーセが海を割ったように、受付までの道にいる人が一斉にどいた。受付の人も私に気づいたようである。
「あなたは、舞衣様ですね。承知いたしました。控え室でお待ち下さい。」
大会のスタッフらしき人に案内されていった先には、私の他に7人もの屈強な男達がいた。すごく静かだ。まるで、嵐の前の静けさのよう。今にでも乱闘が始まってしまいそうだ。
そんな雰囲気に、私はすこし萎縮してしまった。怖いわ。この人達。と思っていたのだが、入ってきたのが「浅霧舞衣」だということに気づいた7人は同時に喋りだした。
「おぉー。舞衣様。」
「あなたが噂の。」
「意外と小さい。」
「いつも父上にはお世話になっております。」
「こんにちは。いや、こんばんわ。か。」
「なんで、こんなところに!」
「え! 舞衣様。」
さっきまでの雰囲気はなんだったんだ。意外に明るくて、ホッとした。
いや、待って。今、一つ聞き捨てならないのがあったぞ。
今日はそういうのは、よそう。私も大人になったのだ。
_____
「これより、喧嘩大会を始めます。って、あれ? もう、喧嘩始まっちゃってる?」
私は、我慢したのに。あいつが何度も、何度も、私のことをチビ呼ばわりするから、気づいた時には、喧嘩になってしまった。といっても、周りの参加者に止められて、直接は戦ってないけど。
あー、もうイライラしてきた。なんでっ、私が何回も、何回も、侮辱されなきゃいけないの! 絶対にこの大会で、あいつをぶっ飛ばす。そして、私がチビじゃないって認めさせてやる。
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