第31話 sparkle

 試合開始

 破界の国2万5千 VS 隼翔連合5万


 前方のメンバーは敵と激突していた。だがあくまで、負けない戦いが私達にとってはベストである。それは、死ななければ、また後で疲れた状態の敵を倒せるからだ。だから、みんな余裕のある時だけ攻撃を仕掛けることで、効果的に敵を消耗させる。


 そして、ついに私の番が来た。


 刀が変わってから、初めての実戦だけど、結局やることは同じだ。

 敵が正面から二人、私の方へ走って向かってきた。構え方から、明らかに素人ではない。どんだけ努力を重ねてきたのかも、その顔の真剣さから分かる。


 その敵の一方は、私の首を狙い、一方は足を狙う。確実にダメージを与えるつもりだ。少なくとも、首にきた攻撃を避けないと死ぬし、足の攻撃を受けても、その後殺されるだろう。だがしかし、「剣聖」である父と戦った私にとっては、敵じゃなかった。


 私は空中に設置されたフラフープをくぐるように、敵へ向かってジャンプした。1ミリでもずれたら、自分の体から何かを失う危険があったから、すごい集中力で敵の斬撃の間をすり抜け、攻撃を回避した。

 さらに、相手が私のくぐり抜けに驚いて、ワンテンポ遅れた瞬間を私は見逃さなかった。空中で両手にそれぞれ持った刀と鞘で敵の首に峰打ち。


 はぁ。危なかった。さすがに自分の力を過信しすぎたか。まあでも、こうやって決まるとすごい達成感だ。

 まだまだ敵は多い。ただ、私の神業を見て、相手は少なからず圧倒されたことだろう。そして、敵は心に劣等感を抱くだろう。


「あの女が敵の大将、浅霧舞衣だー!」


 あれれ。違った。むしろ、火をつけてしまったようだ。

 まあでも、そろそろ休憩時間なんで。逃げまーす。バイバーイ。少し煽り気味に、自軍の後方に逃げ帰った。



 休憩スペースまで行くと、喧騒な戦場とは裏腹に、意外と静かだった。それもそのはず。怪我をした人や重傷を負った人、また、これから戦場に向かう人。様々だ。


 陰鬱な雰囲気に満ちたこの空間で、私は少々異端だったのかもしれない。


 何をするのが正解なのか分からない。でも、何もしないよりかは。そう思って、いつもしてきたように声をかけていくことが、私の出した回答だ。 


 夜の闇を月が煌々と照らしている。


 _____



 再び、私の番がやってきた。でももう、この作戦の成果が着実に出始めている。

 活気に満ち溢れていた敵の部隊は、今ではもう、お疲れのようだ。


 さっき勝ち逃げした私が、また戦場に現れたことに気がついた敵も、さっきのように私が来たことを、仲間に知らせはしなかった。

 動きにも、ハリがなくなっている。まさに、素人を相手にしている感覚だろうか。または、相手だけが、0.75倍速の世界にいるかのようだ。


 さっきは2人がかりだと、厳しい戦いを強いられることになったが、今は5人くらい一気に相手にできる。


 そんな状況だから、直に決着がついた。


 死傷者、及び投降者数は破界の国、2万5千人。それに対して、隼翔連合は1万人。

 互いに多くの命を失ったが、その者達の想いまでは失ってはいけない。


 そしてまだ敵には城に残った5千人がいる。こちらは、4万人。疲れこそあれど、必勝と言えるだけの戦力差だ。


 すぐに、城の攻防戦に移った。休憩も挟まずに移行したのは、何より怖いのが、北尊にいる敵が応援に駆けつけることだからだ。


 普通、城に立て籠もった敵を倒すのには、かなりの時間と労力を有する。例えば、天草一揆なんかは、4ヶ月に渡ったくらいだ。


 それじゃあ、敵が応援に来ちゃうじゃないか。そう思うだろ。でも、私達には、破界の国に潜入したスパイがいる。つまり、スパイの子が東唯の城の門を開けてくれるわけだ。


 そんなことをみんなに話しながら、東唯の城を目指していた。


 私は別に疲れているわけでもないし、何か病気を抱えているわけでもない。しかし、東唯の城に近づくにつれ、強いめまいがした。

 その症状が出始めた時こそ、耐えることができたが、東唯の城がはっきりと見えるようになってからは、立っていられない程に、容態は深刻になっていた。


 それに気づいたのは、近くにいた新米くんだった。


「舞衣様。大丈夫ですか? 調子でも悪いのですか?」


「いや、大丈夫だ。行こう。」


 そうは言ったものの、歩き出すと、すぐに倒れた。

 新米くんが養護に来ていた石井を呼んできてくれた。石井は俊敏な判断で、


「舞衣様の面倒は私と、まだ戦い馴れていない新米くんが看ますので、皆さんは東唯の城まで行ってください。」


 いとも容易く、軍を取り仕切った。




 石井が私の体を細かくチェックした。医者が診察するように。すると、


「舞衣様。外傷はありませんから、これは心の問題です。きっと、田中さんが殺された、あの光景を思い出してしまったんじゃないですか?」


「ああ。そうだ。石井はなんでもお見通しだな。」


「それなら、まずは深呼吸をしましょう。リラックスすることが大事です。」


 深呼吸か。ラジオ体操でやったぶりくらいかもな。あれ!? こんなに空気って美味しかったっけ。そう考えていると、休む間もなく、石井が次の指示を出す。


「深呼吸をしたら、次はこの薬を飲んでください。」


 渡された薬は、現代のような錠剤ではなく、草をすり潰したような、緑のドロドロとしたモノだった。なんというか、スライムというよりは、ヘドロのようだ。

 自然と、苦い味を想像させられて、顔をしかめ、舌を口の奥の方に追いやっていた。


 私を助けようと必死な石井の顔が、今では悪魔のようにも感じられる。

 まあでも、世界が回って見えるほど辛い、このめまいが治るなら。パクっ。と口の中へと誘った。


「あれ、甘い。」


「別に私は、薬が苦いなんて一言も言ってませんよ。」


「まあ、確かに。というか治ってきたような気がする。」


「それなら、良かったです。」


「なんだか、さっきまでは城の方がうるさかったのですが、だんだん止んできたようですよ。もしかしたら、もう戦いが終わったんじゃないですか?」


 新米くんが声を高らかに告げる。


「そうだな。もう、私も元気になったし、城まで向かうか。」




 城の門まで向かうと、なにやら門に人影が見える。少し警戒しつつも、おそらく味方だろうと予想がつく。だって、圧倒的戦力だったからね。


 友達との待ち合わせに遅れて来た時のように、少し小走りで手を振りながら、その人影へと向かう。


 その人影は私達に反応してか、ついに姿を表した。


 ん? 誰だ? 見覚えのない大男だ。こんなゴツいやつなら、誰であっても覚えているはずだ。

 それに妙だ。やつの服は血まみれなのに、やつ自身は元気そうにこちらに向かってくる。ってことは返り血か? 城に向かったみんなは? とにかく、味方かもしれないし、名前を聞くことにした。


「誰だ? お前?」


 そう聞いても大男は答えずに近づいて来る。


「止まれ! 止まりなさい。」


 それでも、歩き続けている。その一歩一歩から地震でも起きてしまいそうだ。その威圧的な大男がようやく足を止め、口を開いた。


「何事かと思って起きたら、虫ケラ共が騒ぎ立てて。俺の睡眠を邪魔しやがって。まあいい。そういや、名前聞いてたっけ? 俺の名は加藤重秀。聞いたことくらいあんだろ。」


「か、加藤重秀だって!? あの灼炎の将軍の!?」


 門から出てきたのは、あの「剣神」の称号を持つ加藤重秀だった。

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