第30話 車懸りの陣

 まずは、もう1つの手紙を見た。


 そこには、これから行う作戦について書かれていた。


「舞衣様達には、1週間後にこれから説明する作戦を行ってもらいます。

 作戦名は、囮を使って敵を欺こう作戦です。

 まず、少数精鋭を率いて、北尊の城を攻めます。だいたい5千人程度でいいでしょう。そして、攻めるとはいっても、あくまで囮です。つまり、北尊の城にちょっかいを出して、敵が援軍を呼んだら、とにかく逃げます。

 敵が援軍を呼ぶとしたら、東唯の城からです。ですから、援軍が城から飛び出して行ったら、今度は別の大部隊が東唯の城を攻めます。だいたい5万人以上を率いていけば余裕でしょう。

 この作戦の目的は、東唯の城の人数を減らして、その間に大勢で東唯を攻め落とすことにあります。」


 そして、一番気になっていたことが、手紙の最後に書かれていた。


「東唯の城を攻める人達用に、戦で困った際に役立つことが、書かれた紙が入った袋を用意しました。困ったら、青、緑、黄の順番で、一つだけ開けてください。ただし、困った時以外には絶対に開けないように。」


 めちゃくちゃ気になるな。

 私は、光にかざして袋の中身を探ろうとしたが、全然透けない。仕方ないから、1週間後まで待つことにした。


 _____



 1週間後


 北尊の城を攻めるのは、景泰や藤井の隊長格、それにブルースターズなど、隼翔のメンバーを中心にして、約5千人の少数精鋭で挑むことになった。

 そして、この作戦の要である、東唯の城を攻めるのは、私をリーダーとして、平和同盟のメンバー約3万人と、蒼天の国から約2万人。計5万人だ。



 私達は今、東唯の城から10km 離れた所で陣取っている。

 ゲリラ部隊を努めて、隠密行動に長けたが長谷川からの、敵が援軍を出したという報告を待っている。



 東唯の城に攻める、この軍勢は色々な国から集まってできたものだから、団結して戦うことには期待できないが、一人ひとりは強いはずだ。

 それと、隼翔からは、新勢力として農民から兵士になった新米くん達も50人いる。村一番の力持ち、といった人達が参入してくれた。ただ、初めての戦に少し緊張しているようだ。


 私は、長谷川を待つ間、その緊張を取り除くためにも、新米くん達を集めて、山手線ゲームをした。罰ゲームは「恥ずかしかったエピソード」でスタートした。

 が、始めてすぐに気付かされた。私は前世との記憶がごっちゃになって、答えたものが、今は存在しないとか、名前が違うとかで、毎回罰ゲーム担当になってしまった。

 でも、私が恥ずかしい思いをする代わりに、みんなの緊張はほぐれていたようだ。それなら、良かった。



 そんなことをしているうちに、長谷川がやって来た。


「敵は2万人程、北尊の援軍に向かいました。すぐに、東唯の城に向かいましょう。」


 いざ出陣。

 5万人が一斉に駆け出す。


_____


 さっきまでいた場所から5km程進んだ時に、新たな情報が隠密行動の者から寄せられた。

「敵もこちらに気づき、城の中から、約2万5千人がこちらに向かってきています。」


「そうか。報告ありがとう。」


 この先は、東唯の城まで木々も一切なく、いわば広いグラウンドのように広がっている。だから、私達からも敵がやって来ているのが、うっすら見える。それを確信させるように来た、報告。


「みんな、フォーメーションA!」


 私は皆に事前に説明していた陣形を取るように命令した。フォーメーションAは、上杉謙信などが用いたとされる、車懸りの陣と呼ばれるものだ。


 円形になった軍隊が、車の車輪のように、回転しながら敵に当たる。そうすることで、ある部隊Aが敵と戦いながら、円の流れに沿って、敵から引くと、今度は新手の部隊Bがやってきて、敵と当たる。

 これを順々に繰り返していくことで、敵は常に応戦しないといけないが、自軍は引いたあとに休むことができる。

 これには、ずっと走っていなきゃいけないという問題点がある。しかし、自軍の後方まで下がった時に、交代することで、より休憩時間を増やすことができる。これは、人数が多い同盟だからこそできる芸当だ。


 ちなみに、私が考えたはずもなく、戦略が思いつかずに困っていた私をシゲの袋が助けてくれた。


_____



 まあ、やってみないと分からないから、とりあえずやってみよう。


 敵が今度こそ、はっきりと見える。


 もう100mくらいの距離だろう。早い人なら10秒ほどで、ここまでたどり着ける距離だ。



 私達の運命の歯車は、ついに回り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る