第24話 作戦会議

 みんなが戦っている頃、8ヵ国同盟の者らがいる城では、沼田によって7ヵ国の王やその護衛が殺されていた。しかも、時間差で効く毒を料理に混ぜていたため、周りの護衛も誰も気付かず同じものを食べて殺された。


 殺された者達はその国々での重要な人物ばかりで、その国にその者がいなくなると国が回らなくなるようなそんな人物ばかりだ。つまり、この舞衣の処刑という機会を使って、沼田は巧みに灼炎を騙し8ヵ国同盟を組み、そしてその7ヵ国を実質的に滅ぼした。


 さらに、沼田は外国を使うことで、寅牙の国よりも兵の数が多く、一番邪魔な灼炎の軍隊を蹴散らした。10万人いた灼炎の軍隊も外国にコテンパンにやられて、3万人ほどに減った。その残った3万人はなんとか外国から逃げたが、それぞれがバラバラにとにかく必死に逃げたため、お互いに所在が分からず、灼炎としてまとまることができなくなった。



 そして今、灼炎の軍隊を倒した外国が沼田らのいる城に入っていった。翻訳をする人がいるので、話は通じるようだ。


「いやー久しぶりだね。沼田君。どうやら君の作戦がうまくいって、この国を乗っ取れそうかな?」


「そうですね。あなた達がいれば百人力です。俺はこの日本の王になれます。」


「なんか勘違いしてるようだけど、君はもう用済みだ。」


「俺が用済みだと?ふざけるな!!」


 沼田がそう言ったのを翻訳した瞬間、外国の一人が沼田の顔面を殴って、


「ボスがしゃべり終わるまで、静かにしてろ。猿が。」


「まあまあ、落ち着いて。それで、私がこの日本に来たのは他でもない、黄金のためだ。言い伝えでは、日本は大量の黄金が取れる。

 でも、日本に来て勝手に探索でもしたら、日本人が怒って襲いかかってくるだろう。だから、先に侵略して我が国とすればいいことに気づいたわけだ。

 けど、そのためには軍隊が必要だ。だけど、私の国の王は日本という国がどこかのおとぎ話とかだと思っていて、存在を信じない。

 そこで、言い伝え通りの日本人を連れてくれば軍隊の派遣を許可してくれる約束をした。だから、私は一度日本に来て、お前達に協力するという偽りの約束をして、その代わりに私の国に日本人を同行させることを認めてもらった。

 そのおかげで、軍隊を派遣できたんだ。お前には感謝してるよ。捨て駒としてな。それにしても、簡単すぎるよ。言い伝え通り日本は軟弱だし、簡単に騙されるし、私のために黄金を守る狛犬なのか。こんな雑魚達じゃ、奴隷にしてもなんも役だたねぇじゃねぇか。もう、皆殺しでもいいか。」


「何を勝手なことを言っている!ふざけるなよ。お前らは神に誓っただろう。神に背くというのか。」


「君はやっぱり勘違いしているよ。私の国では神を信仰するジャーマル教は異端とされていてね。神に誓うと言ったのも、君たちを欺くためのただの戯れ言にすぎないよ。」


「この俺がお前らなんかに騙されていたのか。そんなことをしてただで済むと思うなよ。きっと朝霧舞衣というやつがお前らを倒すからな。」


「もう、いい。殺れ。」



 俺はなんで、こんなことを言ったんだろう。殺される直前に頭に思い浮かんだのは、浅霧の存在だった。


*****


 昔から朝霧家の治める波流の国は小さくて、将来、寅牙の国の王になる俺からしたら、なんでもなかった。


 俺が王になった時、波流の国では浅霧明正が王になった。それでも、俺は全然気にしていなかった。


 でも、そいつはいつでも話題になるくらいに、強くて、しかも農民が大事とか言ってるような頭のおかしいやつだ。だんだん俺は浅霧が気にくわなくなった。


 俺はあんな小国の波流よりも強くて大きい寅牙の国の王なんだ。そう思って灼炎を裏から操り、波流を潰した。


 でも、浅霧はまだ続いていた。舞衣とかいうやつだ。こいつも、親のように農民が大事とか言ってるし、しかも女なのに国王をやっている。気にくわん。


 俺はまた灼炎を使ってこいつらを消した。そして、今俺は外国に消される。


 そんな時にこいつらのことが頭によぎったのは、きっとこいつら浅霧が俺にとっての憧れだったのかもしれない。


 浅霧のようにうまくいかない俺はそれを潰すことでしか自分の価値を推し測れなくなった、ただの獣だったのかもしれない。


 きっと、浅霧舞衣がこの外国を潰してまた俺の希望となるだろう。


 ああ、だめだ。俺がその希望を潰してしまったから。


*****


 外国のこの男、ワージインは部下に命令して沼田を殺した。さらに、さっきはそこまで軍隊の数が多くなかったが、実は着々と船が日本にたどり着き、1000人で灼炎を蹴散らした外国人が1万人もやってきたのだ。




 その頃、隼翔の国。


 私達が隼翔に到着して、それを見た民衆が喜び、泣く者まで現れるほどだった。


 その姿を見てまだ外国はこの国までは来ていないということが分かって安心した。


 そして、隼翔の兵士全員を集めて、私はみんなに謝った。心配をかけたこと。勝手に決めて出ていってしまったこと。それによって、たくさんの者が亡くなってしまったこと。


 みんなは、自分で決めて助けに行ったんだから、死んだ者には、むしろ感謝の言葉をあげてほしいと言っていた。それに、いずれ灼炎とは戦うことになっていたから、遅かれ早かれだとも言っていた。


 みんな優しすぎる。

 未熟な私は、なんと言ったらいいのか分からなかったが、ありがとう。その5文字が今の私にできる最大限の言葉だ。



 そして、何より気になっていた、今までの経緯を聞くことにした。私がいなくなってからの3日の間に隼翔では何があったのか。

_________


 さかのぼること17日前、灼炎から逃げている慶護は途中で道に迷い、隼翔へ行く道と北の方へ行く道の分かれ道で、北の方の道を間違えて選んでしまった。


 そして、結構行ったところで馬がもう疲れたらしく、速度が落ちていたので、仕方ないので、近くにあった村に泊めてもらうことにした。もう、その時点で灼炎をまいていたのである。


 その次の日は泊めてもらったお礼に農作業の手伝いをしていると、結巾の軍勢が村を襲った。その時に慶護は結巾の軍勢から村を守り、その後、捕らえた結巾のやつら5人に慶護だということがばれたが、むしろ慕っていたらしく説得してそいつらにも農作業を手伝わせた。


 その後、その6人で村を離れ、隼翔に向かっていたが、途中で一人が風邪をひいたので、また違う村で休むことにした。そいつの風邪が治った時には、もう私は連れ去られていた。


 そして、その噂を聞いた慶護は仲間に由比の居場所を聞いて、由比のもとへ向かった。由比がいる場所はたまたま慶護達がいた村に近かった。


 そして、由比のいるという山へ行くと、大量に人がいた。ちょうど、その日は由比の誕生日だったのだ。それで、全国各地に点在している結巾の者が由比の元に集まっていた。


 そして、慶護は由比と会って、私(舞衣)を助けるのを手伝ってほしいことを由比に説明すると、なぜか「腕相撲」と「あっち向いてホイ」と「たたいてかぶってジャンケンポン」の三番勝負が行われた。今まではこの三番勝負で由比に勝ったことがなかった慶護だが、隼翔で鍛え上げたからなのか、全勝した。


 慶護が改めてお願いすると、由比は快く引き受けてくれた。元々由比も慶護と同じで面白そうなことは好きなので、協力してくれたのだろう。そして、灼炎を倒し、その後に灼炎の物資でもなんでも持っていっていい。という条件で約束を結んだ。


 実際は、完全に灼炎を倒すことはできなかったから、その約束は実現できなかったが、きっと由比も話をされた時から分かっていたのだろう。


 だが、慶護が思うに、由比は私の農民への姿勢を聞いて、きっと初心に返ったのであろう。その証拠に隼翔の国に由比達が新たな仲間として加わることがさっき決まった。


 なんやかんやで、私が慶護のことをずっと心配していたのはバカだった。今思えば慶護が死ぬわけないじゃん。と素直に思ったが、


「舞衣。俺のことずっと心配してたんだって?いつもの俺への言動はツンデレかなぁ?」


「慶護のことなんて、1mmも心配してないわい。」


「でも、さっき景泰に聞いたらことあるごとに『慶護がいない。』って言ってたって。」


「おい。景泰。慶護には言うなって言っただろ。」


「やっぱ、本当なんだ。(笑)」


「あれ、でも心配してたのは、慶護もじゃない?わざわざ由比に会いにいってまで、私を助けに来たなんて、必死ですねぇ。」


「ヌヌヌ。たまたま通りかかっただけだよ。」


「嘘が下手すぎるぞ。」


 その後もバカみたいな会話をしていた。やっぱり、みんなと笑い会えることって本当に幸せなことだと実感した。



 その後は、隼翔の国での私がいなくなってからの経緯も聞いた。


 まず、3日前緊急で会議を開いた。まず、議題は私を助けるか否かではなく、どうやって助けるのかということから始まった。


 まず、なんとしても同盟国で7大国の蒼天には協力してもらわないと、さすがに歯が立たないということで、急いで蒼天にそのことを伝えに行かせ、その間、シゲを中心として作戦会議が行われた。


 勝負に勝って試合に負けるというような作戦をすることになった。具体的には実際の通りに、ほとんどの者がおとりとなって、灼炎と戦い、とにかくばれないようにシゲが裏から周り、私を助けるというものだった。


 実際の時は、慶護達の結巾の軍勢がいたことにより、それがかなったともいえるくらいぎりぎりだったが、まあ結果オーライでしょってことになった。



 私の処刑の間の経緯の話が終わった時、ちょうど情報網の方からの伝言が来て、


「沼田の謀略とそれを裏切った外国のグランギウス王国という国によって、8カ国同盟の重要人物は皆殺されました。」


 そんな伝言のおかげで私は目が覚めた。実際今は思い出話などは重要じゃなかった。何よりも、グランギウス王国である。

 あの圧倒的強さだ。何か策があるとしたら、他の国と同盟組んで海外を倒そうと呼び掛け、力押しするくらいだと私は思った。なんでも、グランギウスのやつらは目のところ以外は全部防御できているからである。しかも、目の部分も刀での攻撃は無理に等しく、矢で射るとしたら、奇跡に近い。


 そんな時にシゲが何か思いついたようで、


「舞衣様。今から灼炎と8カ国同盟を結んでいた国々に向かいませんか?」


「何か案でもあるのか?」


「はい。それはとても簡単なことです。」


 そういってシゲはみんなに外国を倒す方法を打ち明けた。最初は私が思いついた作戦と同じだったので、冴えてる!と思ってドヤ顔をしていたが、聞いているうちに、どうやらシゲの作戦は私の一歩上を行っていたようだった。


「それと、舞衣様に重要な役割を任してもいいですか?」


「ああ、いいけど。どんな役割なんだ?」


「それはですね。この前、灼炎が隼翔まで来た時に景泰の刀を切ったじゃないですか。あれをやってほしいのです。」


「んー。まあ、いいけど、期待しないでよ。私もあの時初めてできたし、またできるか分からないからね。」


 とにかくその作戦はたくさんの人の力が必要なので、その作戦を実行するためにもまずは8カ国同盟の国々に使節を派遣することにした。


 シゲが言うことには、8カ国同盟の方にもきっとさっきの伝達が行っている。そして、国王をはじめとした重要人物が暗殺された国は、国力を半分くらい失ったといってもいい。なぜなら、リーダーというのはそれだけ大事な存在だからだ。


 そのため外国という未曾有の危機に直面した時に自分の国だけでは対処しきれない。そんな時に他国から協力の要請があれば、絶対に協力してくれるだろうとのことであった。


 話が終わって、さっそく使節を派遣し外国との戦いに備えた。また、その間に残った私たちは灼炎の残党兵を探していた。もし、この外国との戦いに灼炎の残党兵が加わってくれるなら、とても心強いからだ。


***


 数日が過ぎて、まずは8カ国同盟の灼炎を除いた国に派遣した使節がぞくぞくと帰ってきた。単純に蒼天と同盟を結んでいる隼翔に従うしかないからなのかは分からないが、どこの国も協力してくれるとのことだった。


 私の気がかりだった沼田の率いていた寅牙の国も、そこに派遣した子に話を聞く限りでは、殺された王の沼田知之だけが野望が強くて、仕方なくそれについていっていた者がほとんどで、沼田が亡くなったということを聞いた今ではむしろ、戦争に駆り立てられなくて喜んでいる者もいる程だった。


 そして、同時進行をしていた灼炎の方だが、見つけた時に戦いになりかける者やしっかりと話し合いに応じて協力してくれる者、もはや隼翔の国に降伏するといって新たに仲間になる者などがいた。そして、このグランギウスとの戦いに協力してくれる総数は25万人に上った。



 あとは、私の準備だけだ。


 でも、何度やっても鉄を切ることができなかった。もうシゲにできないって言った方がいいかと諦めかけた時に、景泰が来た。


「景泰。この前は、刀ごめんな。使えなくしちゃって。」


「それなら、全然気にしてませんよ。むしろ、舞衣様がここまで成長していたことに感動すら覚えました。まあ、あの時は舞衣様を止められなかった絶望の方が大きかったですけど。

 きっと、あの時私が舞衣様と同じ刀を使って勝負をしてもきっと負けていたと思います。そのくらい、あの時の舞衣様の覚悟は凄まじかったです。それで、最近は夜遅くまで修行されてますけど、もしかしてこないだ高村に言われていた鉄の鎧を切ることですか?」


「うん。景泰の刀を切った以来、鉄は切れてないんだ。あの時たまたまできただけで、本当は私にはそんな力はないんじゃないかと思ってるんだけど。」


「うーん。それなら、先人の言い伝えでこんな話があります。

 ある5人組が旅をしていたところ、途中の草むらに石があったのですが、その中の一人が猛獣と勘違いして、仲間を守るため、とっさに矢で射たところ、石に矢じりが見えなくなるくらいにめりこんでいました。それを射た本人がそれを見て、もう一度石に射てみましたが、矢がめりこむことはありませんでした。ちなみに、これが明正さんの叔父さんの和正さんの伝説です。」


「えぇぇー!そうなの!?あの優しい顔の裏にはこんな伝説が。(私なんて木ですら、矢が刺さるかどうかなのに。)」


「そうですよ。和正さんも波流の国を支えた一人ですからね。それで、このように、何事も本気でやればできると言われています。もしかしたら、舞衣様の場合は和正さんと同じで仲間のことを守るために刀を握れば鉄を切れるんじゃないですか。実際、あの時は私の刀を切れたわけですし。」


「ありがとう。なんか、あの時の感覚を思い出した気がするよ。」


 建前なんかではなく、本当になんかを掴んだような気がした。




 そして、すべての準備が整い、まずは1万人もいるグランギウス王国をある場所におびき寄せることにした。


 最初は無謀にも思えたこのグランギウスとの戦いもこうして多くの仲間がいればなんとかなると自然と思えるほどに心強い。私自身もみんなを守ってグランギウスとの戦いに勝つぞと意気込んでいる。

 そして、この前まで殺し合いをしていた8カ国すらも、私達に協力して戦ってくれるということがなんか漫画の最後らへんの展開のようで、私は胸が熱くなった。



 この日本に来たことを後悔させてやるぞ。

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