8ヵ国同盟編
第20話 軍師(1)
父との修行を終えた私は、旬さん達が隼翔に残した蒼天の国の者のことを、どう呼ぶか考えていた。だって、じゃないと、毎回毎回、「旬さん達が隼翔に残した蒼天の国の者」と呼ばなきゃいけないのは面倒だからだ。
それで、蒼という漢字は、草とかがあおいという意味がある。そして、天は空の意味がある。だから、ブルースターズと呼ぶことにした。
まあ、そんなことは別にどうでもよくて、旬さん達が帰った次の日から、ブルースターズも入れて、私達と一緒に訓練を行い、皆を鍛え上げることにした。
これからは、蒼天の国と同盟を結んだから、昨日の渇辣の国みたいな比較的小さい国であれば、隼翔に攻めたら蒼天にけんかを売ったようなもんだから、隼翔に攻めてこないだろう。
しかし、7大国のように蒼天の国と対抗できるくらい大きな国であったらどうだろうか。むしろ、7大国の均衡を保つためにも、新興勢力である隼翔を潰しにくる可能性もある。
だから、被害を最小限にするためにも、強くなるべきだし、兵のほとんどがブルースターズなので、統率がとれるようにもしないといけない。
実際訓練をしてみると、さすがは7大国蒼天。平均的に能力が高い。ブルースターズが国の中でどれくらいの強さなのかは分からないが、少なくとも今の私達にとっては、このブルースターズから吸収するものがたくさんある。
だから、昨日までは隼翔の国の中で一番強かった者でも今、他に強い人がいるのなら、変なプライドは全部捨てて教えてもらうことにした。
そんなさなか、私と慶護、山本、杉崎、笠恒(かさがきはブルースターズの1人)の5人はある計画を進めていた。
それは、灼炎の国に乗り込むことだ。え?は?ふざけんなよ!って思うかもしれないけど、これには理由がある。
さっき言ったように、特に7大国は気をつけたい。その中でも灼炎の国は最近いろんな国に攻めていることや、隼翔の国の近くの国であるため、一番危険なのだ。
特に蒼天の国とは長年戦い続けているライバル国だ。まるで、信玄と謙信のように。
でも、なんで灼炎に乗り込む必要があるの?って思うかもしれないけど、敵国の内情を詳しく知ると、戦では有利だからだ。情報戦というやつだ。
ちなみに顔バレ対策はバッチリだ。私以外のメンバーはそもそも顔を知られていないと思うし、私は化粧で変幻自在なので、大丈夫だ。ということで、商人を装って、難なく灼炎の国に入り、後は各自で情報収集することにした。
***
数日後、私は道端で人にぶつかってしまった。つい転んでしまって、痛っ。と思って前を見てみると、灼炎の兵士のようだったので、目をつけられたらやばいと思って、すみません。と言って、立ち去ろうとすると、
「待って!」
と言われたので、これは殺されるかもしれないと思って走り出すと、
「京子さん。待ってください。」
と言われて、え?と思って私は足を止めてしまった。
「京子さんですよね?あれでも若い?」
「あの、京子というのは私の母の浅霧京子のことですか?」
「うん。ってことは君はその子供だね。ちょっとここだと人もいるから、どこか違うところで話そう。」
そう言って、なぜか母のことを知っている30代くらいの男性に私は着いて行き、人気のない路地裏で止まった。
「ここなら、人もこないし大丈夫だろう。それで、自己紹介が遅れたけど、俺は高村成明っていう者で、元々波流の国の軍師をしていたんだけど、色々あって今は灼炎の国で軍師をやってるんだ。それで君は。」
「私は浅霧舞衣といいます。今は隼翔の国の国王をしていて、少し灼炎の国の調査を、ってこれしゃべっちゃだめだったかも。」
「あははは。やっぱ、本当に明正さんの子供なんだね。少し抜けているところとかね。色々話したいところだけど、一つ忠告をしておくけど、もうはやくこの国から出たほうがいい。
今は恩のある方の子供だから、君を傷つけることはしないけど、立場上そんなことも続けられない。
それに、これは機密情報だから特に君に言うことは本来あってはならないだろうけど、君たちの国隼翔に灼炎はいつか攻めることはもう決まっているよ。それがいつになるのかは分からないけど、こんなところにいては守るものも守れないよ。
俺だってかつてはそんなモノもあったけど。今は関係ないね。とにかくはやくこの国を出てくれ。頼むから。」
「それを決めるのは私です。あなたに何があったのか知りませんが、私の仲間に手を出すようなことがあれば、どんな人であってもただじゃおきませんから。」
そういって私は走り出した。でも、なんで私は少しキレているのだろう。とにかく、今はみんなと会って情報を共有しよう。
いつもみんなと落ち合うことになっているアジト的な場所に行くともうみんなすでに椅子に座って待っていた。
「みんな、どうだ。今日は収穫あったか?」
「舞衣様が元気よくそう聞くということは今日は何か収穫があったんですね?」
「よく分かったな。杉崎。」
「だって、いつもはめっちゃ元気なさそうに収穫は?って言ってますよ。舞衣様は、顔に出過ぎですよ。」
「ああ、そうか。そういうこともあるよな。でも、今日は心なしか、みんなもいつもより元気そうじゃないか?」
「お、よく気づきましたね。大収穫があったんですよ。この国の実情が分かる。」
「それで、どんな情報だ?」
「実は灼炎の国は裏で操られているんですよ。それが、怪しい占い師?的な人が王に助言していて、そいつの好き放題らしいんですよ。ちなみに、そいつの名前は貝取真っていうそうです。」
私は、なんか聞いたことがある名前だなと思ったが、それ以上に気になったことをみんなに聞いた。
「でも、なんで灼炎の王様は、そんな怪しいやつの言うことを聞いているんだ?」
「それがですね、かなり昔からその占い師は有名でよく予言を当てていたそうです。それである時に国で反乱が起こることをこの占い師が予言して当てたそうです。
しかも、この占い師のおかげで王はなんとか生き延びることができて、それでこの占い師を家臣として用いるようになってから、始まってしまったのです。
元々は灼炎の国は蒼天の国と何度も戦っていたとはいっても、他の小さい国を侵略するほどではありませんでしたが、この占い師が政治の実権を握るようになってからは、穏やかだった国もそうではなくなってしまいました。」
「じゃあちょっと待って、波流の国をやったのもそいつのせいなのか?」
「はい。そうです。」
私は怒りで拳をぐっと握ったが、そんなことをしている場合じゃないので、自分の気持ちをグッっとこらえて、自分の情報も話し始めた。
「私の情報だが、灼炎が隼翔にいつか攻めるということが決まっているらしい。」
「え?本当ですか?」
「おそらく本当だ。だって、この情報は、元父の家臣であった者で、今は灼炎の国に仕えている高村成明から聞いたからね。」
「高村成明だって!あの波流の国の裏切り者ですか?」
「裏切り者なのか?」
「そうです。あいつは、ある時の戦いで灼炎に負けた時に、灼炎に降伏して波流の国を裏切ったんだ。」
「まあ、それは仕方ないんじゃないか?だって、降伏しなければ殺されていただろう?」
「明正さんにあんなに気に入られて絶大なご恩があるというのに、裏切ったんだから、許せないです。」
いつもは優しくしゃべる杉崎が力強く高村成明のことを非難しているのを見て、この時、私は改めて戦国時代というものを思い知った。それは、死ぬことになるとしても忠誠の方が大事だというのが当たり前だということだ。
でも、高村成明が話している時のことを思い出すと、何かわけがあるんじゃないかと直感的に思った。
「ちなみに、軍師としてのそいつの素質はどうだったんだ?」
「正直、天才です。波流の国が小さいながらも存続してきた理由の一つと言っても過言ではありません。もちろん、遼源の国との同盟もその大きな要因ではありますが、同盟を結ぶ以前から、波流の国は戦では負けたことがありません。
ある意味では遼源との同盟を結べるようにしたのは彼のおかげとも言えるでしょう。それくらいの人間です。ですから、高村を手にした灼炎は今天下統一に一番近い存在とも言えるでしょう。
ですが、なぜかは分かりませんが最近は灼炎は戦はしても力押しが多いというか、軍師である彼らしくない戦法で戦っています。」
山本は杉崎と違って、高村成明に対してたいした非難はしていなかった。だから、そこまで悪いやつでもないのかもなと思って、
「そうか。そんなにできるやつなのか。みんなには納得してもらえないかもしれないが、私に少し考えがある。」
「どんなお考えですか?」
「高村成明を仲間にしたい。」
「えー!いくらなんでも、それは無理じゃないですか?それに、その人波流の国を裏切ったんですよね?一度裏切った者は何度だって裏切りますよ。」
「私はどうしても、高村を仲間にすることには反対です。私はもう主君を失いたくありません。」
杉崎はそういって、本当に高村成明を仲間にすることが嫌だという意思表明なのか、部屋を出ていった。
「杉崎はああ見えても、かなり明正さんのことが大好きですからね。」
「ここで仲間割れみたいになるのは避けたいから、高村成明を仲間にするかはどうかは、もう少し考えるとするよ。」
***
翌朝。
それから、私は情報収集をまだ続け、そしてみんなには私の考えたある作戦を実行するために材料など諸々の準備を進めた。
しかし、いくら高村成明の過去のことについて聞きまわっても誰も知る人はいない。むしろ、最近私が聞きまわっていることがそろそろ灼炎の者に知られてしまうかもしれないので、最後の一人と思って、聞いてみた。すると、
「高村さんの過去か。知らないな。でも、あの人も大変だよな。年老いた両親がいるし、それに奥さんが13年くらい前に亡くなってるらしいし。」
「その奥さんのことについてもう少し知ってることはないですか?」
「うーん。そうだなぁ。たしか、波流の国に攻める前に奥さんが亡くなったみたいなことを聞いた気がするな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
なんとなく、情報は掴めてきたが、やっぱり確信には至らないので、本人に聞いてみることにした。
私は情報収集の中で得た、高村成明が普段いる場所の情報から、高村成明を見つけた。
「久しぶり。」
「まだいたんですか?はやく帰っ」
私はさえぎるように言った。
「あなたの奥さんは13年前に貝取によって殺されたんじゃないですか?」
「なんでそれを」
「それに、あなたは今は両親を人質にされて、脅される形でこの軍師をやっている。違いますか?」
「...」
「そして、昔あなたが波流の国に仕えていた時に負けて灼炎の国に仕えるようになったのは、何かわけがあったんですよね?」
「お前に俺のなにが分かる。」
「正直分かりません。でも、あなたが波流を裏切ったわけじゃないのは分かります。だって、この前私にあった時に心から喜んでいたでしょう?」
「...」
「もう、時間がないので、あなたに伝えたいことだけ伝えます。私達は明日、貝取を倒す。それともう一つ、私はあなたを仲間にしたい。返事は明日。」
それだけ伝えて、私は逃げるように帰った。
***
そして、次の日の深夜。作戦は決行された。
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