第23話 処刑

 処刑当日


 何をみんなのためにしようと考えても最終的にはみんなを苦しめる結果になることに変わりないと気付いた時、私はもう考えることを諦めた。どうしても乗り越えれない壁がここにはあるのだと悟った。


 振り返れば約17年。短いようで、長かった。みんなとの生活もこんな悲しい終わり方ではあったけど、それも一つの物語としてみれば、こんな終わり方だって無数にあるんじゃないかなとも思えて、自分が悲劇のヒロインだなんて思いもしなかった。というか、元々男だから、ヒロインなのか?とも思うが、それは置いといていいか。


 けどせっかくこんな姿に生まれたなら、もっと大恋愛みたいなのも経験してみたかった。それが叶わぬのが戦国時代だということなのか。やっぱ、平和が一番だな。


 そういえばそろそろ、父や母にも会えるし、よくよく考えれば前世の時の父母には天国に行く間もなく転生してしまったから、ゆっくり話したいな。でも、あれから2000万年くらい経ってるからもう忘れてるか。


 ああ、そんなことを考えていたら、もうすぐ処刑台に連れて行かれる時間だな。灼炎の人にとってはあくまで私は罪人だから、どんな目で見られても仕方ないな。どんな罵声を浴びさせられても、それも全部分かっててここに来たんだから。


 でも、全然分かってなかったな。3日しか経ってないのに、どうしてこんなにみんなに会えないのが寂しいんだろう。3日前の私はそれくらい耐えられると思っていたのに。


「そろそろ、処刑台に行きますよ。」


「...」


 気づいたら、返答できないくらいに泣いていた。でも、こんな惨めな姿を公然と見せたら、それがみんなのところへ伝わってしまったら、嫌だな。もう泣かない。




 私は手を後ろにした状態で木製の手枷をつけられて、その状態で灼炎の兵士に処刑台まで連れて行かれた。処刑台までの階段の一段、一段が重い。いつも以上に疲れる。


 そしてようやく、たった十数段の階段を私は上りきって、処刑台にたどり着いた。


 処刑台では、私の後ろに処刑の執行人である灼炎の兵士が2人いて、私の正面の処刑台の下でたくさんの公衆が処刑台を見ていた。そして、やはり私には、雨が降り注ぐように、たくさんの罵声を浴びせられた。

 それと、灼炎の兵士もたくさんいた。てっきり、8ヵ国同盟の兵士全員が来ているものだとばかり思っていたが、そんなことはどうでもいいことだったわ。



「5分後に処刑を開始する。」



 そう言われてから、体感的にはもう4分は経っただろうか。それなら、あと処刑までは1分くらいか。はやくこの時間よ過ぎてくれ。耐えれるものも耐えれなくなるのだから。


 その時少し遠い方でざわめきと混乱が起こった。私の処刑を見に来た人々が逃げている。いったい何があったんだ。


「何があった?」


「まさか、反乱か?」


「なんで、今?」


 灼炎の処刑人たちも今のこの状況を分かっていないようだった。


 最初のうちは、まあすぐ収まるでしょ。とか、自分には関係ないことだからと思っていたが、だんだんと近くまでその波動が伝わってきた。もう私の処刑を見ようとしている人は、もはやいなくなった。


「..い.....。」


 混乱が起こっている民衆よりもさらに遠くの混乱の源泉みたいなところからなにか聞こえるような気がするが、よく聞き取れなかった。


「もしかしたら、本当に反乱かもしれないな。」


「それなら、すぐに止めてはやく処刑を開始しないと、殺されるのは俺らの方になるかもしれないな。」


「たしかにな。後で王様にブチギレられてな。」


「それにしてもバカだよな。こんな処刑の日となればそれなりに警戒して、たくさん兵も集まっているし、さらに今回は他国の兵も来ていて、無謀だという今日に反乱を起こすなんてな。」


 確かにここから見るだけでも灼炎の兵士が数万くらいは集まってきているし、無謀にもほどがあるな。


 民衆がいなくなり、ようやく灼炎の兵士とその反乱分子だけになった時にその顔が見えた。


 え?なんで?自然と涙が溢れてきた。もう一生流さないと決めていたのに。なんで、みんな私を助けに来ちゃうんだよ。もう、どんな顔をしてみんなと会えばいいのか分からない。


 でも、私たちの国には兵隊が5000人しかいない。しかも、全員をここに連れてきていたら、国の方を守る者が誰もいなくなって、危険だ。


 それに対して、相手は灼炎の本拠地。いくらでも出てくるといわんばかりに、今ここだけでも数万人いる。勝てっこない。



 戦いが始まった。もはや作戦も何もないかのように、正面からぶつかっていく。たくさんの仲間が死んでゆく。なんで?私一人のために。これじゃあ、私がみんなの言うことを聞かないで、ここに来た意味がないじゃん。


 こんなことなら、もっとみんなに嫌われるようなことをしておけばよかった。あんなやつ放っておこうってなるようなことを。


 また、遠くから音が聞こえてきた。今度はなんだ?もう、隼翔の者は出尽くしたぞ。


「今度は、西側から蒼天の国がやってきました。」


「約5万人ほどです。」


「まあ、俺たちは今は数万しかいないけど、全員くれば15万くらいいるから、大丈夫そうだな。もうすぐ、援軍が到着して、とりあえず10万人くらいにはなるし。」


「そうだな。」


 蒼天の国も来て、今度こそ希望が見えたかと思ったのに、灼炎の強さに改めて驚くばかりだ。全然刃が立たないわけではないが、やっぱり灼炎の方が有利だ。時々私のいる処刑台の近くまで来て、


「舞衣様。」


 と呼ぶ者が現れるが、どうしてもすぐに敵にやられてしまう。もう、私も限界だ。


「もう、みんな帰ってくれよ。頼むから。このままでは絶対に勝てない。みんながやられてしまう。諦めることも時には大事だ。だから、」


「これは、諦められないことだから、みんな命をはってまでここに来たんです。舞衣様は気付いていないかもしれませんが、みんな舞衣様のことが好きなんです。だから来たんです。」


「そんなこと、聞かなくても分かってるよ!みんなのことを疑ったことなんて一度もない。最高なみんなだからこそ、生きていてほしいんだ。きっと、また生まれ変わってみんなのところに会いにいくよ。」


 もうこれ以上みんなの言うことを聞いていたら、私の決意が揺らいでしまいそうだ。もう、みんな諦めてくれ。これ以上みんなが苦しむ姿を見たくない。



「あと、1時間ほどすれば全て片付くかと思います。」


「そうか。なら、片付き次第民衆をまた呼んで、処刑を今度こそ行おう。この処刑は見せしめにしないといけない。と王様に言われたから。」


「なんか。また、北東の方から音が聞こえませんか?」


「気のせいじゃないか?いくらなんでも、もうあいつを助けるような物好きはいないでしょ。」



 灼炎の兵士が言うように、私が北東を見ると、


「てんてこ舞衣ぃ。助けにきたぞー。」


 この声は!そうか。やっぱり生きていたのか。慶護。けど、周りにいるのは誰だ?



「なぜかは分かりませんが、どうやら、結巾の軍勢もここに攻めてきました。」


「どういう風の吹き回しだ?あの盗賊どもが一国王の味方をするなんて聞いたことがないぞ。しかも、数が多くないか?もしかして、全国各地から集めてきたとでもいうのか?」


「おそらく、20万人ほどいるかと思います。たしかに数は多いですが、ほとんどが農民出身で一人ひとりは弱いので、蹴散らせば逃げていく者もたくさんいるでしょう。」


 結巾の軍勢が戦いに加わったが、灼炎の兵士が言っていたようにどんどんなぎ倒されていった。こうやって見ると、灼炎の段違いな強さがよく分かる。

 そして、それに食らいついているみんなもよく今まで鍛錬してきてくれたなと思うとなんだか胸が熱くなった。しかし、灼炎の強さを感心している場合ではない。このままではみんなが無駄死にしてしまう。


 やっぱり、この戦いに希望なんてない。灼炎と戦ってはいけない。これが世の真理だ。


「もうみんな分かっただろ。こんだけの人数が来ても灼炎には勝てない。もうだめなんだ。もう無理なんだ。だから、諦めてくれ。

 今の隼翔の国の軍を構成しているのは、ほとんどが元々私の家臣じゃない。元々、樹さんに仕えていた人や、蒼天の国から来てくれた方。それに、樹さんや旬さんは、私と同じで平和思考だ。

 だから、私じゃなくてもいいじゃないか。もう疲れたんだ。もううんざりなんだ。だから帰って生きててほしい。」


「てんてこ舞衣。何言ってんだ。みんなお前の声が小さくて聞こえなかったって。それに陽菜とはまた会う約束したんだろ。こんな、バッドエンドみたいな終わり方したら、みんな悲しむぞ。一緒に帰るぞ。舞衣。」


 もうダメだ。さっきまでは生きることを諦める決意が固まっていたのに、なんでこんなに生きたいと思ってしまうのだろう。きっと今まで私には覚悟がなかったんだ。みんなの命を預かる覚悟が。


 でも今はもうどうすればいいか、答えは知っている。慶護がみんなが教えてくれたから。でも、やはり戦況は灼炎が有利だ。どうやって、私はここから逃げ出せばいいんだろう。そう考えていた時、


 うわぁー!


 私の横にいた灼炎の兵士がやられた。


「舞衣様。助けに来ましたよ。」


「シゲー!!」


「しー。」


「ごめん。でも、どうしてここまでこれたんだ?」


「俺がこんな無謀な戦い方すると思いますか?それに、灼炎の城は知り尽くしてますから。」


「あぁ、そっか。」


「とにかく、逃げますよ。それと、この刀、景泰からです。やっぱり、あなたに使ってほしいと言っていましたよ。今は別の刀で戦っています。」


「そうか。ありがとう。」


 私とシゲはシゲが用意していた馬に乗って逃げ、シゲがみんなに逃げる合図をしたので、戦っていた者も逃げる余裕ができ次第逃げ出した。


 その時急にドーン!と大きな音がした。何かと思って見たら、全身鉄の鎧で覆われた新たな軍勢がぞろぞろと来た。


「シゲ。あれはなんだ?蒼天や結巾の他にも味方がいるのか?」


「いや、知りません。」


 シゲも知らないのか。どこの誰だろう。それにしても、すごく身長が大きいし、あんなに重そうな鉄の鎧で、あんだけ動けるなんてすごいパワーだな。

 あれ、もしかして、これが沼田の言っていた外国か?そう思った時には、鉄の鎧のやつらは、周りにいた灼炎の兵士を次々となぎ倒した。もう、とにかくやばいと思ったので、みんなに


「逃げろー。」


 と言って私達は逃げた。


 灼炎の兵士も鉄の鎧の軍勢の強さに驚いたのか、私達との戦いをやめて、鉄の鎧の軍勢との戦いに集中した。ある意味で私達にとっては、逃げる大チャンスだったので、ラッキーとは思ったが、鉄の鎧の軍勢が本格的に灼炎と戦い始めると、騒然とした。


 数で言えば少ないが、鉄の鎧をまとっているため、刀の刃が通らない。だから、無敵なのだ。


 きっと、私達、日本人があんなのを身につけても、そもそも重くてたいして動くことができないだろう。しかし、あんだけの恵まれた体格だからか、ある程度素早く動けている。


 この無敵の鎧をまとった軍勢をどう倒せばいいのか。それを考えないと次にやられるのは私達かもしれない。


 とにかく、急いで隼翔に向かった。もしかしたら、隼翔でも同じように来ているかもしれないから。


 今回の灼炎軍 VS 隼翔、蒼天、結巾の戦いは、舞衣が処刑されようとしていて、助かるはずもない状況から、なんとか助かったので、「万死の戦い」と呼ばれる。

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