第20話 軍師(2)

 そして、次の日の深夜。作戦は決行された。


 ちなみに、なんでこんなことをしかもこの人数しかいないこのタイミングでやるのかだけ説明すると、灼炎が隼翔に近いうちに攻めてくることが決まっているのは高村成明の話で分かった。

 だから、今灼炎が打撃を受ければ体制を立て直すのに時間がかかり、きっと隼翔を攻めてくるまでに猶予ができる。その間に準備すれば、今よりかはマシになるだろう。


 それに、私の考えたこの作戦なら、むしろ人数が少ない方が逃げる時に逃げやすくいい。


 さらに、今はちょうど国王やその重臣などがこの王城を離れて、みんなで将軍の加藤重秀の病気の見舞いに行っていた。

 そして、今、この灼炎の王城にいる重臣は、貝取と高村の二人だけだ。仮にこの事態を王に連絡されても、私達が逃げるだけの時間は稼げる。そのため、作戦は今日決行することになった。



 まず、灼炎の王城に油と酒をたくさん仕掛けておいた。これは、私達が商人としてこの国に来て、格安で王城の者に売ることで、下準備を済ませておいた。


 そして、杉崎と笠恒の2人組が、おそらく油と酒を置いてあるであろう、厨房に火を放った。すると一気に火が上がった。王城は灼熱地獄となっていて、黒い煙がモクモクと天高く立っていた。

 それに気づいて起き上がった兵士達が急いで逃げ出していて、溢れ出した人々で王城は一時混乱になった。


 その間私と慶護は火が上がった厨房とは正反対に位置している、貝取の寝室に向かっていた。

 そこは、王や重臣などだけが入ることを許される5階建ての豪勢で大きな建物で、普段は厳重な警備をしている。

 だが、今日は貝取真と高村成明しかいないので、警備も手薄で、しかもさっきの火事によって警備も消火に努めるためにいない。

 なので、簡単に侵入することができた。


 念のため慶護を外に待機させて、誰かがきたら呼んでもらうようにした。


 そして、私は建物に入り建物中を偵察していると、最上階の5階の縁側で、貝取が火事を見ながら「祭りだー!」と叫んで楽しんでいるようだった。だが、私が入って来たことに気が付き一気に顔がこわばりだした。


「なんなんだ。お前は。侵入者か?」


「ああ。侵入者だ。」


「何しに来た?」


「もちろん、お前を倒しにだ。」


「ん?お前、女なのか?チビだし。チビが俺のことを倒すだと?」


「私はチビなんかじゃない。私には浅霧舞衣という名前がある。」


「なんか聞いたことある名前だな。女。浅霧。あ、そうだそうだ。あの弱小国だ。殺されるとさっきまで思っていたが、安心したわい。弱小国の女一人くらい簡単にひねり潰せるわ。」


 そして、貝取は刀を持ちながら、素人のように、刀を振りかざしながら走ってやってきたので、かわして軽く頭を蹴ると思いっきり倒れた。一応刀は危ないので、外に放おり投げておいた。この音を聞いてか、高村成明がやってきた。


「ちょうどいいところに来た。高村。こいつをやっつけろ。」


「...」


「何をしている。はやくしろ。」


「俺にはできません。」


「なぜだ。この俺を裏切るのか。お前の両親の命は俺が握っているというのに。」


 高村成明がうつむき、鞘をぎゅっと握りしめていた。


「やはりな、貝取。お前みたいなやつはそういうことをするだろうと思ったよ。でも、もう遅いよ。高村成明の両親の安全の確保は私達がもうしてるから。」


「それは、つまり父と母はもうこの国を出ているということですか?」


「そうだ。」


 高村成明が今まで繋がれていた灼炎との呪縛から解き放たれ、安心したのか手をついて、


「本当にありがとうございます。」


 と言いながら泣いていた。


「ところで、貝取。私達になにか言うことはないのか。」


「なんだ?!お前らに言うことなんかないぞ。」


「そうか。それなら地獄に行って、罪でも償え。」


「できれば、こいつを殺るのは、俺にやらせてください。」


「だめだ。私はこいつを殺すつもりはない。」


「なんでですか?こんなクズ野郎を助ける必要もないじゃないですか。私は明正さん、それに私の妻の命、私の大切なものを傷つけたこいつのことをどうしても許せない。」


「だめだ。正直私もこいつのことは殺してやりたくてしょうがない。でも、私怨で殺すのはいけないと思う。もし、こいつを殺したいのなら、こいつを殴りたいのなら、その怒りを全部私にぶつけろ。気が済むまでやっていい。ただ、こいつのことが憎くて、それで攻撃するのはだめだ。」


「そういう甘いところは、明正さん以上ですね。まあ、そういうのならいいですよ。貝取を殺すことは諦めます。」


 高村成明が決断したところで、私は貝取を縛り上げて、隼翔の国まで持って帰るために荷物の袋に入れて背負った。そして、この作戦の上で一番の目的を達成するために、聞いた。


「それで、高村成明。仲間になるか?」


「もちろんです。一生ついていきます。」


「よーし。それじゃあ、仲間も増えたことだしあとは帰るだけだ。」


 すると、外から慶護が来た。


「やばい、誰か来たぞ。」


 慶護がそう言ってから、少しして、


「貝取様。大丈夫ですか?外に刀が落ちていましたよ。」


 と言う声が部屋の外から聞こえてきて、その後、部屋のふすまが開いた。部屋に入ってきたのは警備の者で、火事の要件から帰ってきたようだった。


「高村様とあとの2人は誰ですか?てか、貝取様を背負ってる?え?どういう状況ですか?」


「こいつらは裏切り者と侵入者だ。お前は俺のことをさっさと助けろ。」


 やばい。ここでさっき安全のために捨てた刀のせいで、ここまで警備の者が入ってくるとは。それに、貝取の顔が少しだけ袋から出ていた。私は貝取を気絶させて、貝取の入っている袋を今度こそしっかりと閉じて、


「とにかく、逃げよう。」


 そう言って、目の前の警備の者を簡単に峰打ちして建物を出た。


 すると、外にもこのことが伝わっていたらしく、逃げ回ることになった。ただ、みんな火事のせいか武器を持っている者が少なかったので、逃げるのも容易かった。


 それに、だいぶ行くと、もうそこまでは私達の噂は届いておらず、あとは関所を抜けるだけだ。高村成明は顔がバレるので、私の化粧道具が入っているポーチを渡して、


「関所までに化粧して。」


「え!?そんなのしたことないですよ。」


「まあ、いいから。少しでも別人だと思われればいいんだから。」


 私達3人は関所に向かって走りながら、一人は化粧をして、一人は荷物を持ち、一人は手ぶらで、


「おい、慶護。お前だけなんも仕事してねぇじゃねぇか。この貝取とかいう荷物持てよ。」


「お前が貝取の刀なんか外に捨てるから厄介なことになったんだから、お前が持てよ。それに行きは俺めちゃくちゃ荷物持たされて、その時はお前がめっちゃ楽してただろ。」


「...」


 私が言い返す言葉を考えているうちに関所に着いた。


 関所では夜間に、しかもこの火事のタイミングというのもあって、あとついでに、化粧によってできた真っ白の高村成明の顔のせいで、少し怪しまれたが難なく通り過ぎることができた。


 そして、馬をおいておくために作ったアジトには、情報収集が終わってからはずっとアジトにいて馬に餌をやる役をしていた山本とさっきの作戦で火を放つ方の役だった2人組ももういた。

 私達が来て、帰ることになったが、馬の数と人の数が行きと帰りで違っていたので、じゃんけんで負けた人が高村成明と一緒に乗ることになって、みんな裏で相談していたかのように、私だけグーでみんなパーだった。


 仕方なく高村成明と二人で乗ることにしたが、馬を走らせて少しした頃、なんだか国境の方がうるさい。よく見てみると、灼炎の軍勢がぞろぞろと馬に乗って走ってきている。しかも、よく見てみると灼炎の王とその重臣達だ。


 おそらく火事を見て駆けつけたのだろうが、もう来たのかよ。早すぎる。距離的にはかなり離れていて、このまま頑張れば隼翔まで逃げ切れる。


 でもここからでも灼炎の王だと分かるくらい気迫がすごい。もしかしたら追いつかれるんじゃないかという不安が心を締め付ける。というか、私のところだけ私と高村成明と荷物の貝取で3人乗りになってるんだけど。


 今さら気付いても遅かったので、とにかく走り続けた。




 かれこれ20分くらい経っただろうか。


 追手との距離はあるが、先程までの余裕はなくなってきた。灼炎がここまで深追いするとは思わなかったから、最初は逃げ切れると思っていたが、よほど私達が貝取を誘拐したことを王が怒っているのか、どんどん迫ってくる。


 ここで全員が同じルートで逃げていると全滅するかもしれないので、散らばって逃げることにした。集団では村などに逃げ込んだ場合にばれやすいが、一人であれば村に溶け込めることができる。


 私と高村成明は顔ばれしてるから、村に溶け込めない。


 だが、もともと二人が乗るために、一番強くて速いやつを選んだので、そのまま隼翔まで逃げることにした。


 私の方向だけなぜかみんなの方よりも多くの人が追ってきているような気がしたが、なんだか高村成明の言う通りに逃げているとだんだんと追手の数も減ってきた。


 例えば、途中二手に分かれている道があった。その時、とっさに進んでいく道に高村成明がハンカチを落とした。


「なんで、今わざわざこっちに進んだのを知らせるようなことをしたんだ?」


「敵は罠だと思って、もう一つの何も落ちていない方に俺たちが進んだと読んで行くでしょう。特にこっちの道の方が隼翔には近いようですから、なおさら敵は罠だと思うでしょう。」


「なるほどね。頭いいなー。」


 実際に敵はその罠に引っかかったようだった。他にも色々と頭を使って、私達2人と一人(貝取)はなんとか隼翔にたどり着くことができた。


 今回の舞衣達の起こした騒動は占い師の貝取真を倒し、誘拐したので、「占伐革命」と呼ばれることになる。

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